田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮妃・二の妃と林家編①

28.後宮妃の生家と当主の野望

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 “三の妃”の生家である林家りんけ

 自然界の緑が……樹々が上へ上へと伸びるように、増すように、それを示すかのように「林」の名を持つ当主の欲も根深く、そして増して行く。

 林家は代々官僚の家柄で朝議にも参列し、国政にも携わってきた。先代皇帝・昭耀の頃には大臣職も務めたほどだ。

 だが、政変により降格処分。

 現皇帝・王炫は叔父である先代皇帝・昭耀の時に仕えた役人の全てを交代しているわけではない。

 もちろん、先代皇帝・昭耀とともに、武器を手に歯向かった丞相以下、それに与した者も同罪と見なされ、討ち取られている。

 だが、自ら刀を捨て、投降した者には恩赦を与え、降格なりの処分で済ませ、そのまま登用している。

 優秀な者もいる。それに全てを裁いてしまえば国政が一気に瓦解する。早期の復興を望むのであれば、温情を与え、使える者は使い、恩を売る方が良い場合もある。

 ただ、皇帝・王炫も愚かではない。

「二度はない」

 そう言い放つ通り、次に皇帝の己へと刃を向けるようなことがあれば、「次こそは容赦はしない」との裏の意味が隠されている。

 必要以上の欲は抱かない方が身のためであることは確か。

「余程の愚か者でなければ、それぐらいは察するはずだ。今の地位のまま安穏に生きたければ、だが……さて、どう出る?」

 不遜に呟く皇帝・王炫は、実は温情を与えた臣下たちの忠誠心を試してもいるのだ。

 ーー降格されても忠誠を違えず仕えるか、否か?

 
 さて。

 今代皇帝・王炫の後宮妃として、二人の娘を〈後宮〉へと入宮させた林家の当主。そこまでは許された。

 皇帝・王炫も臣下との摩擦を望んでいるわけではない。許容範囲。それに寵愛を与えるつもりもないから脅威にもなり得ない。


 ◇


 皇帝・王炫から温情を賜り、生きながらえた林家の当主。

 最初こそは感謝し、今の身分に満足はする。だが、元来欲深な者には「満足」という言葉は当てはまらない。

 野心は次第に増長する。だからこそ、正妻腹と側女腹の娘二人を〈後宮〉へと入宮させたのだ。

 皇帝の権威の象徴でもある〈後宮〉がなくならない限り、後宮妃は必要不可欠。そして御代が代われば、後宮妃も入れ替わる。

「当家が嫡子に恵まれないならば、娘たちに帝家の血を引く孫を産んでもらえばいい。その子が次代皇帝になれば、私は皇帝の外祖父となり、この世の栄華を約束される。重鎮に返り咲くことさえできるはずだ」

 野心は尽きない。そうした過ぎたる思いがひしめく。

 表面上では媚びへつらいながらも、内心では野望が渦巻く林家の当主。

「器量良しの娘が二人も後宮へと上がっているのだ。どちらかは寵愛と御子を授かるはずだろう」

 あわよくば……とほくそ笑む。

 帝家と姻戚になれれば、これ幸い……とまで欲望を抱く林家の当主。

 だが、彼のもとには吉報どころか悪い知らせが届く。

 正妻腹の娘である“二の妃”からの文だ。

「お父様……あの出来損ないの側女の義妹いもうとが不始末をしでかしました。幸い、私にお咎めはありません。それでも義妹がいれば、この先はどうなることかと心配は尽きません。それこそ林家に飛び火する可能性も出て参りましょう。お父様、あの愚かな義妹をこのままにしておいてよろしいのですか?」

「……あの役立たずが!」

 この文に憤慨する林家の当主。

 その文を破り捨て、怒りのまま火にくべてしまう。

 側女腹の娘を生かしておいたのも後宮妃として利用できるからであって、我が子だとは認めてもいない林家の当主。

「それすらも望めないとは……もはや、利用価値すらない。とんだ穀潰しだ!」

 林家の当主は正妻に相談。

「旦那様……だから申し上げましたでしょう。卑しい側女になど手を出すべきではなかったのです」

 かねてより、正妻は夫に召し上げられた美しい側女を憎み、さらには夫の子を孕んだことには憤慨している。

 ーー美しいだけが取り柄の卑しい女。気に入らなかったわ。あの女の娘も大嫌い。

 そう思う正妻は、ある物を自分の娘“二の妃”へと密かに送る。それは側女の命を奪ったものでもある。

 正妻は当主である夫と同様に、義理の娘を愛してはいない。正妻という立場を側女母娘のせいで沽券にされたのだ。

 ーー腹立たしいこと。

 この機会を利用しない手はない。
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