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断罪編
17.王妃の国葬と噂と真相と罪と罰
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この度、国王カルロスの下命の下、王妃アリーヤの国葬が盛大に執り行われることとなる。
思い起こせば、一部の者たちから「冷遇妃」と蔑まれていた亡き王妃アリーヤ。
だが、実際は違う。
皆が知らないだけで、国王カルロスにより、密かに寵愛され続けていた王妃アリーヤがいる。
亡き王妃アリーヤの眠る棺を前にして、人目も憚らずに慟哭する国王カルロス。彼自身の行為が、それを確固たるものにしている。
大国を統べる偉大な王のまさかの光景。
普段は決して目にする事のない国王カルロスの悲嘆にくれる稀な姿に、皆は驚愕の眼差しを注ぎ、或る者は息を呑む。さらには国王カルロスに同情し、涙する者さえ現れる。
次第に国王カルロスの王妃アリーヤへの深い情愛に心を打たれる者たち。
あまりにも悲壮感漂う国王カルロスの打ちのめされた姿は、人々の悲しみと同情を誘うのは必至。
加えて、いつ何処から漏れたのかはわからないが、ある言葉が囁かれるようにまでなる。
案外、国王カルロス自身が呟いたのかもしれない。
『王妃アリーヤは側妃ベリンダにより毒殺されたらしい』
密かに宮殿内を駆け巡る。
人から人へと伝わるうちに、ただの噂には尾ひれが付き、やがてそれは真実となる。そして証拠隠滅を図る為に〈離宮〉には火が放たれ焼失。挙句。
『嫉妬に駆られた側妃ベリンダ様の仕業』
そうした噂が飛び交う始末。
◇
のちに『国王の死の粛正』と呼ばれる凄惨な断罪劇がある。
事の発端は王妃アリーヤの死。〈離宮〉の火事に巻き込まれた王妃アリーヤの突然の急死により、実に様々な事が露見。
国王カルロスは〈王の処刑人〉を放ち、側妃ベリンダの悪事に与した者たちや王妃アリーヤを平然と蔑んだ者たちを一斉に捕縛し、その全てを弁明の余地なく裁いている。
王妃アリーヤが火災により見るも無惨な亡骸と化したことへの報復とも言われている。
これにより、国王カルロスの報復を恐れた者の1人が「と或る罪」を告白。自身の減刑を求め、大勢の家臣たちも見守る中、国王カルロスへと直に申し開きをする。それは国王カルロスを酷く驚愕させ、憤怒させるほどの大罪。
さて、その内容は。
側妃ベリンダのお抱えの薬師として仕える1人の老女による罪の告白が始まる。頭を床へと擦り付け、声を振るわせる老女。
「側妃ベリンダ様へと「或る秘薬」を渡しておりました」
その事実を包み隠さずに打ち明ける。
謁見の間には衝撃が走る。
側妃ベリンダは「己れの若さと美しさを永続させる為」だけに、“御子を孕まない秘薬”を長年に渡り服用し、これにより今では弊害が生じ、御子が授かれないと言うのだ。
だが、事はそれだけには留まらない。
さらに深刻を極める。
側妃ベリンダの「最大の罪」を告白する薬師の老女ジョアンナは、いっそう震える声音で告げる。
「……どうか、お聞きくださいませ……」
しまいには肩さえも震わせれる。
「側妃ベリンダ様は〈後宮〉へと入宮し、国王陛下との〈初夜の儀〉を迎えてすぐに、国王陛下との御子を授かっておりました。ただ、側妃ベリダン様は美しい肢体が様変わりすることをひどく嫌がられ、故意に御子を……」
しまいには声を詰まらせる老女ジョアンナ。その表情は苦悶に満ちている。
この事実に憤る国王カルロスは、おもむろに玉座から立ち上がるなり、その手は自然と脇へと置かれる〈黄金の剣〉を掴む。だが、相手は老女。かろうじて思い留まる。
のちに。
優れた薬師である老女ジョアンナの才能に目をつけた側妃ベリンダは、老女の1人娘ジュルースの命を盾に脅しをかける。
国王カルロスの寵妃に逆らうことなど許されない。仕方なく側妃ベリンダへと仕えていた薬師の老女ジョアンナ。
