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番外編:どこだこの部屋!?
13.過保護な騎士様
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「さて、レウくん」
ぽんと肩に手を置かれたレウは体を硬直させる。
マリオネットのようにぎこちない動作で振り返ると、レイケネスが美しい笑顔をこちらに向けていた。
「俺たちも手早く済ませてしまおう」
「い、いや……それは」
無理だと口にしようとしたが、そんなことは言ってはいけないとばかりに指で唇を辿られて押し黙る。
流し目に、どこでそんな色気を覚えたんだと苦虫を噛み潰す。
「分かりましたよ。ただ、やる前に質問がある」
こっちにと、自分よりも少しだけ背の高い男の肩に腕を回して引き寄せる。
後ろからの圧が強くなり、自分も大概だがあっちはもっと酷いな……と口の端が引き攣った。
「アンタ、本当に妊娠の可能性はないんだよな」
最低なことを口にしている自覚はある。
だが、これは絶対に確認しておかねばならない事項だろう。
「……ああ、安心してくれ」
にこりと微笑んだレイケネスの眉間に若干の皺が寄っていて、すまなかったと謝罪を口にする。
構わないよと言ったレイケネスがベッドに上がり、シーツを膝に掛けた姿を見て、心臓が跳ねた。
まともに見ていられず、視線を逸らしてしまう。裸体にシーツだけでこれだけの色香が出る男というのも珍しい。
空を魔法のドームで覆われている学園要塞で育ったからか、石膏のように滑らかな白い肌に、隆起した筋肉。
自分とて上々の容姿である自覚はあるし、なにより常にエディスがいるせいで審美眼が狂っているはずなのにと目を細める。
「どうしたんだい?」
早く来いと責っ付かれて、躊躇いなくアンタに圧しかかれる男なんてアンビトン・ネージュくらいだと言ってやりたかった。
冷静を保ちながらベッドに上がり、ベッドに横たわったレイケネスの腰を跨ぐ。
軍人と並んでもおかしくない、鍛えられた体が己の下にあるというのは違和感があった。
その、真白い腹に触れる。
「……本当に、大丈夫なんだよな」
これでなにかあれば申し訳がつかない、と脂汗が滲み出てくる。
レイケネスはエディスの友人であり、良き同僚だ。
躊躇するのは彼が自分やバスティスグランのような軍人ではないということだけではない。
レイケネスはエディスとは違い、子どもを望める体だ。
愛するネージュが彼に子どもが宿るのを待ちわびているのも知っている。
「なんだ、君は手加減も知らないのかい?」
「いや、する。するが……」
「それとも、俺がフレイアム嬢よりか弱いと思われてるのかな」
「比較対象に筆頭騎士を上げるのは卑怯じゃないか? けど、フレイアムなら確実にアンタより頑強だ」
うちの筆頭騎士がか弱いはずがないと断言したレウに、レイケネスはしまったと言わんばかりの顔で両の手を上げる。
「なら能力と魔法使用なしのレイアーラ様だと思って丁重に扱ってくれ」
「承知した」
可愛らしい顔をしているが格闘戦のプロフェッショナルである女よりは、聖女と誉高いエディスの姉君を例にされた方が分かり良い。
それでもレイケネスの腹に拳を当てたら気落ちしてきて、肩が下がる。
まだ軍人として日々戦場を一緒に駆け巡るエディスの方が気楽だ。
「レイアーラ様のように扱えと言っただろう。君はレイアーラ様に長い緊張状態を強いるのか? 淑女を甚振るのは趣味がよろしくないな」
笑われ、「……やればいいんだろ」と不貞腐れたような声が出る。
拳を腹に当てるだけでは殴るのカウントに入らないだろうと、皮膚に食い込ませる寸前で速度を落として衝撃を緩めることで調整した。
