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後宮妃・三の妃編
27.宝玉と三の妃の裁きの終着
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さらに後日。
皇帝・王炫から“三の妃”の裁きを一任された宝玉は、「とある事」も願い出ている。
「炫様……〈冷宮〉は寂しいところですね」
「宝玉、〈冷宮〉とは……元来そういうところだ。だが、余の寵妃であるおまえには縁もゆかりもない所。宝玉が憂う必要はない」
寵妃……という言葉には然程反応しない宝玉は、さらりと聞き流してしまう。皇帝・王炫も報われない。
「そうかもしれませんが……炫様、知っておられますか? 人の負の感情が溜まる場所には陰の気が滞り、人の心を余計に蝕んでしまいます。炫様の御代に陰気が溜まる場所があるのは宝玉は嫌です。そこでですね……せっかく庭園があるのなら、それを使わない手はありません。一層のこと、陽気な場所へと造り変えるのはいかがでしょう?」
頭を垂れながらも声音は弾み、上目遣いで皇帝・王炫をチラリと見る宝玉。この表情に弱い皇帝・王炫。
ーー誠に愛らしいから困る。
彼の気のせいでなければ、宝玉の美しい黒曜石の瞳は、より一層燦々と輝いている。こういう表情をする時の宝玉は、大抵の場合何かを閃いた時。
「宝玉……どうやら何かを思いついたようだ。おまえの目が楽しそうに輝いている。好きにやるが良い」
「ありがとうございます!」
皇帝・王炫のお言葉の通り、好きにやる宝玉は、実は一風変わった罰を“三の妃”へと課している。
◇
朝陽が差し込む気持ちの良い朝。
裏寂しい〈冷宮〉では、面白い光景が目の当たりにされていた。
畑仕事にはもってこいのお仕着せ姿の二人の後宮妃が、片手には鍬を持ち、もう片方の手には、苗木やら肥料やらの入った樽を下げて〈冷宮〉の庭園に立つ。
建前上は侍女となっている宝玉に加え、後宮妃・“三の妃”と、さらには宝玉付きの小間使いとなった小鈴もいる。宝玉によく懐いている姿が微笑ましい小鈴。
今回、宝玉は食べ物を粗末にした“三の妃”に畑作りの仕事をさせる。
一、物のありがたみを教える為。
二、侍女たちの苦労をわからせる為。
三、侍女・青鈴姉妹への許し難い行為を反省させる為。
等々、それらを償わせる意味でも、”三の妃”に自らの手で物作りをさせ、苦労をさせることにした宝玉。
◇
「……何で私が!」
「何で? 貴女様は悪いことをしたのだから、その償いはしないといけないと思います。皇帝陛下も望んでいることですよ。皇帝陛下の命に従わないと……」
「従わないと何だというのよ?」
「さぁ、私の口からはとても言えません。ここは大人しく従った方が……そうでないと、本当に知りませんよ~……」
ちょっと悪い顔をする宝玉。
憤る“三の妃”にもかかわらず、「はいはい、無駄口は良いので手を動かしてくださいね」と宝玉は強引に手伝わせる。
荒れた庭園に転がる石を除くことから始め、つぎには土をおこし、草を除きつつ、何度も土を掘り返し、堆肥を混ぜ、土壌を改良する。
二つの小さな畑を作る宝玉。
一方には小さな苗木を植え家庭菜園に、もう片方には花の種を植え、綺麗な花壇を目指す。
「いっぱいお花が咲くと良いね!」
小鈴も楽しそうに手伝っている。
最後は水を蒔き完成。
でも、ここからが本番。毎日の水遣りや余分な雑草抜き、日々の労力は必要不可欠。
丹精込めてこそ植物は育つ。
そしてある変化が見られる。
◇
最初こそ文句を垂れていた“三の妃”だったが、いつの間にか宝玉に倣うように黙々と畑作りに勤しんでいる。懸命に取り組んでいるのだ。
ーー本来は良い人なんだよ、“三の妃”様は……。
“三の妃”の変わりゆく姿に、自然と笑みが零れる宝玉は、顔や手が汚れても気にすることなく頑張る彼女の姿に感心。
陽の光を浴び、自然や大地と戯れる行為は、人の心を落ち着かせる作用がある。
心をリラックスさせるのだ。
おのずと陽の気が溢れ、心も和む。
「“三の妃”様……初めてとは思えないぐらいお上手ですね。気付いておられますか? 懸命に土いじりをする“三の妃”様の表情は優しいですよ。それにとてもお綺麗だと思います」
宝玉の言葉に驚く“三の妃”。
だが、次には少し恥ずかしそうに「ありがとう」と小さな声で呟く。
ーーどうしよう? 初めて人から褒められたわ。
