32 / 50
後宮妃・二の妃と林家編①
30.宝玉の願いごと
しおりを挟む
「炫様……つかぬことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「宝玉、いきなり改まってどうした?」
「いえ、なんとなく……うーん、あのですね」
言いにくいのか、なかなか先を言わない宝玉。
ーー図々しくも、このようなことをお願いしても許してくださるだろうか? でも、今は自分たち以外は誰も使っていないし、あそこを住まいに変えてもいいのでは?
そう思いながらも少々遠慮がちの宝玉。
それを見つめる皇帝・王炫は思う。
ーー躊躇うとは宝玉らしくない。余程に大それた願いとみえる。もしや……。
フッと微笑する皇帝・王炫は、諭すように優しく語りかける。
「宝玉……何を躊躇っている? 口に出さなければ分からない。願いごとがあるなら申してみろ。可能な限り叶えよう。聡いお前のことだ。充分に聞く価値はある」
「炫様……どのような事でも聞いていただけるのですか? 無茶なお願いかもしれませんよ?」
「ああ。さすがに『皇帝になりたい』というのは無理だが……それ以外なら構わない。『皇后になりたい』という願いでもいいぞ? 聡いお前なら善き皇后となるだろう」
「いえ……そのようなお願いではありません。それよりも大事なことです」
さらりと受け流す宝玉。
「それよりも、か……それは残念だ」
微笑みを湛えながらも内心では落胆の皇帝・王炫。
「では、気を取り直してお聞きしますが、炫様……〈冷宮〉は今のところ使われておりませんよね?」
「ああっ、誰も好き好んで〈冷宮〉には行きたがらない。あそこは後宮妃には墓場のような場所だ。それが今では……」
くくくっと笑う皇帝・王炫の脳裏には、今の〈冷宮〉の変わり果てた姿が浮かぶ。
寂しい場所であるはずの〈冷宮〉の庭園には、青々とした農作物が実り、美しい花畑まであるのだ。
おそらく、他の後宮妃が見たら腰を抜かすだろう……見事な光景が広がっている。
ーー荒れた庭園を、よくもあそこまで作り替えたものだ。勤勉にして賢明な余の宝玉にはいつも驚かされる。
「宝玉……お前たちぐらいだろう。好き好んで〈冷宮〉へと毎日のように入り浸るのは……」
「そうなんです。〈冷宮〉へと足を踏み入れるのは私と三の妃様ぐらいのものです。炫様……誠にそう思われますか?」
「そうだろうな。この先もお前たちぐらいかも知れない。もはや、〈冷宮〉は以前のような役目を果たすこともないだろう」
半ばハッキリと言い放つ皇帝・王炫。
◇
そもそも、後宮妃の誰にも寵愛を授けない皇帝・王炫。
自ら宝玉を後宮妃に迎えてからは、新しい後宮妃も必要とされていない為、余計に〈後宮〉から足が遠のいている。
それが示すのは、相手にされない後宮妃が皇帝の寵愛を失うことはおろか、叛意を抱いて罰せられることもない。
〈冷宮〉送りとなる後宮妃自体がいないのだ。
「この際です。宝玉は意を決して申し上げます。炫様……〈冷宮〉を新たな住まいとして賜りたいのです。使われていないのなら、なおさら好都合です。それに、あれほどの屋敷を放置したままにしておくのは勿体ないと思いませんか? 〈冷宮〉は古くても建物自体は頑丈です。住まいは人が住まなければ、ただ朽ちて寂れてしまいます。やはり勿体ないです」
「だが、宝玉……それが〈冷宮〉のあるべき姿であり、快適では意味をなさない」
「今まではそうですが、これからは違います。〈冷宮〉に風を通して陽の気を入れましょう。〈冷宮〉ではなく〈温宮〉とするのはいかがですか?」
先ほどまでの遠慮がちの宝玉はどこ吹く風。喋り出したら意気揚々と言い切る。
――また面白いことを言い出したものだ。
大笑いする皇帝・王炫。
近衛の李暁明に至っては「はっ?!」と耳を疑う。ただ、後宮妃・麗香と近臣の張武偉は冷静。
何か考えがあるのだろう……との思い。
「宝玉……その意図は何だ? それが聞きたい」
「さすがは炫様です。実はですね……」
後宮妃・”三の妃”でもある美玉の願いを伝える。
「宝玉、いきなり改まってどうした?」
「いえ、なんとなく……うーん、あのですね」
言いにくいのか、なかなか先を言わない宝玉。
ーー図々しくも、このようなことをお願いしても許してくださるだろうか? でも、今は自分たち以外は誰も使っていないし、あそこを住まいに変えてもいいのでは?
