【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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紡ぎ編

1.構内を駆けて

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「ボステルク行きの列車はこっちだ!」

 神殿からほとんど出たことがないというロイの腕を掴んで、駅構内を走る。
 慌ただしく通り過ぎて行く人々を逐一観察しながら、ロイは「すげえ……」と呟いた。エディスの手を強く引いて、「凄すぎでしょ!」と叫ぶ。

「叫ぶな、目立つ」

 後ろに引っ張られたせいでエディスの頭から落ちかけた帽子を押さえたレウが「田舎者じゃあるまいし」と吐き捨てる。

「ロイって中央生まれだよな?」

「あなたもでしょ」

 同郷、同郷と笑うロイに、エディスは苦笑いになった。
 神殿と奴隷市とじゃ育つ環境に雲泥の差があるだろうに。

「っていうか、そういうこと言うってことはレウもこっち来た時はこんな感じだったのか?」

 見るもの聞くもの全てが珍しい時期がこの斜に構えた性格の男にもあったのかもしれない。そう思うだけで面白くなってきて「可愛かっただろうな~」と言うと、レウはハッと鼻で嗤った。

「北部とはいえ、俺が生まれ育ったのはアリステラだぞ」

「あ? ……ああ、そうだな。光の侯爵様の領地は中央にも負けず劣らずなんでしたね」

 言い返すと、レウは驚いたように目を見開いた。そして、声を出さずに”なんで”と口が動く。

(なんでじゃねえだろ)

 レウに惚れているというギジアは、エディスから奪おうとしてきた。
 そんな奴の領地なんて褒められたくないと思うのが男心だろう。

 エディスは全然分かってねえ! と眉尻を上げ、唇をほんの少し尖らせる。すると、目の前に腕が出てきて視線を上げた。

「ひっどいねえ、あの男」

 月のように目を細めて笑う男の口から覗く、白い牙に血の気が下がっていく。

「いや……まあ、ちょっとは」

 エディスは、隠れるように聖職者の後ろに回った。

「ロイ、昼飯買おうぜ!」

「昼飯? うわ、買えるんだ!?」

 そうそう、そうなんだと言いながらロイを引っ張っていこうとすると、レウに「買う必要ねえよ」と冷ややかな声を掛けられた。それにムッとした顔のまま振り返って「なんでだよ」と問う。

「お前が嫌いなだけだろ」

「あんな化石みたいなサンドイッチ、誰が好んで食うんだよ」

 我慢できんのはアンタくらいだと舌を見せたレウに言い返そうと口を開く。だが、彼が手を出してきたので(んっ?)と引いた体を押さえられる。

「だから、なんでアンタは俺から近づくと引くんだ」

 なにもしないと言ったくせに、手を握られて前に引っ張られた。
 帽子を手で押さえたエディスは、これこそ目立つだろと叫ぶように言って床の方に顔を向ける。真っ赤になった頬を見られないが為だった。

 けれどレウは「離したら化石か小麦粉入れた汚水を買いに行くだろ」と苦々しい顔で睨んでくる。

「いいから行くぞ。エドワード様が手配した列車に遅れるだろ」

 お前らもと促されたロイは、人が多すぎて迷子になりそうだと言いレウの上着を引っ張った。

「甘えんな、外交官になりたいんだろ」

 一蹴されて、そんなあとロイは非難めいた声を出す。

「王子は手を繋いでくれたのに」

「馬鹿か、一番最初に格別のご対応に慣れんな」

 もう駄目だとエディスに縋ろうとしたロイを邪険にした。
「ひどい!」と喚くロイを可哀想だと思いつつも、レウの言うことも当たっている。常日頃自分に問いかけていることだ。強くなるしか生きる術はないと。

「頑張れ、ロイ」

 だからこそ励ましの言葉を贈る。
 レウに手を握ってもらって有頂天になっているのかもしれないエディスの鼓舞に、ロイは瞬きをして――頷いた。

「頑張ります!」

「おや、素直」

 ふふっと笑ったギールは「もう無理だと思ったら手を引っ張っていくよ」とフォローを口にする。

「ミューレンハイカ、道外れんな。こっちだ」

 はぐれないようにと列を乱しかけたロイに声を掛けると、「駅、広くない!?」と叫び返した。もう十五分は歩いていると続ける。

「一応、ここが中央軍司令部の最寄り駅だからな」

「ここから各地に派遣されていくもんねえ」

 キャパシティーが大きくないとと言われ、ロイは市民だけでなく軍務の為にも存在しているのかと高い天井を見上げた。
 エディスは(手は初めて繋いだな……)と、レウの大きな手と背中を交互に見つめるばかりいる。

 列車に辿り着いたエディスが漏らした声は「なんだこれ」だった。
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