【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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凱旋編

7.親善大使のティアラ

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「兄さ~んっ」
 上から降ってきた声に、エディスたちは弾かれるように顔を上げた。
「エド……ッ!」
 フェリオネルの操縦するドラゴンに騎乗しているエドワードが手を振っていた。その傍には、一角獣を駆るレイアーラの姿もある。
「衣装替えをするって言って、抜けてきたんだ。だから、早く!」
 慎重に地面に立ったエドワードが苦痛に顔を歪めて、傍らのフェリオネルの胸に手を突いて寄りかかった。
「エドワード様、無茶をなさらないでください」
 手を握ってきたフェリオネルに、青白い顔で振る。だがエディスが駆け寄っていくと、泣きそうに顔を歪めて手を広げた。
 首に抱き付いてきたエドワードに、エディスは破顔して彼の背中を撫でる。抱きしめ合う二人を手を握りながら見ていたフェリオネルにも顔を向け、「フェルもお疲れ様!」と労いの言葉を掛けた。
 だが、その言葉を聞いた途端にフェリオネルが酸っぱいものでも食べたような顔になった。エドワードの手を握って体を離すと、エドワードの首に包帯が巻かれていることに気が付く。
「なんだこれ!?」
 驚いて上から下に見ていくと足首にも巻かれていて、うわっと叫ぶ。
「まあっ、痛そうですわ……どうして黙っていましたの」
 後ろから覗き込んだレイアーラがそう言うと、エドワードは「これくらい」と強がる。けれど、彼女は目を閉じて首を振った。
「皆さま、私の周りに集まってくださいませんこと」
 神秘的ともいえる彼女の様子に、皆は顔を見合わせながらも集まってくる。
「私では完治は難しいかもしれませんが……神官の真似事くらい、できますのよ」
 侮らないでくださいなと言った彼女の周りに、金色の光が浮かび上がる。両手を高く掲げて、魔力を弾くように放出した。
【神聖魔法・神の息吹】
 体の中に入ってきた魔力が、痛みを根から取っていく。格段に和らぎ、
「民の前で疲れた顔は見せられないでしょう。いつでも頼ってくださいな」
 私は皆のお姉ちゃんなんですから! と胸を張るレイアーラに、エディスたちはなんのことかと視線を交わす。だが、レイアーラはどうしてそんな顔をするのかと頬に手を当てて首を傾げる。
「私の勘違いではないと思うのですけれど……エドワード様、私になにか言うことはありませんこと?」
 問われたエドワードは、暫し瞬いて――くすくすと息を漏らして笑った。
「……僕は、今度こそあなたの義理の弟になれそうだよ」
 エドワードの返事に、レイアーラはにっこりと誇らしげに微笑んだ。そしてフェリオネルの腕を取って、良かったですわね~と華やいだ声を上げる。
「私、とぉっても嬉しいですわ!」
 なんのことかと頭に疑問符を浮かべていたエディスも、「あ」と声を出す。
「え、は!? お前ら、え~~っ!? マジかよ!」
「北部でなにがあったって言うんだよ……」
 呆れたようにレウが息を吐き出すが、エディスは嬉しくて仕方がなかった。だが、近寄ってきたレイアーラに両手を握られると、恥ずかしさからキリリとした表情を取り繕ってしまう。
「ね、ね、エディス! あなたも私をお姉ちゃんと呼んでくれるでしょう?」
 お願いお願いと迫ってくる彼女に、誰かの面影を感じて――エディスは、「分かりましたよ、お姉様」と眉を寄せて苦み走った笑みになる。
「もう。私には素っ気ないのは変わりませんね。寂しいですわ」
 腕組をして頬を膨らませるレイアーラに、彼女に対して誤解をしていたのではないかという気持ちが膨らんでくる。
「シルクが、好きで……っ、あなたが似ていなかったらと思うと素直になれなくて。申し訳ないことをしました」
「気にしていませんわ。だって私たち、これからいくらでもお互いを知れますもの」
 残酷で、けれどあっけらかんとした明るさに胸が空くようだった。エディスは片足を引いて膝立ちになり、片手を彼女に向かって差し出す。
「どうか、俺に力を貸してくれませんか」
 レイアーラは瞬きをして、春の花のように輝く笑顔を見せた。
「ええ、喜んで! 私、そのつもりで戻ってきましたのよ」
 触れた指先から光が放たれ、頭に【第四の賢者――レイアーラ・ティーンス】という声が響く。
 目を開けると、レイアーラの頭には花の意匠を施されたネックレスが一周していた。額に垂れ下がった涙型のダイヤが、彼女の冴え冴えとした青の瞳によく似合っている。
「これで臣下九人、勢揃いだな」
「エディス様、ロイさんはどちらに?」
「というか、他は誰を選んだんだ」
 どうやってボステルクの領主まで引きずり出してきたんだと、感心ではなく呆れている様子のシュウに苦笑いを浮かべる。
「ロイは解雇。他の奴は西部軍と一緒に来るよ」
 フェリオネルはええっと驚いたが、すぐになにかあったのだと切り替えて「分かりました」と頷いた。
「西部軍って……一体、誰を誘い込んだんだか」
「すぐに分かるって。それより、準備をしないと」
 エディスがそう言うと、「お待ちしておりました」とエドワードが魔法で喚び出したキリガネが持っていた五つのスーツケースを地面に下ろす。
「こちらにお着換えください」
 そう言って彼がパンパンと手を叩くと、どこからともなくエンパイア家の侍女や侍従が足音もなく走ってきて、それぞれのスーツケースを開ける。
「エディス様とレウ様はこちらの車へどうぞ。シュウ様もです」
「レイケネス様はこちらの馬車へ!」
 さらには馬車や車が運びこまれ、エディスたちは驚いている間もなく誘導された。中に入ると、即座にメルサンや侍従の手で着替えが行われ始める。狭い車内をものともせずに複雑な構造の服や飾りを付けていく。
 着替えが終わったシュウが運転席に回り、最新型らしい車の屋根を開く。エドワードをドラゴンの背に載せながらフェリオネルが叫ぶ。
「エディス様、準備はよろしいですか。ここから先は常に国民の目があると思っていてください」
 カメラが回っていると聞いたエディスは、足を組んで車の窓枠に肘を掛ける。疲れているはずなのにきめ細かな美しさを保つ肌に手を触れて、嫣然と微笑む。
「俺を誰だと思ってんだ。外見だけなら一級品、だろ?」
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