新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり

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保護犬きーちゃん・日常編②

30話 きーちゃんのお散歩事情

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きーちゃんが我が家へと来た頃は、桜の名所でもある近くの大きな公園へと、よく散歩に連れ出したこともある。もう、無理やり的な感じだけどね。だって、当のきーちゃんは、外へと出たがってはいなかったから。

何故って?

きーちゃんは人間が怖い。激しい車の往来の音も怖がる。だからか、自分の足で歩きたがらない。散歩なんてもってのほか。

「抱っこして! 抱っこして! お願いだからっ! 抱っこしてー……!」

きーちゃんが言葉を話せたら、絶対にそう言っているだろうな……と思えるぐらい、きーちゃんは必死に訴える。悲鳴すら聞こえてきそうだよ。ただ、此処でも娘っ子が必要不可欠。

そもそも、きーちゃんは娘っ子が居ないと外にも出たがらない。いつでも何処でも娘っ子が居ないと駄目なきーちゃん。だから、散歩へ連れ出すのも娘っ子の役目。ただね、少しでも地面に降ろせば、娘っ子の足に絡みついては、必死の形相で「抱っこしてよ!」と訴える。そこで、ようやく気付いたよ。

ワンコ=散歩。コレが必ずしも正解ではないらしい。

ワンコちゃんは散歩をするのが、昔から当たり前だと認識していた私。それが果たして本当に正しいのか……とすら思えてしまうんだよ。きーちゃんの嫌がりようを見ていると、明らかにストレスになっている。

そこで獣医さんに聞いてみた。

「先生、きーちゃんですが……どうしても散歩を嫌がるんですけど……」

獣医さん曰く。

「きーちゃんが嫌がるのであれば、無理に散歩をさせる必要はないですよ。ただでさえ、過酷な環境の中に置かれていた保護犬です。更なるストレスを与えるのは良くないかもしれないですね」

診察台の上で震えるきーちゃんを見つめるながら、先を続ける獣医さん。

「一般的に良いとされていることも、その子からしてみれば、負担にしかならない場合もあります。それに大型犬とは違い……小型犬の場合は、家の中でも運動量が足りている場合もあるんですよ」

そう言っては、きーちゃんの手足を確かめる獣医さん。

「うん、大丈夫ですね。きーちゃんは室内でも運動が足りているようです。前足も後ろ足にも筋肉がしっかりと付いているので運動量は充分ですよ」

確かに……毎日リビングで狂ったように走り回るきーちゃんがいる。特に、娘っ子が学校から帰って来ると嬉しいのか? 喜びの全力疾走をする。リビング中を駆け回る暴れん坊のきーちゃんがいる。

ただ、気になる事もある。きーちゃんは後ろ足に、先天性の関節の異常と鼠蹊ヘルニアを患っているのだ。

(毎日……元気に走り回っているきーちゃんだけど、本当に大丈夫なのかなぁ?)

それは気掛かりでもある。疑問に思う事は獣医さんへとすぐに質問。

「先生、きーちゃんなんですが……毎日のように激しく走り回っていますが、鼠蹊ヘルニアなどへの影響は大丈夫ですか?」

いつも親切丁寧に答えてくれる担当の獣医さんが教えてくれた。

「きーちゃんは確かに骨の異常などがありますが、もしも本当に痛かったとしたら……とても走れませんよ。家の中で走り回っているということは、今のところは大丈夫なのでしょう。しっかりと付いた筋肉もサポーターの役目を担っているので安心です。幸いですね。ただ、犬の競技会などのように急に止まったり、急な横への移動などの変則的な激しい動きは、直に骨へと負担をかけるのでよくありません。なので、お勧めはできませんね」

そもそも競技会などには出ないし、出るようなワンコちゃんでもない。日常生活が問題ないのなら、それで良かったとの思い。

ワンコちゃんだからといって散歩が全てではない事を知ったよ。だから、きーちゃんがストレスに感じる散歩は我が家では行わない。無理やり行かせるのも可哀想だしね。

きーちゃんにとっての幸せは何か?

それは見ていれば分かる。

安全な家の中、大好きな娘っ子の側にいられる事こそがきーちゃんの幸せ。


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