【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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番外編:どこだこの部屋!?

12.野蛮高位

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「よしよし、頑張ったね」

 えらいえらいと頭を抱きかかえられ、撫でられる。
 すると顔にもっちりとした感触で包まれ、エディスは目をまん丸くさせた。

「うわ、やわらか……」

 レイケネスは確かに女性器を持つが、身体的には男性の面が強い。
 胸が大きいのも脂肪ではなく筋肉がついているからなのだが、鍛えられているためか力を入れていない限りは非常に柔らいのだ。

「王子、セクハラはいただけないなぁ」

 頬を抓られた後で「まあ君になら構わないけど」と頭を撫でられたエディスは、レウとはまた違う匂いに目を閉じて擦りつく。

「おい。悪いな、すぐ引き離すから」

「いいや、これくらいいいさ」

 友だちだが、弟みたいにも思ってるからねと。
 頭上ではなんとも和やかな会話が行われているというのに、乱暴に首を掴んで引っ張り上げられた。
 エディスは首が締まって、ぐえっと呻く。掴んでいる腕を叩いて待ったをかけた。

「私のレイケネスに触るな」

 五十センチ近く身長差がある大男に首を掴み上げられると、足が空を蹴ってしまう。
 瞳孔が開いた恐ろしい形相のネージュに、悪かったと両手を上げて全面的降伏の意を示すと、ようやく乱雑にベッドに放り投げられた。
 下で抗議の声を上げていたレウが受け止め、咳き込むエディスの背を擦る。

 ネージュは不機嫌そうにベッドに腰かけ、腕を引っ張って連れてきたレイケネスを後ろから抱える。

「ネージュさん、大人げないんじゃないかい」

 どれだけの年齢差だと思っているんだいと顎を指でくすぐり、片眉を下げて窘めるレイケネスにネージュは眉間に皺を寄せる。

「この者は君の胸に頬ずりをしたのだよ。年齢は関係ないのではないかね」

「だからといって首を絞めるのはどうなんだい?」

「私は君に集る虫を排除する必要性が」

「彼と俺は友人であり主従関係にあるんだが、それに関してはどう思っているんだい」

 ネージュを問い詰めているレイケネスを横目に、レウがベッドから下りる。
 大モニターの方に表示された次の指令を見に行く為だ。
 険悪な雰囲気から逃れたくてエディスもついて行く。

 レウの腰に手を当てて横から覗きこもうとしたが、その前にレウが握った拳を頭の上から振り下ろしてモニターに叩きつける。
 大口を開けるエディスの前、モニターの画面が割れた。

「れ、れう……?」

 ベッドの上で道徳の授業を始めていたレイケネスも「もうしないように」と言いつけてから近づいてくる。
 一体なんなのかエディスと訊ねても、レウは気にしないようにと言うだけで答えてくれない。

「あまりにふざけた内容だったもんでな」

「だからといって壊すことないだろうに」

 やけに綺麗な笑みを見せる時は怒っている時だと知っているので、エディスは体を引こうとして「ぁ″!?」と叫んだ。体が弛緩して、膝をつく。
 ビリビリと爪先まで痺れが走り、床に倒れそうになった体をレウが抱き留める。