実際は被害者とも言える哀れな老女ジョアンナ。彼女の命までは、さすがに奪えない国王カルロス。
余談だが。
薬草の知識に優れた薬師の老女ジョアンナと娘ジュルースは稀な才能を買われ、国王カルロスに仕える事で裁きを免れている。だが、薬師の老女ジョアンナの命が助かった最大の理由は別にある。それにより、国王カルロスから逆に謝意を受けることに。
それは後程。
◇
〈黄金宮殿〉の謁見の間で行われた薬師の老女ジョアンナの告白により、憤怒に湧く国王カルロス。
「ベリンダ! よくも国王である余を謀ったな! 余の子さえ死に追いやるとは赦されると思うな!」
怒りを露わにする国王カルロス。その表情は憤怒に歪む。
これまで培われた側妃ベリンダへの愛情は一気に深い憎悪へと変わる。
愛情と憎悪は表裏一体。まさに紙一重。
王女アリーヤが輿入れする以前までは、少なくとも側妃ベリンダを寵愛し、多大な恩寵を授けていた国王カルロス。
両親を早くに亡くした幼馴染のベリンダ嬢を行儀見習いと称しては〈後宮〉へと召し上げ、早くから優遇し、慈しでいた国王カルロス。
今となってはまやかし。
側妃ベリンダの裏の顔がまざまざと晒され、国王カルロスを謀っていた悪辣な側妃ベリンダが顔を出す。
「おのれっ!!」
国王カルロスの激しい怒りは、それを見守る臣下たちにも伝播する。
これより『悪辣な冷遇妃アリーヤ』と蔑まれた王妃アリーヤは、一気に『慈悲深き国の母』として持ち上げらる。
方や。側妃ベリンダは国王カルロスさえも謀った『悪辣な大罪人ベリンダ』として罵られる。
皮肉にも評価は逆転。
誰もが口々に悪妃ベリンダの断罪を求め、国王カルロスへと直訴までする始末。
ただ、あれ程までに王妃アリーヤを蔑んでいたにもかかわらず、自己防衛に走る臣下たちの気持ちの移ろいやすさも恐ろしい。
◇
何処の国にも存在すると思われる罪人の為の牢獄。
国王カルロスの壮麗な〈黄金宮殿〉からは、離れた場所に建つのは石造りの古い塔。
煌びやかな〈黄金宮殿〉には凡そ不似合いな陰惨な場所とも云える小さな〈罪人牢〉の中には、悪辣な側妃ベリンダが収監されている。
大罪人となったベリンダがここを出られる日は、おそらく裁きの日。
ただ、その日を待つだけの悪妃ベリンダ。
思い起こせば、一部の者たちから「冷遇妃」と蔑まれていた亡き王妃アリーヤ。
だが、実際は違う。
皆が知らないだけで、国王カルロスにより、密かに寵愛され続けていた王妃アリーヤがいる。
亡き王妃アリーヤの眠る棺を前にして、人目も憚らずに慟哭する国王カルロス。彼自身の行為が、それを確固たるものにしている。
大国を統べる偉大な王のまさかの光景。
普段は決して目にする事のない国王カルロスの悲嘆にくれる稀な姿に、皆は驚愕の眼差しを注ぎ、或る者は息を呑む。さらには国王カルロスに同情し、涙する者さえ現れる。
次第に国王カルロスの王妃アリーヤへの深い情愛に心を打たれる者たち。
あまりにも悲壮感漂う国王カルロスの打ちのめされた姿は、人々の悲しみと同情を誘うのは必至。
加えて、いつ何処から漏れたのかはわからないが、ある言葉が囁かれるようにまでなる。
案外、国王カルロス自身が呟いたのかもしれない。
『王妃アリーヤは側妃ベリンダにより毒殺されたらしい』
密かに宮殿内を駆け巡る。
人から人へと伝わるうちに、ただの噂には尾ひれが付き、やがてそれは真実となる。そして証拠隠滅を図る為に〈離宮〉には火が放たれ焼失。挙句。
『嫉妬に駆られた側妃ベリンダ様の仕業』
そうした噂が飛び交う始末。
◇
のちに『国王の死の粛正』と呼ばれる凄惨な断罪劇がある。
事の発端は王妃アリーヤの死。〈離宮〉の火事に巻き込まれた王妃アリーヤの突然の急死により、実に様々な事が露見。
国王カルロスは〈王の処刑人〉を放ち、側妃ベリンダの悪事に与した者たちや王妃アリーヤを平然と蔑んだ者たちを一斉に捕縛し、その全てを弁明の余地なく裁いている。
王妃アリーヤが火災により見るも無惨な亡骸と化したことへの報復とも言われている。
