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番外編:追憶の銀雪
2.俺が指名手配犯
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「あ、おい! レイヴェン」
名前を呼んで駆け寄っていくと、長い黒髪の男が振り向いた。
けれど、急いでいるのか「なんですか」と片眉を顰められるだけで、すぐに正面を向いて歩いていく。追いかけて、横に並んで見た彼の顔は、心なしか口の端まで引き攣っている気がした。
「これから王宮に向かわなければいけなくて。手短にお願いします」
分かったと応じ、体を寄せてから声を潜めた。
「見つかったのか、王子」
同期の護衛部の中でも、王族マニアで第一王女が彼女のコイツなら詳しいだろうと問う。なのにレイヴェンは目を伏せ、呆れたように微笑みを口にのせた。
「いえ、帰ってこられてませんよ」
そんなはずがない、この国で銀を冠する者は王族しかいないのだから。海を渡ってきたにしたら流暢に話しすぎる。
「俺たち同期だろ、誤魔化さなくても」
「私は誤魔化してはいませんよ」
人の言葉に被せるくらいには動揺しているくせにと言ってしまいたくなる。
「レウが見たのはルイース隊の軍師准尉ではありませんか。彼、銀髪に青い目なので」
十三歳なんですけどと言われ、そのくらいの年だったと肯定して驚いた。
「王子と同じ年だよな」
「ええ。ですが、分からないのです」
俺が見たのは幼少のみぎりに誘拐された王子で間違いない。ただ、それを証明する術がないのだ。
「あの、その話ここでは……」
「あーそうだよな、人に聞かれたら」
「いえ、そうではなくて。あなた、エディス軍師准尉に接触したでしょう」
は? という声が出て、(しまった情報を聞き出さないといけないのに)と思って抑えつける。接触なんかしてねえよと言い返しそうになり、恥ずかしさのあまりに蓋をしていた記憶が蘇ってきた。
あれか……と黙ったレウを見て、レイヴェンが呆れたようにため息を吐く。
「彼に懸想している人は男女ともに多いですし、ルイース隊の人たちもほとんど親衛隊のようになってますので。あなた、今、指名手配されてるんですよ!」
関わり合いになりたくありません。そう言ってレイヴェンに手を突き出される。
「は?」
「あなた、なまじ顔がいいですからね……刺されないように気を付けてくださいね。全く、学生時代からの悪癖を直そうとしないんですから」
それでは頑張ってくださいねと冷たく言い放つと、すげなく背中を向けて早足で歩いていくレイヴェンを「いやっ、おい」と追いかけるが、焦ったように軍服の裾をさばいて歩く彼に撒かれてしまった。
「あの、堅物寮長……クソッ」
レウも直属の上官と約束していた時間が近づいていたので、仕方なくその場を離れていく。
***
「バスターグロスくん、待たせてすまんね」
直属の上官であるサレンダ・デイヴィス准将は柔和な印象の老兵だ。
最近急成長を遂げているルイース大佐やマクアリン大佐と違い、どちらかといえば西の剛将トリエランディアに似た雰囲気がある。
老獪さというか、腹の内を部下にも読ませない飄々とした爺だがレウはこの上官を気に入っていた。
「ちょっと面白いものを見付けて。君にも来てもらおうかと」
笑いながら白い口髭を指先で整えるのは、デイヴィスが悪だくみをしている時の癖だ。苦笑いをしながら、なんなりとと返す。なにしろ、この間命を拾ってもらったのだから。
ルイース隊の軍師准尉が救援に来てくれたものの、山の中で魔物に囲まれて動けなくなってしまった。朝になって軍師准尉の姿が見えなくなっていて慌てて外に出たら、一人で魔物と戦っていたらしく瀕死の状態で倒れていた。
着ていた戦闘服はズタズタになっていたが、魔力を使いすぎて吐いたらしい血が喉に凝っていたのを吸いだしたら息を吹き返したので、さらに驚いたのだが。
佐官か尉官クラスでないと相手できそうにない魔物はすべて倒されていたので、下山して救援を呼びにいこうとしたところでデイヴィスが「おかしいと思ってねえ」とやって来たのだ。
レウが指揮官が亡くなったことを伝えると、デイヴィスはそうだろうねと眉を顰めた。彼の立てた作戦を見て、これは無理だろうと悟ったのだと。
残党を倒して、小屋で後幾何かと思われた仲間も全て回収して軍に連れ帰ってもらえた。
白い顔をしていた軍師准尉もレウが抱えて駆け戻った軍で看てもらうと、折れていた腕もほとんど治っていて軍医も「いつもながら頑丈な子だねえ」と呆れていた。
デイヴィスに報告に行かねばならなかったが、彼が起きるまではとベッド横に椅子を置いて待たせてもらった。
目を覚ました軍師准尉は自分たちがどこにいるのか察すると「おかえり」と笑った顔が、あまりに――……。
「ああ、あれだよ。あれ」
