田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮編②

18.公主の怒りと不届者への推察

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 皇帝・王炫に会えないまま戻った宝玉。「おかえりなさい」と満面の笑みで出迎える後宮妃・麗香。

「もう炫には会えたの? それにしても……やけに早かったのね、宝玉ちゃんー……宝玉ちゃんっ?! いったいどうしたの!」

 案の定、頭から真っ黒な墨まみれの宝玉に驚く後宮妃・麗香。

 その刹那、眉間には怒りの皺が寄る。

 だが、何事かを察する彼女は、すぐに侍女を呼び、宝玉を湯殿へと連れて行くように言い放つ。そして宝玉が湯殿へと行くと、見計らったように同行した側仕えを呼び付ける。

「何があったかを説明する前に……おまえがいるのに何をしていたの? あの娘はなのよ? この事を皇帝陛下がお知りになれば、いくらおまえでもタダでは済まされないわ」

「公主様っ、申し訳ございません!」

 額を床へと擦り付ける側仕えは、ただただひれ伏す。

「……」

 それを無言で見つめる後宮妃・麗香。

 次には大きく溜め息をつきながらも、長年忠義を尽くす側仕えを罰するつもりはない彼女は、事の経緯を説明するように言い放つ。

 平伏しながらも側仕えは、〈帝宮〉と〈皇后宮〉を繋ぐ回廊に何者かが潜み、宝玉へと嫌がらせをしていた事を告げる。

「叫び声が女のものであることから、後宮内の誰かであることは確かだわ。その不届者が誰であるのかをすぐに調べなさい」

 ーー意外と身近な者かもしれないわね。

 すぐに立ち去る側仕えは命に従う。


 ◇


 そもそも、〈皇后宮〉と〈帝宮〉を繋ぐ回廊に出入りできる者は後宮妃・麗香を除き、皇后か皇太后のみ。だが、現在は不在の為、あり得ない。

 端的に言えば、一介の後宮妃の立ち入りは許されていない。

 もし、後宮妃の誰かか、あるいは、それに与する者であれば問答無用で裁きの対象となる。

 ただ、後宮内でのいざこざは、今に始まったことではない。〈後宮〉が存在する限り、女たちの争いは続く。

 ーー厄介なこと。

 湯殿にいる宝玉の身を案じながらも、後宮妃・麗香は考えを巡らせる。妹同然の宝玉に嫌がらせをする者を許せるはずがない。

「後宮妃としては公にされていない宝玉ちゃんが狙われるのはなぜ? 表向きは私の侍女として仕えている。宝玉ちゃんが書庫へと通うことも、〈皇后宮〉へと立ち入りを許されていない他の後宮妃が知るはずがない。そうだとしたら……」

 ーー疑いたくはないけれど、この〈皇后宮〉に仕える者に内通者が? 

 主君である私を欺く者がいる……そういうことになる。

 後宮妃・麗香の側に仕える者は、信頼に足る者が選ばれてはいる。大切な姉である麗香を害する者を許さない皇帝・王炫の配慮だ。

 それでも抜け穴はある。

 料理を運ぶ侍女や衣装係なども出入りする。意外と人の出入りは多い。特に位が高ければ、それだけ仕える者や付く者が多い。


 ◇


 数日後。

 不届者の身元は割合すぐに明らかになる。

 浅はかな者だからこそ、何も考えずに平然と〈皇后宮〉と〈帝宮〉を繋ぐ回廊へと出入りし、浅はかな者だからこそ、自分の指先についた松脂にも気付かない。

 松脂は落ちにくい。だから、嫌がらせの為に墨に松脂を入れたのだろうが、それが裏目に出る場合もある。特に爪の間に入り込んでしまえば落としにくい。

 それに気付いたのは、やはり後宮妃・麗香。

 墨彩画も嗜む彼女は、画材を用意する一人の侍女の爪が黒ずんでいることに気付く。おまけに松脂は絵を保護する為にも使われる。

 合点がいく。

 ーー私に仕える身でありながら危険を犯し、愚かな行為に出る侍女。その理由は何? 問いただす必要があるわね。

 後宮妃・麗香をその侍女を呼び付ける。

 だが、その前に湯殿へと向かった宝玉は……といえば、珍しく落ち込んでいたりする。



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