【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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学園要塞ー中編ー

8.魔法書の魔人

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「それじゃ、頼みましたよ!」

 学生時代の恩師たちにハイデたちのことを伝え、学舎を飛び出す。持っていけ、領主様を頼むと渡された実剣が腰元で音を鳴らす。

 子どもたちが住むボステルクでこんな真似をしやがってと、腹立たしい気持ちを抱えてあちこちで小火が発生している学園内を駆けていく。

 鍵は、一つの場所を強く示していた。
 青白く光っていたのは、訓練室裏にある備品倉庫。レウからするとお粗末な防御シールドを蹴っ飛ばして割り、分厚い扉を横に引いて押し入る。

「うおっ!?」

 すると、すぐ目の前にいた黒髪の男と顔同士をぶつけそうになって仰け反った。忘れもしない、マディ・マーガンだ。
 そのマディが後ろ手に抱えている脚から伝って、顔を確認する。スラックスではなくシーツが見えて首が傾ぐ。

「……はあッ? なにやってんだ!?」

 運ばれている男が身一つであることに気が付いたレウは叫ぶと、マディの顔面を殴り飛ばした。落ちそうになる脚を片腕で持って床に下ろしてから、急に負荷が掛かって慌てているクレマに掌底を打つ。

 鼻血が噴き出て、手で押さえるクレマやハイデとの間に円形の防御壁を張る。そうすると余裕が出来、場が落ち着いて見られるようになった。

「んだァ、コイツ!」と叫ぶマディの腕を押さえたクレマの眉が寄る。

「こ奴、どこかで見た顔をしているな」

「オウルの弟だよ。エディスの従騎士だから処分して」

 ハイデの後方、大きなガラス窓から隣室の様子が見えた瞬間、領主を置いて駆け出す。
 腰の剣を抜いて子どもが吊られている部屋に入り、魔物に突き刺した。

「おいおいおいッ、今回こんなんばっかかよ!」

 俺の魔物が可哀想だろうがと嘆くマディに、馬鹿を言うなと叫びながら次々と生徒の間を縫って剣を振るう。

「その年になってまで、メリンアレットの生徒に劣等感持ってんのか」

 拗らせんのも大概にするんだなと言いながら、剣で縄を切って子どもを下ろしていく。なにかは考えたくないが血だまりができていたので、それには触れないように奥に座らせる。

 部屋全体、天井や床まで覆う防御壁を張って外に出ると、「学歴コンプレックスはお前もだろ!」と早々に怒鳴り声がやってきた。

「劣等生な末の弟だとオウルは言っていたよ」

 次いでハイデの声が掛けられてそちらを見ると、目の色が変わっていて口を開く。

「俺に干渉系の魔法は効かないですよ」

 それこそ兄貴から聞いてなかったのかと呆れながら領主のいる防御壁の中に入る。落ちていたシーツを被せてやりながら、膝の上に抱き起して声を掛けるが応じない。

「おいっ、大丈夫……か」

 ようやくブルーグレーの瞳がこちらを向いた。領主は柔らかな微笑みを浮かべ、重たげに腕を上げてレウの頬に手を伸ばしてくる。

「ああ。やっぱり、君は……」

 力を失くした手が床に落ち、「おい!」と叫ぶ。手の甲で頬を軽く叩きながら声を掛け続けていると、またうっすらと開くが反応が薄い。

 安堵したレウの背に、緊張から汗が伝う。――なんで俺をあんな目で見たんだ? 自分はこの男と知り合いだっただろうか?
 そもそも、初めて会った時からこちらのことを知っていた風ではなかったか。
 エディスから話を聞いているにしても、なにを? 疑問が頭を素通りしては別の問題を持ってくる。

 口を聞こうとした時、戸口から「レウ、はっけ~~ん!」という明るい声が間こえてきて振り返る。

「お前……」

「あーー!! タライ野郎!」

 手を振られたレウよりも早くマディが大声を発し、自分の頭を指差した。

「お前のせいでデッケェたんこぶが出来たんだぞ!」

「はあぁ~~っ? お前がうちの王子に手を出そうとしなきゃ殴りませんでしたけどぉ!?」 

 だからお前のせい~っと両手の人差し指でマディを指差したロイに苛立ったレウは「少しだけなら殴ってもいいぞ」とマディに進言した。

「ちょっとレウ!?」

「おい、仲間じゃねえのか!?」

「ソイツ自分で傷を治せるから、少しならいいんじゃないか」

 うるせえんだとよと言うと、ロイは「ひっどお!」と泣き真似をする。だが、レウの方を見た途端、「あら?」と手を口に当てた。
 腹の立つニヤけ顔に今度はなんだと言おうとすると、「あらあらあら?」とにじり寄ってくる。まさかとは思いつつも、不躾な視線から隠す為にできる限りシーツを広げて領主の体を覆う。

「他の人を抱いたりして、なにやってんの? 王子がいるのに駄目じゃんっ」

 前かがみになり、腰に手を当ててこちらを指差してくるロイの顔を見る。クソムカつく顔だった。眉毛を片方ぴょんと上げ、笑顔で囃し立ててくるロイに領主だと端的に伝える。

「えっ、でも浮気には変わりないって」

「誰と……誰がだね」

 その声が聞こえた途端、レウの背に怖気が走った。どくどくと鼓動が早鳴り、全身から冷や汗が噴き出す。本能的な恐怖だ。

 その男は、まさしく人ではなかった。
 背を覆う豊かな髪は毛先にいく程に橙から朱に染まり、ところどころ腕の中の男を思い起こすような青が混じっている。細められた黒の目には歯車が浮いていた。

 たっぷりと生地を使ったローブを身に纏った男は、足を組んで椅子もなしに浮いているのだ。
 座っているから分かり辛いが、ギールよりも高い。舞台女優でも転んでしまいそうなヒールを合わせると、四十センチ以上は差があるのではないだろうか。

 瞳孔が散大したのを見たレウは、つい先程まで出ていた冷や汗が失せていることに気が付く。心の臓を鷲掴みにされているような感覚に至った。

「アンビトン…ネージュ、か」
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