田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮妃・三の妃編

23.帝家姉妹と地牢の“三の妃”

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 光王城の暗部ともいえる〈地牢〉に集うのは、帝家姉弟の後宮妃・麗香と皇帝・王炫、それに近臣の張武偉。

 目の前の牢獄に入るのは、“後宮の三妃”と謳われる中の一人。

 後宮妃・“三の妃”。

 牢獄の中に敷かれた敷布の上に座し、意外にも落ち着いているようにも見える。その内心とは裏腹に。

 〈地牢〉に囚われる“三の妃”を見つめながら、傍らに立つ皇帝・王炫へと言葉をかけるのは後宮妃・麗香。

「炫……いつもながらは優秀ね。私の侍女の妹君を助けてくれた上に、ついでに首謀者を捕らえてしまうのだから……さすがは武偉だわ」

「姉上、武偉なら当然です」

 うなずく皇帝・王炫。

 ふふっ……と微笑みを湛えながら、後宮妃・麗香は近臣の張武偉へと視線を滑らせ、「ご苦労だったわね」と謝意を表す。

 「のお役に立てて光栄にございます」

 即座に畏まり、拱手きょうしゅ(※右手で拳を作り、左手で包み込む挨拶の作法)をする近臣の張武偉。彼は帝家の姉弟ともに己の主君と崇め、敬愛している。

「おそらく……武偉ほど余の意を理解して動く近臣はいない」

 ハッキリと告げる皇帝・王炫の言葉に、「私もそう思うわ」と賛同する後宮妃・麗香は嬉しそうに微笑する。

 彼女は……いついかなる時でも帝家の姉弟に寄り添い、忠義を尽くす近臣の張武偉を心から信頼し、好意すら抱いている。

 ずっと昔から……。

 実は公主・麗香と近臣の張武偉は元は許婚同士。

 叔父で先代皇帝・昭耀の人質妃として〈後宮〉へと囚われなければ、今頃二人は夫婦の契りを交わし、さらには可愛い我が子にも恵まれていたかもしれない。

 だから、後宮妃・麗香は近臣の張武偉のことは敬意を込め、皇帝・王炫の「臣下」とは言わず、「友」と呼ぶのだ。

 二人のことはさておき。

 “三の妃”を問いただすことにする帝家の姉弟。


 ◇


 牢獄に座している“三の妃”へと口火を切ったのは皇帝・王炫。

「そもそも……なぜ? 宝玉が侍女ではないと知っている? 〈後宮〉から出ることは許されないおまえが知る由もない事情だ」

「……」

 黙して語らない“三の妃”。

 動いたのは近臣の張武偉だった。

「皇帝陛下からのお言葉だ。一介の後宮妃が取り合わないとは不敬千万……即座に答えろ」

 刹那、帯刀する長刀をすらりと抜き、鉄格子の向こうに座している“三の妃”の首元へと突きつける近臣の張武偉。

 それを諫めるのは後宮妃・麗香。

「武偉……どうか刀は納めてちょうだい。あなたの愛刀を後宮妃の血で染める必要はないわ。まずは私に任せてくださらない?」

 後宮妃・麗香には心当たりがないとも言い切れないからだ。

 なぜなら、今回の「墨事件」に加担した侍女は、元々は後宮妃である“三の妃”の生家から入宮した侍女の一人。

 そして、他の侍女たちから日常的にいじめを受けていた彼女を救い出したのは後宮妃・麗香に他ならない。


 ◇


 今回、不敬行為に加担した侍女の名は青鈴せいりん

 真面目で懸命な侍女にもかかわらず、顔には火傷をしたような醜い傷跡があるせいで皆からは下に見られ、他の侍女たちの仕事さえも押し付けられていた青鈴。

 それでも文句一つも言わないのは、歳の離れた妹・小鈴しょうりんを養う為でもある。

 最下層の侍女の多くは裕福な家の出ではない。

 戦に乗じて連れて来られたり、貧しいがゆえに人買いに売られた者や元々の身分が奴婢であったりと様々。〈後宮〉に仕える侍女の多くは、高位の宮女ばかりではないのが現実。

 その最下層の侍女・青鈴が、今では〈皇后宮〉に住まう後宮妃・麗香付きの侍女となれば、“三の妃”にも思うところはあるのだろう。

 そこを踏まえて問いただす後宮妃・麗香。

 ようやくこちらを向き、平伏しながらも不満の言葉を並べ立てる“三の妃”は告げる。

「面白くないのは当然でしょう? どうして私より格下の侍女が公主様に仕えることができるの? 生家でも義姉から側女の娘だと下に見られ、ここでも私は卑しい侍女より下だとでも言うの!」

 吐き捨てる“三の妃”。

 どうやら生家での微妙な立場から、今回の不敬行為へと至った“三の妃”。

 侍女の青鈴を共に連れて〈後宮〉へと上がったのも、自分の憂さを彼女で晴らす為。生家でも貶めていた可能性がある。侍女・青鈴の顔にある火傷の跡が、まさにそうだ。

 それが後宮妃・麗香の侍女へと召し上げられてしまったのだ。

 俄かに、面白くはない。

 侍女・青鈴を貶めるために近付けば、後宮妃・麗香に大切に扱われている侍女姿の宝玉を目撃する。彼女の妹である小鈴を盾に脅せば、泣く泣く宝玉の存在を口にする侍女・青鈴。

 “三の妃”の胸には沸々と憤りが。

「誰も彼も許せない……!」

 憤りは募るばかり。

 さらには義姉の“二の妃”の立場を貶める為でもあるらしい。

 小さく吐息をつく後宮妃・麗香。

「……事は思ったより複雑なようだわ」

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