それが嬉しかった“三の妃”がいる。
生家では常に役立たずの烙印を押される彼女には、心から誉めてくれる人も、真剣に自分と向き合ってくれる人もいない。
それを平然と言ってくれる宝玉に、おのずと感嘆する“三の妃”。
嬉しい……と顔が赤らめる。
「“三の妃”様……植物は『元気に育ってね~♪』と声をかけながらお水をあげる方が育ちも良いんですよ。きっと、お花も喜ぶんだと思います」
「……?」
「そう思うと……親なら我が子を愛情深く育てるのは当たり前のことなんですよ。子供なら親から愛情を注がれるのは何よりも嬉しいものです。“三の妃”様は本来受けられるべき愛情をもらえずに育ち、それはとても悲しいことだと思います。子供なら当然の権利なのに……本当に悪いのは“三の妃”様ではなく、貴女様を無下に扱ったご家族にこそ問題があるのでしょうね」
「……っ?!」
“三の妃”の瞳が揺らぐ。
「でも、“三の妃”が今回した行為はいけない事なので罪は償いましょう」
意外にも素直にうなずく“三の妃”。
それから毎日の水遣りに訪れる“三の妃”の姿がある。
人は変わるもの。変われるもの。
真心を持って接した宝玉の成せる技かもしれない。
「元気に育ってね~♬」
声をかけながら水を蒔く“三の妃“は、とても楽しそうで生き生きしている。
“三の妃”には懸命に生きる毎日が眩しく、後宮妃として皇帝・王炫の寵愛を競う日々よりも、ずっと心が満たされて行くのが分かる。
初めて生き甲斐を見つけた“三の妃”。それが嬉しくてたまらない彼女は心の中でそっとお礼を言う。
ーーありがとう、宝玉様。
“三の妃”は自分が植えた苗や花が芽吹いた時、その命の煌めきに感涙したとか。
これ以後、宝玉に懐く“三の妃”がいる。彼女は後宮妃・麗香から宝玉との親交を許されたのだ。
これにて「墨事件」は一件落着。
◇
余談。
「あの“三の妃”がこうも変わるとは誰も想像しなかったことでしょう。宝玉ちゃんは素晴らしい子だわ。あらら……それにモテモテだわ。ふふっ、炫……妬けるでしょう?」
後宮妃・麗香は茶を飲みながら、傍らに座る実弟の皇帝・王炫へと言葉をかける。
「……」
敢えて答えない皇帝・王炫。
だが、内心では宝玉を愛でたくて仕方ないのに平静そのもの。
新しい風を起こす宝玉を称賛する帝家の姉妹がいる一方で、家名に泥を塗った“三の妃”への怒りに燃える者がいる。
皇帝・王炫から“三の妃”の裁きを一任された宝玉は、「とある事」も願い出ている。
「炫様……〈冷宮〉は寂しいところですね」
「宝玉、〈冷宮〉とは……元来そういうところだ。だが、余の寵妃であるおまえには縁もゆかりもない所。宝玉が憂う必要はない」
寵妃……という言葉には然程反応しない宝玉は、さらりと聞き流してしまう。皇帝・王炫も報われない。
「そうかもしれませんが……炫様、知っておられますか? 人の負の感情が溜まる場所には陰の気が滞り、人の心を余計に蝕んでしまいます。炫様の御代に陰気が溜まる場所があるのは宝玉は嫌です。そこでですね……せっかく庭園があるのなら、それを使わない手はありません。一層のこと、陽気な場所へと造り変えるのはいかがでしょう?」
頭を垂れながらも声音は弾み、上目遣いで皇帝・王炫をチラリと見る宝玉。この表情に弱い皇帝・王炫。
ーー誠に愛らしいから困る。
彼の気のせいでなければ、宝玉の美しい黒曜石の瞳は、より一層燦々と輝いている。こういう表情をする時の宝玉は、大抵の場合何かを閃いた時。
「宝玉……どうやら何かを思いついたようだ。おまえの目が楽しそうに輝いている。好きにやるが良い」
「ありがとうございます!」
皇帝・王炫のお言葉の通り、好きにやる宝玉は、実は一風変わった罰を“三の妃”へと課している。
◇
朝陽が差し込む気持ちの良い朝。
裏寂しい〈冷宮〉では、面白い光景が目の当たりにされていた。
畑仕事にはもってこいのお仕着せ姿の二人の後宮妃が、片手には鍬を持ち、もう片方の手には、苗木やら肥料やらの入った樽を下げて〈冷宮〉の庭園に立つ。
建前上は侍女となっている宝玉に加え、後宮妃・“三の妃”と、さらには宝玉付きの小間使いとなった小鈴もいる。宝玉によく懐いている姿が微笑ましい小鈴。
今回、宝玉は食べ物を粗末にした“三の妃”に畑作りの仕事をさせる。
一、物のありがたみを教える為。
二、侍女たちの苦労をわからせる為。
三、侍女・青鈴姉妹への許し難い行為を反省させる為。
