田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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道中編

6.磨かれる田舎娘と勘違いの女店主

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 まず、客舎に辿り着いてからの宝玉は、人生で初めてとなる桃の花の洗浴(※入浴)を体験し、その贅沢さに「ひゃーっ!」と驚嘆。

 だが、もっと宝玉を驚かせたことがある。

 桃の花の洗浴だけかと思えば、まだ次の工程が待ち受けていたのだ。素肌を晒したままの宝玉は、その状態のまま台座に横たえられ、女中により念入りに身体の隅々まで香油で磨かれる。さらには、あらぬ処まで。

「あのー……そのようなところまで磨く必要が? 恥ずかしいのですが……」

「まぁ! 何を言われるのですか! 高貴なお方に見初められた以上は失礼があってはなりません。殿方を受け入れるためには必要なことでございます。最高の姿でお迎えするのが花嫁としての礼儀です」

「……花嫁……お迎え?」

 ――うん、何の話だろう? 私は後宮妃となるんだし……。

 後宮妃も花嫁も突き詰めれば意味合いは同じ。違うのは皇帝の嫁か、そうでないか。

 まさか自分のことだとは思っていない宝玉。

 ただ、衣舗の女店主が勘違いをしているのは確か。


 ◇


「全ての汚れを落とし、美しく着飾らせるように……」

 女店主に向かって、そう言い放つ高貴な貴人。自然と溢れ出るオーラは、常人とは思えない。

 艶やかな長い髪で顔の半分を覆うせいで素顔は見えないが、着流している衣装は最上級の絹織物。しかも所作も美しく洗練されている。見るからに高貴な身分の者。

 その貴人に告げられた女主人。

 長年に渡り客商売に携わる女店主には、宝玉達の一行が、かなりの高位の身分の者だとは見抜いている。滞在する部屋も客舎では一番最上位。しかも、代金は惜しまないときた。

 だが、さすがに一行の主が皇帝王炫だとは思わない。

 実は女店主はこう見ている。

 かなりの高位の貴人が平民の娘を見初め、周囲の反対にあう前に早急に契りを結ぼうとしている……と推測。だから、宝玉のことを“花嫁”と位置付け、初夜のために磨きに磨いているのだ。

 確かに後宮妃となる宝玉は、いわゆる皇帝の妃。お嫁様。

 あながち間違ってはいない。

 ただ、少なくとも客舎では、皇帝が後宮妃となる娘を召すことは、まずないだろう。だが、事情の一切を聞かされていない女店主。大いに勘違い。おかげで花嫁衣装まで着付けてしまう始末。

 何より、薄汚れていた娘が稀にみる上玉だと気付き、余計に女店主の腕が鳴る。

 こうして全ての汚れを落とし、鮮やかな真紅の花嫁衣装と金色の髪飾りで着付けられ、さらには顔を隠すための蓋頭がいとう(※顔を覆う赤い布)まで被らされた宝玉。

「えっ? 何で??」

 宝玉にしてみれば、まだ道中の最中。

 ーーいくらなんでも、この派手な衣装はやり過ぎでは? 動きにくいし、前が見えない。

 不思議に思いながらも女店主に手を引かれ、花婿……もとい、高貴な貴人たちが待つ部屋へ。


 ◇


 一方の高貴な貴人はかなりの待ちぼうけ。
 
 近臣の張武偉と護衛官の李暁明は出入りの扉前にて控えている。

おなごの身支度は時間がかかるのが常だが、宝玉はさらに……と言ったところか」

「仕方がありません。これまでの汚れも相当に蓄積されていると思いますから、それを全て落としきるだけでも一苦労。それからの衣装合わせですから時間がかかるのは当然かと……」

 近臣の張武偉が答える。

「ボロを纏った少年のような娘が、果たしてどのように変化するのか楽しみだ」

「私もです」

 その時、ちょうど扉を叩く音がする。ようやく身奇麗にされた宝玉が登場。

 ただ、その姿には皆が驚く。当然だ。

 鮮やかな真紅の婚礼の衣装を身に付けて現れれば誰でも驚く。

「何故……花嫁姿?」



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