「大丈夫か!?」

 一体なにがと言うレウに「分からねえ」と返す。

「『壊すな』だと。君、この人を怒らせたみたいだね」

 やれやれと両手を上げて首を振るレイケネスは笑って、指を差す。
 エディスはレウに支えてもらいながらも、彼が見てと言う指の先を追った。

『犯す側が、犯される側の腹を殴れ。尚、別のパートナー同士で行うこととする。』

 レウが厭うわけだと失笑する。

「一発殴れば済むことだろ。ネージュ、次の指令なんだけどな」

 軍人であるエディスは多少殴られても意に介さない。
 自分を嫌っているネージュだって本気で殴ったりはしないだろう。

 だが、腕を掴まれたので振り返る。
 そこには神妙な顔をする部下がいて、どうしたと問う。それから、あ……と問題に気が付いた。

 レウが案じているのは、自分だけではなくレイケネスだ。
 彼は格闘技を体得しているが軍属ではなく、極めて一般人に近い存在。それに、なにより彼の腹は――……。

「おい、レイケネスの分も俺が肩代わりしていいか」

 すぐさま『不許可』の文字がモニターに表示され、エディスは舌を打つ。

「レウくん、君は加減を知らないのかい?」

「いや……けど、そういう理屈じゃ」

「ならいいじゃないか。どちらにせよ受けるしかないんだからね」

 やろうと両手を顔の辺りまで上げたレイケネスに、レウは苦々し気な表情のまま「分かったよ」と呟いた。

 ご丁寧に今回は手順があるようだ。
 それを読み取ってからエディスはため息をついてベッドに戻る。

「ネージュ、寝転んだ俺の腰の辺りを跨いでくれ。んで、腹をこう殴れとさ」

 内臓が口から出るような強さで殴ってくれるなよと言うエディスに、ネージュは嫌悪を露わにした。
 それに対し、アンタのレイケネスと違って汚らわしい思考をしてて悪かったなと嫌味を言いたくなる。

 こんな馬鹿げた指令、さっさと終わらせてしまおう。
 寝転んだ体の上に大きな影がかかり、エディスはネージュを見上げた――途端、息が詰まる。

 この男が、人で非ざる者だということを今の今まで忘れていた。

 一つの要塞都市に君臨していた、魔人。
 それも最も長い時代を生きた紛れもない魔法の才を持つ、まさに天に選ばれて人から昇格した上位種だ。

 そんな存在に睨まれては、指先すら動かせなくなる。
 自分が今生かされているのは目の前にいる男の戯れでしかない。指一本で蟻のように潰されてもおかしくないのだ。

「ネージュさん!!」

 己と格上の存在の間に入り込んできた、夜の始まりの色。
 レイケネスに「どうしてそう意地悪をするんだい」と詰問されたネージュは口ごもる。

「いや、今はなにもしようとしていないのだが……」

「怖がらせているのなら同じだとは思わないのかい」

 ネージュ相手だというのに、いつになく強い口調だ。
 高圧的に振る舞うことができる男だとは知っているが、それを敬愛している者に行使する姿など今まで見たことがない。
 ネージュの後頭部を手で押さえ、額をぶつけて目で問うレイケネスに上位種である魔人が降参の意を示す。

「私が悪かった、レイケネス。君の慈愛には感服する」

「俺の慈愛ではなく、あなたを処罰しようとしない王子の器の広さを見習ってほしいんだがね」

 おっと、これは俺にも怒っているのかもしれないな。
 ただベッドに寝転がって抵抗をせず、その技量もないことを指摘されたエディスもまた根を上げた。

「助けてくれてありがとう、レイケネス」

「これは当然の行いだよ。けれど、”助けて”の一言くらいは口にしてもいいんじゃないかい」

 特に彼には、と視線の先にいるレウは首を横に振って中止を促す。
 だが、エディスはそれを拒否した。続けておかなければ二度とできない予感がしたのだ。

 抱きしめられるのは終わってからでいい。
 頑張られなければ、褒美とは言わないだろうから。
 レイケネスに退いてもらい、ネージュの腕を掴んで自分の腹に導く。

「まったく、なんと野蛮な」

 虫唾が走ると言って、ネージュはエディスの腹に握った拳を下ろす。
 息が詰まったが、顔を顰める程度の衝撃だった。

 加減する方が難しいとハンカチで手を拭っているネージュに、ありがとうと言うと「感謝をするようなことかね」と嫌悪感をありありと映した顔になる。

 早々にベッドを降りていったネージュを視線で追っていると、レウに抱え上げられた。
 膝の上にエディスをのせてきたレウに大丈夫かと顔を覗きこまれ、シャツの裾を捲られて腹部を見られる。

「これくらい痣にもならねえよ」

 安心するように言うと、ほうと息を継ぐ。
 よかったと頬を包まれるが、一体どんな力で殴ると思っていたんだとネージュの信用のなさに笑った。

 だが、レウはネージュが戦うところを間近で見た稀有な一人だから、仕方がないのかもしれない。
 人智を越えた圧倒的な強さは天災としか言いようがないのだから。
 エディスとて、立場が逆だったならばレウを心配していただろう。
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