【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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聖女編

3.乙女の一角獣

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 連なる馬列に魔法や、砲弾や弓が雨のように降る。
 策もなく撃ちこんできているわけではなく、安心していられない雰囲気が張り詰めていた。
 船や車では狙い打たれてしまうので、馬で舗装されていない石だらけの悪路を駆けるしかない。

「怖いッ」という悲鳴に、レイアーラは傍らの馬車に乗った侍女に励ましの声を掛けた。
 頭上を仰ぐと、ブラックドラゴンに騎乗したフェリオネルの奮戦している姿が垣間見える。
 レイアーラは三台並んだ馬車の周りに能力で防御壁を張りながら道を急ぐ。

 突然上からやって来た飛行型の魔物に馬が嘶く。レイアーラは片手で手綱を握ったまま、腰元のレイピアを引き抜いた。

「前を開けなさい、私が出ます!」

「いけません、姫様。あまりに目立ってしまいます!」

 とリスティーが馬車の中から叫ぶ。

「姫が戦いに参加するなど、彼らには及びもしない考えでしょう」とすぐさま言い返す。

 彼女が騎乗しているのはただの馬ではなく、神殿で懐いた一角獣だ。神殿で育ち、清らかな乙女にしか滅多に懐かない聖獣。

 髪を結い上げて帽子に隠し、白い上着と足にピッタリと吸い付くようなスラックスを穿いた、戦闘衣姿のレイアーラは剣を構える。

 ふくらはぎに力を入れ一角獣に命じると、地を蹴って飛び立つ。
 追わせた魔物に向かって剣を振るって斬り裂き、血を振るい落としてから中央の方へと剣を向ける。

「姫様を守るのだ、お前たち!」

 勇ましく声を張ったレイアーラに対し、軍は雄々しく応じた。馬車の傍に一角獣を下ろし、また地上を走らせる。

「お見事です、姫様!」

 侍女が拍手を送るが、一番後ろの馬車に乗っているリスティーの顔色は晴れない。むしろどんどん悪くなってきている様子に見える。

「……フレイアム嬢、なにか」

「レイアーラ様、この子を出します。今すぐ私たちと来てください」

 起こします、とリスティーが傍らに背を伏せた。この旅路で初めてのことだった。
 起こしてはならないと、このような惨劇に触れて、覚えさせてはならないのだと言っていたはずの彼女の決意を変える、なにかが――。

「リスティーさんッ!!」

 フェリオネルの叫びに、リスティーが馬車の窓から身を乗り出して現場を確認すると舌を打った。
 前方に立ち昇った煙――のように見えるが、巨体な魔物だということが溢れる魔力から感じられる。

 これがリスティーの恐れていたことかと、レイアーラは呆然と見上げていた。だが、すぐに唇を噛み締めて、伝達役に指示を送る。

「停戦の申し入れを! ……作戦を立てましょう」

「いいえ、姫様。このまま止まらずお進みください!」

 私が出て道を切り開きます! とリスティーが手袋を取ろうとするのが見え、それこそいけませんわと首を振るう。
 これまでの彼女の頑張りを反故にするわけにいかない。

「それに――あの魔物を見過ごせば、民を苦しめることになりますわ」

 討伐いたしましょうとレイアーラは誰も行かないのならばと一角獣の踵を返させ、来た道を戻ろうとした。
 だが、その目にもう一対の煙が立ち上るのが見えて息を吸う。

 ドラゴンから降りてきたフェリオネルがリスティーに、「これは奴らもしくじりましたね」と目配せをした。

「囲まれたなら、向こうだって倒すしかないと分かるはずだわ」

 行きますと走らせようとすると、二人にお待ちくださいと叫ばれる。

「……私どもも行きます」

 リスティーさんもこちらへと手を差し出すと、彼女は目を伏せて「分かったわ」と肩の力を落とした。

*** *** *** *** ***

「はぁ?昔っからいて、住民が困ってるんでしょ」

 馬っ鹿なのぉ!? という甲高い声に、レイアーラたちは顔を見合わせた。

 こっそりと後ろから敵の陣営に近づいてきたのだが、どうやらこちらも揉めている様子。
 リスティーがこのまま全滅を狙いましょうかと拳を手のひらに打ち付けたのだが、止めた。

