【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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聖女編

2.サウダージ・ブルー

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「僕も、負担を軽くできるよう頑張ります」

 そう言うとリスティーはパチリと瞬いて、ふふっと目を閉じて軽やかに笑う。

「フェリオネルさんって、ほんっとに優しい」

 顔を覗きこんできたリスティーに、フェリオネルは顔を硬直させる。

 曲げた膝に肘をつき、可愛らしく顎をのせて首を傾げ見てくるリスティーにどう返事をすればいいのかと躊躇ってしまう。

「ねっ、フェリオネルさんってエディスが好きなんでしょ?」と質問を受ける。

 それに、ああ……と納得と安堵で胸を撫で下ろした。

「はい。その、お付き合いしたいというより、尊敬しているに近いなと。最近分かりました」

 いつも褒めてくださるのでと言うと、リスティーは頬を手で包んできゃーっと華やかな声を出す。

「愛人にとか言ってたけど、そうなの~っ? やだっ、アイツほんとに……わ、男にばっかモテるわね」

 ふっと乾いた息を吐き、首を斜め前に突き出したリスティーが手の平を上へ向ける。

「あっそか、アーマーちゃんも好きって言ってたよね! けど、あの子の好きは違うか……」

 舞台俳優に好きって言ってる子と同じ感じよねと眉を曲げ、唇を尖らせるリスティーに肯定の意を示す。
 妹は王子に対して「付き合いたい」や「妻や愛人にしてほしい」という感情を向けたことはない。

「リスティー嬢は、正妻になりたくはないのですか?」

「あたし!?」と自分を指差したリスティーに、頷く。

「その、エディス様がお好きなように見えるのですが」

 気後れしながらも口にした。

 すると、リスティーはフェリオネルから顔を背けて空を見上げる。
 その横顔には年相応の少女らしさがあって――恋をしていると確信させるなにかがあった。

「あたしは……エディスが望まない限りはそういうのはいいかなぁって」

 南の夏を想わせるような温かみのあるオレンジの目が、夜空をキラキラと映す。

「アイツのことは好きよ。だから、アイツにも好きな人と一緒にいてほしいなって思っちゃうのよね」

 だって友だちなんだもんとはにかんで笑ったリスティーは、すぐに慌てて両手を振る。

「あっ、助けて~って言われたら別よ!? 偉い人は正妻がいた方がいいって言ってるみたいだしね!」

 そんな彼女の様子に、フェリオネルはそうですねと微笑みを浮かべる。

「僕もそうですよ。レウのことは……なんだかんだで、信用してますしね」

「ずぅっと守ってきたのはレウさんだもんね」

「はい。なので、エディス様のことはアイツに任せることにしたんです」

 勝ち目のない恋を続けられる程、自分は強くない。
 それに――気が付いてしまったのだ。エディスを挟んで無言で争うレウとギールの姿を、大変だなと他人事のように見れる自分に。

「……じゃ、じゃあじゃあっ。エドワード様とはどうなの?」

「勿論、お慕いしておりますよ。素晴らしい方ですから」

 女の子ってどうしてなんでもかんでも恋愛に繋げてくるんでしょう……と目を閉じて思い浮かべる。

「兄様っ、エディス様は無理でも、エドワード様の第二夫人の座は奪ってくださいね!」

 などと宣っていた妹の顔を――。

「まあまあっ、わたくしも混ぜてくださいな」

 しかし、この場に似付かわしくない、可憐な声が響いた。
 慌てて背後を振り返った二人の前には、なんと王女であるレイアーラが器を三つのせたトレイを手に立っていた。

「恋のお話をされていたのでしょう? 私も聞きたいですわ」

 そう言って周りが花畑になるのではと思う程に美しい笑みを向けられたリスティーは、フェリオネルに視線を送る。
 たすけて……と書かれていそうな程に強張った顔に、フェリオネルは無理ですと目で返す。