まだやっていたねと言って、ひょっひょと笑い声を立てるデイヴィスの声に弾かれたように顔を上げる。一体、今度はなにを面白がっているのかと思って見た光景に、レウは額に手を当てた。
名前を呼んで駆け寄っていくと、長い黒髪の男が振り向いた。
けれど、急いでいるのか「なんですか」と片眉を顰められるだけで、すぐに正面を向いて歩いていく。追いかけて、横に並んで見た彼の顔は、心なしか口の端まで引き攣っている気がした。
「これから王宮に向かわなければいけなくて。手短にお願いします」
分かったと応じ、体を寄せてから声を潜めた。
「見つかったのか、王子」
同期の護衛部の中でも、王族マニアで第一王女が彼女のコイツなら詳しいだろうと問う。なのにレイヴェンは目を伏せ、呆れたように微笑みを口にのせた。
「いえ、帰ってこられてませんよ」
そんなはずがない、この国で銀を冠する者は王族しかいないのだから。海を渡ってきたにしたら流暢に話しすぎる。
「俺たち同期だろ、誤魔化さなくても」
「私は誤魔化してはいませんよ」
人の言葉に被せるくらいには動揺しているくせにと言ってしまいたくなる。
「レウが見たのはルイース隊の軍師准尉ではありませんか。彼、銀髪に青い目なので」
十三歳なんですけどと言われ、そのくらいの年だったと肯定して驚いた。
「王子と同じ年だよな」
「ええ。ですが、分からないのです」
俺が見たのは幼少のみぎりに誘拐された王子で間違いない。ただ、それを証明する術がないのだ。
「あの、その話ここでは……」
「あーそうだよな、人に聞かれたら」
「いえ、そうではなくて。あなた、エディス軍師准尉に接触したでしょう」
は? という声が出て、(しまった情報を聞き出さないといけないのに)と思って抑えつける。接触なんかしてねえよと言い返しそうになり、恥ずかしさのあまりに蓋をしていた記憶が蘇ってきた。
あれか……と黙ったレウを見て、レイヴェンが呆れたようにため息を吐く。
「彼に懸想している人は男女ともに多いですし、ルイース隊の人たちもほとんど親衛隊のようになってますので。あなた、今、指名手配されてるんですよ!」
関わり合いになりたくありません。そう言ってレイヴェンに手を突き出される。
「は?」
「あなた、なまじ顔がいいですからね……刺されないように気を付けてくださいね。全く、学生時代からの悪癖を直そうとしないんですから」
それでは頑張ってくださいねと冷たく言い放つと、すげなく背中を向けて早足で歩いていくレイヴェンを「いやっ、おい」と追いかけるが、焦ったように軍服の裾をさばいて歩く彼に撒かれてしまった。
「あの、堅物寮長……クソッ」
レウも直属の上官と約束していた時間が近づいていたので、仕方なくその場を離れていく。
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「バスターグロスくん、待たせてすまんね」
直属の上官であるサレンダ・デイヴィス准将は柔和な印象の老兵だ。
最近急成長を遂げているルイース大佐やマクアリン大佐と違い、どちらかといえば西の剛将トリエランディアに似た雰囲気がある。
老獪さというか、腹の内を部下にも読ませない飄々とした爺だがレウはこの上官を気に入っていた。
「ちょっと面白いものを見付けて。君にも来てもらおうかと」
笑いながら白い口髭を指先で整えるのは、デイヴィスが悪だくみをしている時の癖だ。苦笑いをしながら、なんなりとと返す。なにしろ、この間命を拾ってもらったのだから。
ルイース隊の軍師准尉が救援に来てくれたものの、山の中で魔物に囲まれて動けなくなってしまった。朝になって軍師准尉の姿が見えなくなっていて慌てて外に出たら、一人で魔物と戦っていたらしく瀕死の状態で倒れていた。
着ていた戦闘服はズタズタになっていたが、魔力を使いすぎて吐いたらしい血が喉に凝っていたのを吸いだしたら息を吹き返したので、さらに驚いたのだが。
佐官か尉官クラスでないと相手できそうにない魔物はすべて倒されていたので、下山して救援を呼びにいこうとしたところでデイヴィスが「おかしいと思ってねえ」とやって来たのだ。
レウが指揮官が亡くなったことを伝えると、デイヴィスはそうだろうねと眉を顰めた。彼の立てた作戦を見て、これは無理だろうと悟ったのだと。
残党を倒して、小屋で後幾何かと思われた仲間も全て回収して軍に連れ帰ってもらえた。
白い顔をしていた軍師准尉もレウが抱えて駆け戻った軍で看てもらうと、折れていた腕もほとんど治っていて軍医も「いつもながら頑丈な子だねえ」と呆れていた。
デイヴィスに報告に行かねばならなかったが、彼が起きるまではとベッド横に椅子を置いて待たせてもらった。
目を覚ました軍師准尉は自分たちがどこにいるのか察すると「おかえり」と笑った顔が、あまりに――……。
「ああ、あれだよ。あれ」
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