「ならば駆除すべきだと言っているのだ」

 怠慢をするでないと革命軍を見据える男の頭髪は、鬣のような白金。
 その隣で腰に拳を当て、愛らしく頬を膨らませる少年にレイアーラが「あっ」と声を出す。

「レイアーラ様、あの者は第一王子の臣子です」

「まあ、そうなんですの」と小鳥のような麗しい声にいつ敵方が気付くのかと、リスティーとフェリオネルは不安そうに視線を交わす。

「……ですが、デューク様でしたら信頼できますわ」

 見ていましょうと微笑むレイアーラに、リスティーはえぇ……と呟く。彼女にとって、神殿でエディスを袈裟斬りにしようとしていた人物だという印象が強い。

 サイドに紺のフリルをたっぷり使ったブラウスの襟元と袖にはフリルと同色のリボンを結えている。
 紺色のショートパンツから伸びているほっそりとした足の左太ももにはベルトが巻かれていた。
 パンツスタイルのリスティーからすると、戦闘する気があるのかと疑ってしまう服装だ。

「僕たちはハイデ様の配下として来てるんだよ。ならさあ、それ相応の誠意を見せるべきじゃないの」

 王家からの使いが民を見放すわけ?と呆れる少年に、革命軍の面々は顔を見合せた。

 誰かが「後から来たくせになんだ!」と叫ぶと、少年ははぁ? と砂糖菓子のような可憐さを解く。
 腰までの長さの髪を後ろにはらって、花の意匠が描かれた靴の音を鳴らして歩み寄っていく。
 ツンと胸元を指で押され、下から覗き込まれた粗暴者は顔を赤くさせた。

「お前らさぁ、姫の護衛に来たんだよね。なのになぁ~んもできないから、僕らが代わりにしてあげなきゃいけなくなったんだけど?」

 この役立たずども~っと吹き出して嘲笑ったデュークを恫喝しようとした男に「やめときぃ」と声が掛かる。

「止めんなよ、ルシリア!」

「ほっといてもええけど、どうせ負けるで」

 あの人らドウルースさんとおんなしで王子様の家来やでと言われたデュークがべえと舌を出した。

「そのドゥルースって奴はどこに行ったのさ」

「あの程度の魔物で後込むようでは困るが、まさかいないのか」

「挨拶にすら来ないってどういうつもりなんだよ!」

 こんな低俗な者どもに任せきりだとはと、デュークの後ろの大男の眼光がどんどん鋭くなっていくのを目の当たりにした革命軍は視線を交わし合う。

「その様子では、来ていないわけではないな」

「ごめんなあ、下級貴族と神官さん。あん人なんや忙しいらしいて会う気はないんやて」

 僕で我慢してくれんやろかと言うドゥルースの付き人に、デュークがおいと声を低くする。

「オウル様が来てるんだぞ。なのに!」

「構わない、私は王子の命に従うまでだ」

 行こうと促すオウルに、デュークは目を潤ませて手を握った。

「どうしてそんなに優しいの~~っ? こんな無能どもにも寛大だなんて、僕そんけーしちゃうなぁっ」

 惚れ直したと太い腕に抱き付いて頬ずりするデュークに、オウルはそうかと目尻を下げた。
 レイアーラはあらと指を揃えて唇につける。

「恋をしてらっしゃるのね」

 素敵だわと言いながら、レイアーラは護衛よろしく着いてきた二人の横を通り抜ける。
 ぼんやりと立っていたフェリオネルは、彼女の背中を見てから慌てて隠れていた塀から飛び出す。

 だが、もう遅い。

「素晴らしい考えですわ、キャンベル様」

 私たちも協力させてくださいと、胸に手を当てたレイアーラが粗野な男の群れの前へ出ていく。
 デュークはオウルと視線を交わしてから、フンと鼻を鳴らして髪を後ろにはらう。

「アンタ、その突拍子もない破天荒さ直してなかったんだ」

 意外と姉妹で性格似てるよねと口端をひくつかせたデュークは、”面倒な奴が来たよ……”と言いたげに顔を引き攣らせていた。
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