田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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道中編

7.女店主の勘違いと美姫な田舎娘

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「いかがでしょう! この仕上がりー!」

 衣舗の女店主が得意げな様子で告げる。

 そう、完璧なまでに美しい花嫁へと仕立てあげられた宝玉。蓋頭を被せられている為に前が見えず、女店主に手を引かれている有り様。そして高貴な貴人たちが待つ最上級の居室へと押し込まれる。

 ついで、二人の護衛官へと声をかける女店主は声高に言い放つ。

「さぁ、さぁ、武官様! ここは新婚のお二人だけにして差し上げましょう! 私たちはお邪魔虫です。外へと参りましょう」

「店主殿……我らはいついかなる時も主君をお護りするのが務めでございます。主君の側を離れるわけにはまいりません。店主殿の役目もここまでです」

 近臣の張武偉は自らの手で退場を促す。

「さぁ、もはやお引き取りください。そしてこれは謝礼です。どうかお受け取りください」

 すでに多額の代金を支払われている女店主は、さらなる上乗せの謝礼金に驚嘆。

 ーー余程の高貴な御仁だわ!

 近臣の張武偉から握らされた金色の貨幣。輝く貨幣と同じように瞳を輝かせる女店主。目を丸くしながらも自然と顔はにんまり。

 刹那、あらぬ妄想を抱く女店主。

 新婚夫婦の初夜であれば、いくら護衛とはいえ席を外すはず。それにもかかわらず残る二人の護衛官。

「まさか……いや、でも、きっとそうに違いないわ」

 独りでぶつぶつと呟く。しまいには顔を赤らめる始末。

 女店主は何事かを察し、なるべく声を落として囁くように近臣の張武偉へと告げる。

「私としたことが勘違いを……」

 詫びる女店主は先を続ける。

「まさか妓女にする娘だとは存じ上げませんでした。確かに……この娘ならお天子様をも虜にしてしまうほどの美しい容姿をしております。お胸は少々可愛らしいですが……ほほっ、それもご愛嬌ですわね? 皆様で彼女に指導を施すとは知らずに、とんだご無礼を……美しい娘ですわ。存分にお楽しみください」

「店主……そなたの言っている意味がわからないのだが……」

 近臣の張武偉が言い放つ。

「ほほっ、そのように誤魔化されなくても大丈夫でございます、武官様。誓って他言はいたしませんのでご安心ください。それでは私はこれで……」

 意味不明の言葉を吐き、そそくさと立ち去る女店主。どうやら宝玉がこれから娼妓になる娘と見ているようだ。

 元が貧しい娘でも容姿が優れていれば違う方法でお金を稼げる。それもある意味では生きる術の一つ。

 勘違いも甚だしい女店主の行き過ぎた行動と配慮には苦笑するしかない面々。だからと言って婚礼衣装はやり過ぎ感が否めない。


 ◇


 さて。大いに勘違いした宝玉は、やたらと重い衣装と視界を塞ぐ蓋頭に不満が爆発。

「重ーっい! この被り物も邪魔~!!」

 勢いよく蓋頭を放り投げる。

 途端に露わになる宝玉の着飾った姿。

「「「おおーーーっ!!」」」

 称賛の声が上がる。

 そこにいたのは薄汚れた田舎娘ではなく、目を見張るほどの美姫。品のほどは……まぁ、おいおい。

 あれ程にパサついていた宝玉の長い黒髪は、洗浴と香油で美しく整えられ、今では美しい濡羽色へと様変わり。

 ふわりと靡くさまが美しい。

 おそらくは、生まれて初めて化粧を施された宝玉。

 元より、きめ細かい肌は玉のように磨かれ、鮮やかな赤い紅が引かれた唇は艶めいている。ぷっくりとした豊かな唇は、まるで誘っているかのように艶めかしい……かと思いきや。

「もうっ、衣装が重い~!」

 早速脱ごうとしている姿は宝玉らしい。

 何より、ぱっちり二重の黒曜石のような美しい瞳は、三人の貴公子を真っ向から捉え、離さない。憤慨しているせいでキラキラと輝いているのが、また良い味を出している。

「……美しいな」

 高貴な貴人がぼそりと零す。

 もはや魅了される三人の貴公子たち。棒立ちしたままの姿勢で宝玉だけを見つめ、見惚れたまま一瞬言葉を失う。

「あれっ? 炫様も武偉様も暁明様もどうかされましたか? おーい、大丈夫ですかぁ?」

「これは確かに店主の言う通りだ。容姿が優れているとは思ったが……まさかこれほどとはな。嬉しい誤算だ」

 感嘆する高貴な貴人は嬉しそうに告げ、宝玉を引き寄せる。途端に、抱き締められる宝玉は自由を奪われ、ジタバタと。

「よくも……これ程の美貌を隠していたものよ」

「宝玉様、誠にお美しい。素晴らしいですね。泥の中にこそ光る玉が隠されていたとは! さすがは我が主です。宝玉様の美貌なら後宮一の美姫となりましょう。あとは品位と教養でしょうか……」

 賛美する近臣の張武偉。

「……まるで下界に降り立った天女のようです。お美しいです、宝玉様……本当にお美しい」

 ぼーっと見惚れる護衛官の李暁明。

 みるみると顔を赤らめ、しまいには鼻を覆う。どうやら、美しく変貌を遂げた宝玉の美しさにあてられたらしい。鼻血まで。

 おかげで「余のものだ。見るな暁明……」と高貴な貴人は自らの外衣で宝玉を隠してしまう。

 いわゆる、妬き心。


 ◇


 結局、どうなったかといえば。

 さすがに婚礼衣装で王城入りするのは、他の後宮妃の目もあり、良家の令嬢の普段着へと着替えるも、実はその前に一悶着。

 婚礼衣装を纏う宝玉の美しさと愛らしさに触発された高貴な貴人は、宝玉を軽々と抱きあげ寝台へと足を向ける。

「宝玉、せっかくの婚礼衣装だ。一層のこと“初夜の儀”を迎えるか?」

「初夜の儀? なんですか、それは?」

「ふふっ……無垢なそなたに教えるのも楽しみでならん。共寝をするということだ。朝まで二人で眠るのだ」

「炫様はお一人で眠ることもできないのですか? 子供ですね。それに私の相手は皇帝陛下となりますので、文官の炫様の悪ふざけには付き合ってはいられません」

「宝玉……そなたは後宮妃になるのであろう? ならば問題はない。だが、あえて聞くが……宝玉は後宮妃の意味をわかっているのか?」

「ええ、ちゃんとわかっておりますよ。皇帝陛下を楽しませる人のことでしょう? 暁明様がそう教えてくれました」

「どのように楽しませる気だ?」

「うーん、ならば歌でも歌いましょうか? 一緒に楽しむのであれば畑で美しい野菜を育てるのは? 大事ですよ、食べ物は……そう思ったらおなかが空きました」

 あはははーっ! 声を立てて笑うのは近臣の張武偉。

「これは前途多難ですね、我が主……」


 こうして道中再開。

 いよいよ都入り。

 そして皇帝王炫が住まう光王城へと入城する御一行。

 前途は意気揚々。

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