【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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御曹司編

5.まるで少女のような

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「明日の朝九時に迎えに行くからな」

 片手を上げて元気よく返事をするシルクの頭をミシアが撫でる。周りの護衛もそれをにこやかに見守っている。なにしろ、わんぱく姫の久しぶりの帰還だ。皆心なしか嬉しそうに見える。

「それじゃあ、おやすみなさい」

「はいはい」

 なぜか身を屈めるミシアにエディスとシトラスは首を傾げた。だが、シルクがその肩に手を置き、ミシアの頬に口づけた。続けてミシアの左側に立っているシトラスの頬にもする。

「エディス、おやすみ!」

「……なんで手を掴むんだよ」

 シトラスと逆側に立っているエディスの前まで走って戻ったシルクは、笑顔で手を握った。

「だって、エディスだけ逃げそうだから」

 それはそうだろう。たとえ兄妹(仮)だからといって、人前でこんな恥ずかしいことができるわけがない。だが、両手首を掴んで拘束されていて逃げられそうになかった。

「おかしいだろ、この状況」

「エディスともしたい!」

 断ろうとぐずぐず言っても聞かなさそうなシルクに、エディスはため息を吐く。

「……好きにしろ」

 眉間に皺を寄せて言うが、シルクは嬉しそうに返事をしてエディスの右頬にキスをした。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 ほれ、もう行けとおざなりに指を下に向けた手を振ると、シルクは素直に門の中に入っていく。手を大きく振り、「また明日なー!」という少女にミシアとエディスは手を振り返した。

 だが、口をぽっかりと開けて頬を押さえているシトラスだけはそのままだった。ミシアとエディスはシトラスの様子を見て、視線を交わした。ミシアがシトラスの肩を突き、口を開く。

「惚れたか?」

*** *** *** *** ***

 ぽーっと大きく口を開いて、上の空になってしまったシトラスの手を引いていく。誘導して車に乗せたミシアは、近くだという自宅まで走らせた。
 そのまま家の門を通り抜ける。歩きでは遠いからと言う程の広さの庭に、エディスは見惚れた。

 着いた途端、そこに畏まっていた執事に出迎えられる。
 エディスは家というよりも屋敷と言える大きさの建物を見上げ、呟く。

「大きいな」

「形ばかりだ」

 ミシアは先に我が物顔で歩いていくシトラスの背中をゆっくり押して中に入らせた。次に手を引いてエディスと玄関を潜る。

「し、失礼し」

 緊張した面持ちで言おうとしたエディスの口に、ミシアの指がそっと触れる。見上げると、優しく笑って首を振られた。

「自分の家だと思えって」

「……分かった、けど」

 じゃあなにを言えばいいんだよと気難しい顔になってしまったエディスに、ミシアは苦笑する。撫で心地のいい丸い頭を撫でて、顔を覗き込んでくる。

「ただいま、だ」

「……ただいま」

 言い慣れない言葉をたどたどしく、なぞるように言うエディス。

「おかえり」

 その肩に手を当て、引き寄せるようにして入っていく。シンと迫るように静まり返っている屋敷の中をエディスは見回した。

 ミシアが後は自分でやるから皆を下がらせてくれと執事らしい老齢の男性に声を掛ける。穏やかな笑みを浮かべて一礼をした彼を見送って、エディスは静けさに満ちている家内を見渡す。

「……アンタの家族は?」

 確か自慢の嫁と子どもがいたはずだと記憶から持ち出してきた情報を口にすると、ミシアはエディスの手を引いて歩いていく。

「いるよ」

 玄関のすぐ右側にある引き戸を開け、中に入る。

 電気を点けても薄暗い部屋の中には透明な箱が中央に置かれていて、そこから漂ってくる濃い花の香がエディスたちを包み込む。
 様々な種類の花に囲まれた透明な箱に寄って初めて、それが棺であることに気が付いた。

 手招かれたエディスは、棺の近くに座る。

「えっと……その、可愛い人だな」

 隣で胡坐を掻いているミシアは、エディスの方を見ずに「そうだろ」と目を和ませる。

「俺の嫁だ」

 中に入っていた女性は、可憐と例えるのが一番似合うような人だった。色白のほっそりとした体に純白のドレスを着ている。薄い金色の髪はゆるく巻かれており、全体を淡く光らせるかのように包み込んでいた。

 少女めいた雰囲気の女性を見つめるミシアの横顔をそっと窺う。
 時として作戦時には冷淡とも取れる程の残酷さを持つ男だ。それを忘れてしまいそうになるくらいに、柔らかで温かな微笑みだった。優しさを一つに固めたらこんな表情になるんじゃないだろうか。

「奥さん、どうして亡くなったんだ」

「事故だ」

 事故……と心の中で繰り返すと、ミシアが自分の方を向く。なにも悪いことはしていないのに心臓が跳ねた。

「無理に突っ込んできた馬車に跳ねられてな」

 急激に体温が失われていく。ミシアは事故と言ってはいるが、本心ではそう思っていないのではないだろうか。そんな不安が頭の中を過る。

 エディスが口を開けようとした時、パサリと布の落ちる小さな音がした。
 血相を変えて振り向くと、戸口に大きなくまのぬいぐるみを抱えた幼女が立っていた。
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