等々、それらを償わせる意味でも、”三の妃”に自らの手で物作りをさせ、苦労をさせることにした宝玉。
◇
「……何で私が!」
「何で? 貴女様は悪いことをしたのだから、その償いはしないといけないと思います。皇帝陛下も望んでいることですよ。皇帝陛下の命に従わないと……」
「従わないと何だというのよ?」
「さぁ、私の口からはとても言えません。ここは大人しく従った方が……そうでないと、本当に知りませんよ~……」
ちょっと悪い顔をする宝玉。
憤る“三の妃”にもかかわらず、「はいはい、無駄口は良いので手を動かしてくださいね」と宝玉は強引に手伝わせる。
荒れた庭園に転がる石を除くことから始め、つぎには土をおこし、草を除きつつ、何度も土を掘り返し、堆肥を混ぜ、土壌を改良する。
二つの小さな畑を作る宝玉。
一方には小さな苗木を植え家庭菜園に、もう片方には花の種を植え、綺麗な花壇を目指す。
「いっぱいお花が咲くと良いね!」
小鈴も楽しそうに手伝っている。
最後は水を蒔き完成。
でも、ここからが本番。毎日の水遣りや余分な雑草抜き、日々の労力は必要不可欠。
丹精込めてこそ植物は育つ。
そしてある変化が見られる。
◇
最初こそ文句を垂れていた“三の妃”だったが、いつの間にか宝玉に倣うように黙々と畑作りに勤しんでいる。懸命に取り組んでいるのだ。
ーー本来は良い人なんだよ、“三の妃”様は……。
“三の妃”の変わりゆく姿に、自然と笑みが零れる宝玉は、顔や手が汚れても気にすることなく頑張る彼女の姿に感心。
陽の光を浴び、自然や大地と戯れる行為は、人の心を落ち着かせる作用がある。
心をリラックスさせるのだ。
おのずと陽の気が溢れ、心も和む。
「“三の妃”様……初めてとは思えないぐらいお上手ですね。気付いておられますか? 懸命に土いじりをする“三の妃”様の表情は優しいですよ。それにとてもお綺麗だと思います」
宝玉の言葉に驚く“三の妃”。
だが、次には少し恥ずかしそうに「ありがとう」と小さな声で呟く。
ーーどうしよう? 初めて人から褒められたわ。
それが嬉しかった“三の妃”がいる。
生家では常に役立たずの烙印を押される彼女には、心から誉めてくれる人も、真剣に自分と向き合ってくれる人もいない。
それを平然と言ってくれる宝玉に、おのずと感嘆する“三の妃”。
嬉しい……と顔が赤らめる。
「“三の妃”様……植物は『元気に育ってね~♪』と声をかけながらお水をあげる方が育ちも良いんですよ。きっと、お花も喜ぶんだと思います」
「……?」
「そう思うと……親なら我が子を愛情深く育てるのは当たり前のことなんですよ。子供なら親から愛情を注がれるのは何よりも嬉しいものです。“三の妃”様は本来受けられるべき愛情をもらえずに育ち、それはとても悲しいことだと思います。子供なら当然の権利なのに……本当に悪いのは“三の妃”様ではなく、貴女様を無下に扱ったご家族にこそ問題があるのでしょうね」
「……っ?!」
“三の妃”の瞳が揺らぐ。
「でも、“三の妃”が今回した行為はいけない事なので罪は償いましょう」
意外にも素直にうなずく“三の妃”。
それから毎日の水遣りに訪れる“三の妃”の姿がある。
人は変わるもの。変われるもの。
真心を持って接した宝玉の成せる技かもしれない。
「元気に育ってね~♬」
声をかけながら水を蒔く“三の妃“は、とても楽しそうで生き生きしている。
“三の妃”には懸命に生きる毎日が眩しく、後宮妃として皇帝・王炫の寵愛を競う日々よりも、ずっと心が満たされて行くのが分かる。
初めて生き甲斐を見つけた“三の妃”。それが嬉しくてたまらない彼女は心の中でそっとお礼を言う。
ーーありがとう、宝玉様。
“三の妃”は自分が植えた苗や花が芽吹いた時、その命の煌めきに感涙したとか。
これ以後、宝玉に懐く“三の妃”がいる。彼女は後宮妃・麗香から宝玉との親交を許されたのだ。
これにて「墨事件」は一件落着。
◇
余談。
「あの“三の妃”がこうも変わるとは誰も想像しなかったことでしょう。宝玉ちゃんは素晴らしい子だわ。あらら……それにモテモテだわ。ふふっ、炫……妬けるでしょう?」
後宮妃・麗香は茶を飲みながら、傍らに座る実弟の皇帝・王炫へと言葉をかける。
「……」
敢えて答えない皇帝・王炫。
だが、内心では宝玉を愛でたくて仕方ないのに平静そのもの。
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