「いい子だ」
伸びてきた手に髪を梳くように撫でられ、安堵した。
途端、後ろから首を掴んで引き剥がされる。そうなるだろうと察知していたレウはよろけながらも床に降りた。
だが、視界の端で握られた拳を見て顔を顰める。
「ネージュさん、彼を殴るのはなしだ」
だが、即座に冷ややかな声が下から飛んできた。
見下ろしたレイケネスの薄らと紫がかった青の瞳に彼の怒りを感じ取って、レウの方がたじろぐ。
「あなたがそうするなら、俺は彼にあなたを殴るのを許さなければならなくなるだろ。違うかな」
なにが理由であってもあなたに危害を与える隙など与えたくないと微笑むレイケネスに、ネージュは嘆息してレウを離した。
「ありがとう」
説得できたレイケネスは微笑みをネージュに向ける。
そして「それより褒めてくれないのかい」と眉を下げた。
ネージュは些か目を見開くとベッドに腰掛け、レイケネスを後ろから抱きしめた。
彼の肩に頬をのせて目を閉じたネージュが、前に回した手で腹を撫でる。
「……つめたい」
「冷えてしまったんだ。温めてくれたら嬉しい」
穏やかに目を伏せて微笑む彼らに、レウは安堵の息を漏らした。その肩に手がのせられ、見るとエディスが睨んできた。
「なにレイケネスに気ぃ遣わせてんだよ」
「臆病者なんで」
「お前の優しさだってのは分かってるよ」
エディスはレウの顎に唇を押し当てる。
柔らかい感触がすぐに離れていこうとするので、不貞腐れたレウはぼそりと呟く。
「アンタは俺を褒めてくれないのか」
嫌なことを頑張ったんだがと腕を組んで体を傾けると、エディスは踵を上げて首に腕を回してくる。
逃げないようにと背に手を回すと、瞼が閉じられた。
唇に先ほどの柔らかい感触か触れてきて、レウは彼の後頭部を手で押さえる。
「キスが上手になったな」
もう一回してくれと指で口を指すと、エディスは眉を寄せた。
ぽんと肩に手を置かれたレウは体を硬直させる。
マリオネットのようにぎこちない動作で振り返ると、レイケネスが美しい笑顔をこちらに向けていた。
「俺たちも手早く済ませてしまおう」
「い、いや……それは」
無理だと口にしようとしたが、そんなことは言ってはいけないとばかりに指で唇を辿られて押し黙る。
流し目に、どこでそんな色気を覚えたんだと苦虫を噛み潰す。
「分かりましたよ。ただ、やる前に質問がある」
こっちにと、自分よりも少しだけ背の高い男の肩に腕を回して引き寄せる。
後ろからの圧が強くなり、自分も大概だがあっちはもっと酷いな……と口の端が引き攣った。
「アンタ、本当に妊娠の可能性はないんだよな」
最低なことを口にしている自覚はある。
だが、これは絶対に確認しておかねばならない事項だろう。
「……ああ、安心してくれ」
にこりと微笑んだレイケネスの眉間に若干の皺が寄っていて、すまなかったと謝罪を口にする。
構わないよと言ったレイケネスがベッドに上がり、シーツを膝に掛けた姿を見て、心臓が跳ねた。
まともに見ていられず、視線を逸らしてしまう。裸体にシーツだけでこれだけの色香が出る男というのも珍しい。
空を魔法のドームで覆われている学園要塞で育ったからか、石膏のように滑らかな白い肌に、隆起した筋肉。
自分とて上々の容姿である自覚はあるし、なにより常にエディスがいるせいで審美眼が狂っているはずなのにと目を細める。
「どうしたんだい?」
早く来いと責っ付かれて、躊躇いなくアンタに圧しかかれる男なんてアンビトン・ネージュくらいだと言ってやりたかった。
冷静を保ちながらベッドに上がり、ベッドに横たわったレイケネスの腰を跨ぐ。
