【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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聖女編

1.守勢の刻

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 パチパチと木が爆ぜる。
 薪の前で明日の行程を練っていたフェリオネルの前に、ステンレスのカップが出された。振り返ると、リスティーが立っていた。

「リスティー嬢、ありがとうございます」

「こちらこそ」

 そう言ってフェリオネルの隣に座ったリスティーは苦笑いを浮かべ、膝を抱く。

「ごめんなさい、負担を増やしてしまって」

「そんなことはないので、気になさらないでください」

 食べますかとチョコレートを差し出すと、リスティーは礼を言って受け取る。

「長引きそうね……」

「中央に入ってもついてきそうですよね」

 執拗な相手に辟易したリスティーたちは、どうにか撒けないかと地図を広げ見た。

 フェリオネルは東部の出身で、中央にもエディスの騎士として来たばかりなので南の地理に明るくない。
 薪の光に照らされたリスティーの、真剣な表情に眉を下げる。土地勘のあるリスティーがいて本当に助かった。

「ここは避けたいんだけど、このままじゃ難しいわよね」

 誘導されてる気がするのと言って、リスティーが指差した地点を見る。

「ですが、この渓谷を越えるにはここを通るしかないのでは……」

「ここだけは駄目なの、絶対に通れない」

 長年住んでいる彼女が言うのだから、余程狙いやすい地形なのだろうと理解を示した。

「違うの、この先の開けた所にね……魔物が住んでいるのよ」

 ソイツが厄介でと手を握るリスティーの祖父が、軍人として働いていた頃からいるのだという。
 ティーンス大聖堂くらいの巨体を持つミミズや芋虫に似た、この土地特有の魔物なのだと教えてもらったフェリオネルは頷く。

「では、どうやって抜けますか」

「船があれば川から行きたいけど、こっちの山を周回するのがいいと思うわ。道が広いから馬車が通りやすいの」

 だけど狙われやすいのが問題だし、どう考えても魔物がいる方に進まされる気がするとリスティーは頭を抱えて膝に顔を伏せる。

「……エディスがいればなあ。アイツなら作戦考えてくれるのに」

 あたし、こういうの苦手なのと弱音を零したリスティーに、フェリオネルはどう声を掛けたらいいのかと言いよどむ。

 フェリオネルとて作戦の立案などしたことがない。
 なのに、全てを筆頭騎士で地元民であるという理由で彼女任せにしてしまっていた。その気まずさから手をもぞもぞと動かすが、噤んでいた口を開ける。

「あのっ……その魔物、僕たちで討伐できませんか?」

「あたしとフェリオネルさんが頑張れば。でも、そしたらレイアーラ様の護衛が手薄になっちゃう」

 革命軍に後ろから追いかけられているから安全が保障できないのだと言われると、そうですよねと肩を落とすしかない。

「レウさんだったら、レイアーラ様を上手に守りながら撤退できるのに」

「防御魔法をずっと使ってくれていたではないですか」

「そうだけど、でも……あたし、実は魔法そんなに得意じゃないの。精密性を必要な防御魔法が一番苦手なんだ」

 僕なんて使えませんよという言葉が出そうになった口に指を当てて、フェリオネルもため息を吐いたしまった。
 ――せめて、兄も一緒であればと思っても仕方がない。

「なんで来たらもう革命軍が神殿を襲ってんのよ」

 フェリオネルさんのお兄さんがいなかったらと背筋が凍りそうなことを言うリスティーに、フェリオネルはぶるりと体を震わせる。

 南部の主要都市・ガンガルダに着いた時には神殿が炎で包まれていて、驚いたことにレイアーラが市民を避難誘導している有様だったのだ。
 キシウが向かわせた私兵と革命軍から、兄のレイヴェンとエディスの私兵の援護を受けてガンガルダをようやく抜けられた。

「一番頼りたいはずの恋人と離れたのに……レイアーラ様、文句の一つも言わない。それどころか、あたしたちを励ましてくれたり、能力で援護までしてくれて」

 不安じゃないはずないのにと苦悩するリスティーの優しさに、フェリオネルは「お義姉さんなら大丈夫ですよ」と首を振る。

「フェリオネルさんも、ずっと戦ってもらっててごめんなさい」

 革命軍の狙いがレイアーラである以上、敵にとって最大の脅威であるリスティーが傍を離れるわけにはいかない。
 他に女性の兵士もいないので、今回は彼女がレイアーラや神官の護衛と世話役だ。

 必然的にフェリオネルが攻撃の要になるしかないので、連れて来たドラゴンを毎日乗り換えて戦っている。

「ドゥルース・フィンティアが前線に出てこないのでどうにかなっています」

「アイツの付き人っぽい奴も警戒しないとよね」

「例の禁魔術使いですか」

 うん、と頷くリスティーにフェリオネルも頭を抱えたくなる。
 そんなのに出て来られては隊を大幅に削られてしまうだろう。

 隣に座っている年下の女の子に、役割を変えませんか? と。
 僕が防御に当たるので、あなたが攻撃に出てもらえないかと提案してはいいのかと悪魔の囁きが聞こえてくる。

 優秀な兄でも妹ではなく、凡才の自分しかいないのだ。
 ――それに、彼女は王子が選んだ筆頭騎士だ。

「なんて、あたしたちが心に隙を作ったままじゃね」

 あ~あと言って後ろにひっくり返ったリスティーは、両手指を開いた状態で上へもっていく。

 親指にはめ込まれた一対の指輪を見て「不安じゃないはずないわよね」と言って、握った。
 これは彼女の気持ちではなく、義理の姉の心情を慮っての発言だろう。

 目を閉じたリスティーは重ねた手を口に押し当てる。

「……お祈りですか?」

「うん。力を貸してもらおうかなって」

 アイツに、という囁きにフェリオネルは顔を背けた。
 地面に視線を落として、不必要に彼女の心に寄り添おうとしてはいないだろうかと考えてしまう。勝手に気持ちを決めつけてはいないだろうかと。

「どうにもならない状況になっても、あたしが絶対に突破してみせる」

 腹筋の力で起き上ったリスティーが自分の拳を軽く当て、前に向かって片腕を突き出す。

「山に大穴開けてやるわ!」

 ふふっと笑われ、冗談として受け取ったフェリオネルは「頼もしいです」と笑い声を転がした。
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