これにより、国王カルロスの報復を恐れた者の1人が「と或る罪」を告白。自身の減刑を求め、大勢の家臣たちも見守る中、国王カルロスへと直に申し開きをする。それは国王カルロスを酷く驚愕させ、憤怒させるほどの大罪。
さて、その内容は。
側妃ベリンダのお抱えの薬師として仕える1人の老女による罪の告白が始まる。頭を床へと擦り付け、声を振るわせる老女。
「側妃ベリンダ様へと「或る秘薬」を渡しておりました」
その事実を包み隠さずに打ち明ける。
謁見の間には衝撃が走る。
側妃ベリンダは「己れの若さと美しさを永続させる為」だけに、“御子を孕まない秘薬”を長年に渡り服用し、これにより今では弊害が生じ、御子が授かれないと言うのだ。
だが、事はそれだけには留まらない。
さらに深刻を極める。
側妃ベリンダの「最大の罪」を告白する薬師の老女ジョアンナは、いっそう震える声音で告げる。
「……どうか、お聞きくださいませ……」
しまいには肩さえも震わせれる。
「側妃ベリンダ様は〈後宮〉へと入宮し、国王陛下との〈初夜の儀〉を迎えてすぐに、国王陛下との御子を授かっておりました。ただ、側妃ベリダン様は美しい肢体が様変わりすることをひどく嫌がられ、故意に御子を……」
しまいには声を詰まらせる老女ジョアンナ。その表情は苦悶に満ちている。
この事実に憤る国王カルロスは、おもむろに玉座から立ち上がるなり、その手は自然と脇へと置かれる〈黄金の剣〉を掴む。だが、相手は老女。かろうじて思い留まる。
のちに。
優れた薬師である老女ジョアンナの才能に目をつけた側妃ベリンダは、老女の1人娘ジュルースの命を盾に脅しをかける。
国王カルロスの寵妃に逆らうことなど許されない。仕方なく側妃ベリンダへと仕えていた薬師の老女ジョアンナ。
実際は被害者とも言える哀れな老女ジョアンナ。彼女の命までは、さすがに奪えない国王カルロス。
余談だが。
薬草の知識に優れた薬師の老女ジョアンナと娘ジュルースは稀な才能を買われ、国王カルロスに仕える事で裁きを免れている。だが、薬師の老女ジョアンナの命が助かった最大の理由は別にある。それにより、国王カルロスから逆に謝意を受けることに。
それは後程。
◇
〈黄金宮殿〉の謁見の間で行われた薬師の老女ジョアンナの告白により、憤怒に湧く国王カルロス。
「ベリンダ! よくも国王である余を謀ったな! 余の子さえ死に追いやるとは赦されると思うな!」
怒りを露わにする国王カルロス。その表情は憤怒に歪む。
これまで培われた側妃ベリンダへの愛情は一気に深い憎悪へと変わる。
愛情と憎悪は表裏一体。まさに紙一重。
王女アリーヤが輿入れする以前までは、少なくとも側妃ベリンダを寵愛し、多大な恩寵を授けていた国王カルロス。
両親を早くに亡くした幼馴染のベリンダ嬢を行儀見習いと称しては〈後宮〉へと召し上げ、早くから優遇し、慈しでいた国王カルロス。
今となってはまやかし。
側妃ベリンダの裏の顔がまざまざと晒され、国王カルロスを謀っていた悪辣な側妃ベリンダが顔を出す。
「おのれっ!!」
国王カルロスの激しい怒りは、それを見守る臣下たちにも伝播する。
これより『悪辣な冷遇妃アリーヤ』と蔑まれた王妃アリーヤは、一気に『慈悲深き国の母』として持ち上げらる。
方や。側妃ベリンダは国王カルロスさえも謀った『悪辣な大罪人ベリンダ』として罵られる。
皮肉にも評価は逆転。
誰もが口々に悪妃ベリンダの断罪を求め、国王カルロスへと直訴までする始末。
ただ、あれ程までに王妃アリーヤを蔑んでいたにもかかわらず、自己防衛に走る臣下たちの気持ちの移ろいやすさも恐ろしい。
◇
何処の国にも存在すると思われる罪人の為の牢獄。
国王カルロスの壮麗な〈黄金宮殿〉からは、離れた場所に建つのは石造りの古い塔。
煌びやかな〈黄金宮殿〉には凡そ不似合いな陰惨な場所とも云える小さな〈罪人牢〉の中には、悪辣な側妃ベリンダが収監されている。
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