【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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別離編

2.恋とはどんなものなんだ

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「……へっ? 俺に部下!?」

 ミシアの所からは三人、他の隊からも引き抜いて合計で三十人の部下を任されることになった。それもこれも――

「反軍と和解どころか、私兵団にしてくる奴がいるか」

 エディスが反軍の解体を軍上層部が思ってもいない形で達成してきたからだ。

「爺さんども、お前が王族だと調べ始めるって言ってたぞ」

「そう言われてもな……」

 軍・王政反対派の南部を銀髪碧眼の少年が懐柔したというのは、彼らにとって相当に興味を引いた事件だったようだ。

「そこでだ、エディス。お前、うちの広告塔になる気はないか」

「絶対嫌だ」

 腕を組んでそっぽを向くと、ミシアは「話くらい聞いてもいいんじゃないか」と言ってくる。だが、この流れでの誘いなど良いものであるはずがない。

「ただの人員募集のための顔だ。ほら、公開演習や祭をやってる時にブロマイドとか売ってるだろ、アレだ」

「買ったことねえし、そういうの興味ないから」

 そう言うと、ジェネアスから「え~……勿体ないッスよぉ。可愛い子だっていっぱいいるんスよ⁉︎」と非難をくらってしまう。

「写真の売り上げの三割は給料になるぞ。アンタなら相当な売り上げになるんじゃないか」

 面白がられているのか皮肉めいた口調で言ってくるレウに、「お前こそ女から貢いでもらえるんじゃないか」と片眉を上げる。険のある言い方だったのでつい反発してしまったが、普段なら無視を決め込むはずのエディスの言葉にミシアとジェネアスが驚いてこちらを伺ってきた。

「……だとしたら、なにか問題でも?」

「べつに。デイヴィス准将は素行の悪い部下を野放しにしてるんだなと思っただけだ」

「女が勝手に貢いでくるだけなんだがな。アンタだって、シンパみたいな男を日がな引き連れてるじゃないか」

 はあ!? と怒鳴ったエディスに、ミシアが二人とも止めろと仲裁に入る。上官の顔を立てるしかない二人は言いかけた言葉を喉奥に飲み込むしかなかった。
 拗ねたようにむっすりと口を引き結び、組んだ足の上に頬杖をついたエディスの背をあやすようにトントンと叩いたミシアがそれよりと口にする。

「お前、あんな広大な土地を経営していくんだろ? 金は貰っておけるだけ貰った方がいいぞ」

 だが、尉官になるからって莫大に給料が増えるわけじゃないし、戦闘報酬があるからとミシアから叱られたエディスはすっかり縮こまってしまい、「分かったよ……」と唇を尖らせた。

「やればいいんだろ、やれば!」

 最初から拒否権が用意されてないんだよなあと言うエディスに、ミシアは分かってるならなんで最初から素直に引き受けないんだと眉を顰めて小突いてくる。片眉を上げて口をへの字にするが、彼の良いようになるのがなんだか悔しいのだ。

「反抗期なんスよね、エディスは」

 ケラケラと愉快そうに笑うジェネアスを後ろから蹴ると、痛いッスよ~と涙目で見てくる。

「エディス以外は誰がやるとか決まったんスか?」

 顔が良い人しかできないって聞いたんスけどと言うジェネアスに、ミシアがああと顎髭を撫でた。

「北はレストリエッジがやるらしいが、それ以外は噂の段階だな」

「レストリエッジ、って。開発部にいるシルベリアの親戚か?」

 へえーレストリエッジって北部の貴族だったんだなと思っての発言だったが、ミシアは目を丸めて「ソイツだぞ」と言う。エディスはえ……と一呼吸置いてから「中央所属なんじゃ」と呟いた。

「異動が決まったんだよ」

「うっそだろ⁉︎」

 いつからだとミシアに顔を近づけると、ミシアは斜め上を見て「一週間後……とか、聞いたような。開発部のことだし、俺もよく知らん!」と首を振る。
 途端に首を項垂れて膝を見つめるエディスの頭に手を置き、「友だちだったのか?」と訊いてくるので頷く。

「じゃあ、自分で聞くんだな。今日はもう、部下に挨拶が済んだら上がっていいから」

 首を回すように撫でてくるミシアに、エディスは小さく「ありがとう……」と言った。

 話が終わる頃に到着するよう調整されていたのか、車は軍の駐車場へと着けられた。ミシアが「じゃあな」と言って車を降りると、ジェネアスも我さきにと降りて、んーっと背伸びをする。

「あー、明日からは自分の研究ができるッス~」

 懐かしい我が家、とジェネアスが言うのに、エディスは助手席の方に身を乗り出して「悪かったな、俺に付き合わせて」と声を掛ける。するとジェネアスは上半身だけを車内に潜り込ませて、ふんわりと笑ってみせた。友だちなんだから気にするな、野暮だとでも言いたげに。

「僕はー、ひと眠りするッス」

 おやすみぃと代わりに言い置いた親友の背中に、同じ言葉を投げかける。すると、ピースで返すのが彼らしい。
 ふぅと息を吐いて、座席に凭れかかる。泥のような眠気が襲ってきた。

「おい、寝るなら部屋に帰れよ」

 しかし、ぞんざいな言葉が投げつけられて目がパチリと開く。運転席の男と目が合う。切れ長の白目が美しい眼。
 柳眉が片方、へしゃげる。口の端だけを上げた笑みは、まさに魔性だった。魅了の魔法など生まれてこの方効いたことがないが、この男に掛けられたらどうだろう。

『想ってる時は幸せにも不幸にもなれる』

 かつてシルベリアに言われた言葉が脳裏をよぎる。この男もそうなのだろうかと、エディスの中にある探求心が目覚めそうになった。

 男の視線が自分から外れたことでエディスは我に返る。こんな狭い所、男2人でなにをしているのかと。

 ドアが外から開けられ、男が手を差し出してくる。躊躇ったエディスに背を曲げて近づいてきた男に額をぶつけられた。いって! と小さく声を上げたエディスが抗議の目を向けると、「お前みたいな子どもに手を出すか」と指を指される。

 ――それはそうだ。親父(仮)や南の海で出会ったあの魔物の方がおかしかったのだと、胸にすとんと落ちてきた。

「……じゃあ、大きくなったらいいのか?」

 訊ねると、その男――レウ・バーンズグロスは、こちらを小馬鹿にするように鼻で嗤った。

「はいはい、大きくなったらな」

「な――なんだよ、それ! おいっ」

 仮にも俺の方が年は下だけど階級は上なんだぞと思って追いかける。おいってば、と猫のように腕の下をくぐり抜けて腕を掴んで見上げた。

「意味も分かってないだろ、アンタ」

 まとわりつくエディスを鬱陶し気にもう片方の手で追い払おうとするレウにむうと頬を膨らませ、今度は腰に抱きつく。

「……お前なら有力候補に育つって」

「なんのだよ。気持ち悪ぃな、ソイツ。もう近づくな」

 レウは大きなため息を吐いて、エディスの鼻を抓んできた。

「それ以上美人になられたら困る」

 エディスの頬に口づけてきて「ガキにはこれで十分だ」と口の片端だけを吊り上げて笑う。それでは一礼して背を向ける。頬に手を当てて呆然と見送ることになったエディスは「なんだよアイツ……!」と拳を握った。
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