軍人と並んでもおかしくない、鍛えられた体が己の下にあるというのは違和感があった。
その、真白い腹に触れる。
「……本当に、大丈夫なんだよな」
これでなにかあれば申し訳がつかない、と脂汗が滲み出てくる。
レイケネスはエディスの友人であり、良き同僚だ。
躊躇するのは彼が自分やバスティスグランのような軍人ではないということだけではない。
レイケネスはエディスとは違い、子どもを望める体だ。
愛するネージュが彼に子どもが宿るのを待ちわびているのも知っている。
「なんだ、君は手加減も知らないのかい?」
「いや、する。するが……」
「それとも、俺がフレイアム嬢よりか弱いと思われてるのかな」
「比較対象に筆頭騎士を上げるのは卑怯じゃないか? けど、フレイアムなら確実にアンタより頑強だ」
うちの筆頭騎士がか弱いはずがないと断言したレウに、レイケネスはしまったと言わんばかりの顔で両の手を上げる。
「なら能力と魔法使用なしのレイアーラ様だと思って丁重に扱ってくれ」
「承知した」
可愛らしい顔をしているが格闘戦のプロフェッショナルである女よりは、聖女と誉高いエディスの姉君を例にされた方が分かり良い。
それでもレイケネスの腹に拳を当てたら気落ちしてきて、肩が下がる。
まだ軍人として日々戦場を一緒に駆け巡るエディスの方が気楽だ。
「レイアーラ様のように扱えと言っただろう。君はレイアーラ様に長い緊張状態を強いるのか? 淑女を甚振るのは趣味がよろしくないな」
笑われ、「……やればいいんだろ」と不貞腐れたような声が出る。
拳を腹に当てるだけでは殴るのカウントに入らないだろうと、皮膚に食い込ませる寸前で速度を落として衝撃を緩めることで調整した。
「いい子だ」
伸びてきた手に髪を梳くように撫でられ、安堵した。
途端、後ろから首を掴んで引き剥がされる。そうなるだろうと察知していたレウはよろけながらも床に降りた。
だが、視界の端で握られた拳を見て顔を顰める。
「ネージュさん、彼を殴るのはなしだ」
だが、即座に冷ややかな声が下から飛んできた。
見下ろしたレイケネスの薄らと紫がかった青の瞳に彼の怒りを感じ取って、レウの方がたじろぐ。
「あなたがそうするなら、俺は彼にあなたを殴るのを許さなければならなくなるだろ。違うかな」
なにが理由であってもあなたに危害を与える隙など与えたくないと微笑むレイケネスに、ネージュは嘆息してレウを離した。
「ありがとう」
説得できたレイケネスは微笑みをネージュに向ける。
そして「それより褒めてくれないのかい」と眉を下げた。
ネージュは些か目を見開くとベッドに腰掛け、レイケネスを後ろから抱きしめた。
彼の肩に頬をのせて目を閉じたネージュが、前に回した手で腹を撫でる。
「……つめたい」
「冷えてしまったんだ。温めてくれたら嬉しい」
穏やかに目を伏せて微笑む彼らに、レウは安堵の息を漏らした。その肩に手がのせられ、見るとエディスが睨んできた。
「なにレイケネスに気ぃ遣わせてんだよ」
「臆病者なんで」
「お前の優しさだってのは分かってるよ」
エディスはレウの顎に唇を押し当てる。
柔らかい感触がすぐに離れていこうとするので、不貞腐れたレウはぼそりと呟く。
「アンタは俺を褒めてくれないのか」
嫌なことを頑張ったんだがと腕を組んで体を傾けると、エディスは踵を上げて首に腕を回してくる。
逃げないようにと背に手を回すと、瞼が閉じられた。
唇に先ほどの柔らかい感触か触れてきて、レウは彼の後頭部を手で押さえる。
「キスが上手になったな」
もう一回してくれと指で口を指すと、エディスは眉を寄せた。
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