 レイアーラは断れない雰囲気を醸し出したまま、若干離れて座っていた二人の間に陣取ってしまった。

「スープですわ。夜は冷えますので、体を温めてくださいな」

 有無を言わさずトレイにのせていた器を手渡されると、はあ……と受け取って口をつけるしかない。

 レイアーラは手を握って「フェルはエドワード様がお好きなんですの?」と立ち聞きしていたことを悪びれずに話し始める。
 完全に場の支配権が彼女に渡っており、フェリオネルは流石は社交界慣れした義姉だと感心してしまう。

「私、あの方ならフェルをお任せできますわ~彼は頼りになりますもの!」

 お金も持ってますし、捻くれてはいますが優しい子なのでと言うレイアーラに強く同意を示す。
 エドワード程に優しい人など早々いないと思う。国や民を想う気持ちとなるとエディス以上だ。

「それに……フェルなら、あの方の心の隙間も埋めてくれそうですしね」

「分かります、フェリオネルさん優しいですよね!」

 なので、自分と彼女たちにある隔たりに口の中に苦みが広がっていく。歯を噛み合わせればじゃりりと音がしそうだという気持ちにもなった。

「僕なんて、とても。分不相応です……」

 あの方の空虚感を埋める者などいるはずがない。
 国民の太陽たらしめんと、常に笑顔を心掛けていた姫様の代わりなど誰ができるものか。
 兄も言っていたではないか。宮殿で金の髪を揺らし、並んで歩く二人は素晴らしく、絵画のように愛らしかったのだと。

「あのお二人はなるべくして婚約されたのです。なのに、今度は僕に恋してほしいだなんて……到底、言えません」

 他人の評価で自分を語るなというのは、かつて主たるエディスから向けられた言葉だ。

 だが、未だフェリオネルは自分に自信が持てないままでいる。
 エディスにしても、エドワードにしろ――あんなに素晴らしい人の傍にいるのが自分でいいのだろうかという不安が尽きない。
 それなのに恋愛に現を抜かすなど、完璧に物事をこなすエドワードに言えるはずもない。

 そんなフェリオネルの手を握ってきたレイアーラの顔を見ると、淡い水色の瞳を凛々しく開けてこちらを見据えていた。

「妹のことを想ってくださるのは結構です」

 有難いことだと思っておりますわと言い、ですが――と柔らかな胸に手を押し当てて眉を寄せる。

「エドワード様はお爺ちゃんではないのですよ」

 おじいちゃん……? とフェリオネルがぽかんと口を開けて見やると、レイアーラは可愛らしく頬に手を当てて小首を傾げた。

「フェルはこの先一生、独り身で暮らすエドワード様を見る方が嫌ではなくって?」

 少し考えてから、フェリオネルは泣き出しそうに目を細める。
 レイアーラに手を離されると、お労しいと顔を手で覆ったフェリオネルの頭を撫でてきた。

「フェル、あなたもまだまだ年若いですわ。恋に悩むのも仕方ありません」

 たくさん考えるといいわと言われて頭を頷かせたフェリオネルに、リスティーは意外と呟く。

「フェリオネルさん、エディスになら愛人にしてって言えるのに……」

「えっ? フェ、フェル……私、そのお話聞いてませんわ。どうして教えてくださらなかったの?」

 早くアーマーと会いたいですわ~と嘆くレイアーラを見て、困惑したフェリオネルは背を後ろに下げた。

 そして、リスティーに向かって、どうしてそんなことを言ってしまうんですかと眉を下げる。
 しまったという顔をして口に手を当てたリスティーは、誤魔化すように後頭部に手を当てて「まあ、アイツ言いやすいですもんね!」と半笑いを浮かべた。

「では、フェルはエディスとエドワード様の間で揺れ動いているのですね」

 どちらも素敵ですものと合わせた手を頬にくっつけ、うっとりと目を閉じるレイアーラ。

 義姉様……違うのです、エディス様にはもう心に決めた人がいるのですとフェリオネルは言えずに項垂れる。
 だが、話が余計にねじ曲がってしまう気がする。

 もうこれは妹と好きなように話してもらおうと決め込んだフェリオネルは、手を温める道具と化しかけていたスープに口をつけた。
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