【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
214 / 274
北部編

6.戦況報告

しおりを挟む
「どっ……どうしてそんな危ないことをなさったんですか!?」

 少女の悲鳴が飛空船の中でこだまする。

 叫ばれたエドワードは目を丸くして驚き、口を開きはするものの声が出ない。
 なにせ、同好の士として親しくしている護衛が大粒の涙を流して「ご無事でよかった……っ」と顔を握った手で覆い隠したのだから。

「アーマー……」

 声を掛けると顔を上げた少女は激したまま己の兄に向かって手を伸ばした。
 心得た素振りの兄は腰を落とし、首にしがみつかれてやる。

「お兄様、エドワード様を守ってくださってありがとうございます」

 フェリオネルは感激する妹の背をぽんぽんと叩いてやり、宥めた。

 そんなに無謀なことをしたはずではと、終始苦笑いをして黙り込むしかないエドワードの首に包帯を巻き付けていた者が離れる。
 救急箱を手にして奥へと引っ込んでいくのを見送ってから、エドワードは船長よろしく腕を組んでこちらの様子を見ていた壮年の男を振り返った。

「各地の状況は」

 尋ねられた男は、口に咥えていた煙草を指で挟んで煙を吐き出す。

「ルイース少将、エドワード様の前での煙草はお控えください。体に毒です」

 途端に叱責されたミシアは苦い顔をして肩を竦めたが、大人しく携帯灰皿に擦り付けて火を消してから捨てる。

「あー……それで、その。レイアーラ様は無事なんだな」

「はい。中央までデュークという神官とレウの兄が送り届けてくださるそうです。二人とも魔物の討伐にも協力的で、信頼に値する人物だと確信しました」

 キャンベル家の息子かとミシアが頭を掻く。

「どうにも神殿はきな臭くてなあ。ソイツがこっちに味方してくれるといいんだが」

「そう簡単にはいかないでしょうね……」

「でもハイデはソイツらを騙してるんだろ? 化けの皮が剥がれたら勝手に離れるんじゃないか」

 案外簡単かもしれないぞと言うシュウに、フェリオネルはそうでしょうかと不安げな顔を見せる。
 だが、すぐに前を向いて中心の大きなテーブルに置かれた地図に手を伸ばす。

「まず、南部ですが革命軍にほとんど支配された状況です」

 フェリオネルがそう言うと、アーマーが目を見開く。

「そんな……ッ、それではレイヴェン兄様は」

「兄さんなら大丈夫です。少なくとも今は……そう信じるしか」

「どこも芳しくはないが、南部が一番良くねえな」

 中心地が焼け、対抗しているのがリスティーの父が首魁をしているエディスの私兵団とレイヴェン率いる南部軍と、僅かな神官だけだ。

「早々に手を打たないといけないな」

「それともう一つ。南部に所属していたハガイという男が脱走したそうです」

「なら今回襲ってきたのは奴が真似たやつか」

 通りで精度が低いと思ったとシュウが吐き捨てる。

「マディ・マーガンか……また厄介な奴を仲間にしたもんだ」

「東部にある監獄の管理人ですからね。そこから革命軍の人員の補充もできるでしょう」

「奴が行っている人体実験の証拠も掴んで、止めさせないと」

 苦りきった顔をするフェリオネルに、エドワードが眉根を寄せた。

「あら。なら私が暫く東部に出張に行けばいいんじゃないかしら。牽制になるでしょ」

 唇の下に指を当てた地を這う者が許可を求めるようにミシアを見上げる。
 ミシアは「ちぃ、頼んだ」と頭を撫でてからエドワードの方へと向き直った。

「エド、人体実験の件は俺も当たってみる」と言う。

「奴ら、学園要塞都市でも随分と暴れたようだ。要塞の領主からも協力してくれると書簡を貰ったよ」

 速達で今朝届いたんだとエドワードが口元に笑みを浮かべると、ミシアは肩を竦めた。

「では、エディス様はアンビトン・ネージュの協力を得られたんですね!?」

「電話ではそう言ってたよ。だから心配するなだって」

 ふふ、と心配性の騎士たちを案じての言葉を思い返したエドワードが笑い声を零す。
 傍らのフェリオネルににこにこと微笑ましげに見つめられ、その視線に気がついたエドワードはどうしたのかと首を傾げた。

「ごめんね、お前への言伝は預かってないんだ」

 手を伸ばして頬を撫でると、フェリオネルは目を細める。エドワードの上に手を重ねて視線を合わせた。

「いえ、嬉しそうだったもので。お可愛らしいなと」

 そう思うのはいけませんかと腰を曲げて顔を近づいてくるフェリオネルに、エドワードは言葉を失う。
 だが、すぐに人形のように笑顔を顔に貼り付けた。

「……構わないよ」

「余所行きの顔ではなく、私だけのお顔を見せていただきたいのですが……公私混同はされない方だと理解しておりますので」

 我慢いたしますと言って離れていき、背筋を伸ばしたフェリオネルにエドワードは「偉いね」と言いながらも、肩から垂らした髪を指でいじった。
 前を向くと、手を口の前で握ってキラキラとした顔をするアーマーと目が合う。彼女の物言いたげな目から、恐る恐る視線を逸らした。

「それ以外にはなにも言ってなかったのか」

 シュウがそう問うと、エドワードは西部へ行くと言っていたことを告げた。

「トリエランディア大将にでも呼び出されたのか?」

「アイツが? 違うだろ、今更中央に用なんかねえだろ」

 なんで西部にと疑問を感じたのは皆同じだ。

「俺も駅で今から西部に行くっていうジェネアスと会ったが、アイツもなにも言ってなかったしな」

 ミシアは顎に生えた無精髭を撫でながら視線を上向けて言う。

「ならアイツの今のパートナーか?」

 周りの顔を見比べていたシュウが、隣に座っているエドワードの方へと体を傾ける。

「……トリエランディア大将って奥さんいたのか」

 耳打ちされたエドワードは些か目を驚きに見開き、聞いたことがないよとため息をつく。

「西部は能力者が多いから、また適合したのかな。フェルやアーマーはなにか聞いていないの?」

「ヒョウさんのことですか? 私はまだ会ったことがないので……アーマーは」

「私、実は秘密裏にお会いしました! それはもう、」

 活き活きと話し出すアーマーに、藪蛇をつついたことを悟ったエドワードはフェリオネルにもう一杯お茶を淹れるよう頼んだのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...