新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり

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保護犬ちゃん・トライアル編

17話 それだけでも嬉しい

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一筋縄ではいかない保護犬のきーちゃん。初日から信用されるとは思ってはいないが、水も飲まないのはマズい。同時に、きーちゃんがそこまで怯えることに胸が痛む。

保護以前、繁殖犬として悪徳業者の元に居たきーちゃん。過去に悲惨な目に遭ったからこそ、人間を恐れ、怖がるのだ。心底怖いのだ。しかも、手を差し出すだけで体を震わせるのは、虐待を受けていた可能性もある。もしかしたら、ただ従わせる為だけに日常的に叩かれていたのかもしれない。そうでなければ、この怖がりようは説明がつかない。あくまでも私の憶測だが……。

きーちゃんにとっての人間の手は、「自分を叩く為にある」と思っているのかもしれない。

現に、体を震わせ、威嚇したまま仁王立ち。

「これ以上は怖がらせるだけだよね……」

再び、犬用ゲージを布で覆い。そっとしておくことにする。手付かずのドックフードとお水は、そのまま置いておく。

「せめて……お水だけでも飲んで欲しいね」

半ば祈るように待つ。ひたすら待つ。そしてようやくだ。流石に喉が渇いたのか、犬用ゲージの中からはぴちゃぴちゃと水を飲む音が聞こえる。

「今の聞いた? きーちゃんがお水飲んでくれているよね? しかも自分から……!」

嬉しくて声が震える。頷く旦那様。

「うん、飲んでいるね。良かったね」

「だよね? 良かったぁ! きーちゃんがお水を飲んでくれたよ! 本当に良かった……」

たったそれだけの事なのに、嬉しくて嬉しくて堪らない私。

きーちゃんにとっては見ず知らずの家。それでも少しぐらいは安心してくれたのかもしれない。

お水飲むのもご飯ドックフードを食べるのも、生きる為には普通のこと。食欲は犬の本能だとも聞く。抗えない欲求であるはずの食欲にすら抵抗するきーちゃんには、新しい里親宅が安穏の地かはわからない。もしかしたら怒られる可能性もある。

そんな想いでいたのかもしれない……そう思うと居た堪れない。

当たり前のことが当たり前に出来ない今のきーちゃんだからこそ、たった僅かな水でも飲んでくれたことが嬉しい。涙が出る。

些細な事だけど一歩前進。しかも、ほんのちょっとだけだがご飯ドックフードも食べている。それが、泣ける程に嬉しかったことを今でも鮮明に覚えている。忘れない。

きーちゃんとの信頼を作る日々は、まだまだ始まったばかり。これからだ。

頑張るぞ……!


そうした中、私は子供ときーちゃんを連れて実家へと帰省する。







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