そう思いながらも少々遠慮がちの宝玉。
それを見つめる皇帝・王炫は思う。
ーー躊躇うとは宝玉らしくない。余程に大それた願いとみえる。もしや……。
フッと微笑する皇帝・王炫は、諭すように優しく語りかける。
「宝玉……何を躊躇っている? 口に出さなければ分からない。願いごとがあるなら申してみろ。可能な限り叶えよう。聡いお前のことだ。充分に聞く価値はある」
「炫様……どのような事でも聞いていただけるのですか? 無茶なお願いかもしれませんよ?」
「ああ。さすがに『皇帝になりたい』というのは無理だが……それ以外なら構わない。『皇后になりたい』という願いでもいいぞ? 聡いお前なら善き皇后となるだろう」
「いえ……そのようなお願いではありません。それよりも大事なことです」
さらりと受け流す宝玉。
「それよりも、か……それは残念だ」
微笑みを湛えながらも内心では落胆の皇帝・王炫。
「では、気を取り直してお聞きしますが、炫様……〈冷宮〉は今のところ使われておりませんよね?」
「ああっ、誰も好き好んで〈冷宮〉には行きたがらない。あそこは後宮妃には墓場のような場所だ。それが今では……」
くくくっと笑う皇帝・王炫の脳裏には、今の〈冷宮〉の変わり果てた姿が浮かぶ。
寂しい場所であるはずの〈冷宮〉の庭園には、青々とした農作物が実り、美しい花畑まであるのだ。
おそらく、他の後宮妃が見たら腰を抜かすだろう……見事な光景が広がっている。
ーー荒れた庭園を、よくもあそこまで作り替えたものだ。勤勉にして賢明な余の宝玉にはいつも驚かされる。
「宝玉……お前たちぐらいだろう。好き好んで〈冷宮〉へと毎日のように入り浸るのは……」
「そうなんです。〈冷宮〉へと足を踏み入れるのは私と三の妃様ぐらいのものです。炫様……誠にそう思われますか?」
「そうだろうな。この先もお前たちぐらいかも知れない。もはや、〈冷宮〉は以前のような役目を果たすこともないだろう」
半ばハッキリと言い放つ皇帝・王炫。
◇
そもそも、後宮妃の誰にも寵愛を授けない皇帝・王炫。
自ら宝玉を後宮妃に迎えてからは、新しい後宮妃も必要とされていない為、余計に〈後宮〉から足が遠のいている。
それが示すのは、相手にされない後宮妃が皇帝の寵愛を失うことはおろか、叛意を抱いて罰せられることもない。
〈冷宮〉送りとなる後宮妃自体がいないのだ。
「この際です。宝玉は意を決して申し上げます。炫様……〈冷宮〉を新たな住まいとして賜りたいのです。使われていないのなら、なおさら好都合です。それに、あれほどの屋敷を放置したままにしておくのは勿体ないと思いませんか? 〈冷宮〉は古くても建物自体は頑丈です。住まいは人が住まなければ、ただ朽ちて寂れてしまいます。やはり勿体ないです」
「だが、宝玉……それが〈冷宮〉のあるべき姿であり、快適では意味をなさない」
「今まではそうですが、これからは違います。〈冷宮〉に風を通して陽の気を入れましょう。〈冷宮〉ではなく〈温宮〉とするのはいかがですか?」
先ほどまでの遠慮がちの宝玉はどこ吹く風。喋り出したら意気揚々と言い切る。
――また面白いことを言い出したものだ。
大笑いする皇帝・王炫。
近衛の李暁明に至っては「はっ?!」と耳を疑う。ただ、後宮妃・麗香と近臣の張武偉は冷静。
何か考えがあるのだろう……との思い。
「宝玉……その意図は何だ? それが聞きたい」
「さすがは炫様です。実はですね……」
後宮妃・”三の妃”でもある美玉の願いを伝える。
96
あなたにおすすめの小説
愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?
四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!
子供のままの婚約者が子供を作ったようです
夏見颯一
恋愛
公爵令嬢であるヒルダの婚約者であるエリックは、ヒルダに嫌がらせばかりしている。
嫌がらせには悪意しか感じられないのだが、年下のヒルダの方がずっと我慢を強いられていた。
「エリックは子供だから」
成人済みのエリックに、ヒルダの両親もエリックの両親もとても甘かった。
昔からエリックのやんちゃな所が親達には微笑ましかったらしい。
でも、エリックは成人済みです。
いつまで子供扱いするつもりですか?
一方の私は嫌がらせで寒い中長時間待たされたり、ご飯を食べられなかったり……。
本当にどうしたものかと悩ませていると友人が、
「あいつはきっと何かやらかすだろうね」
その言葉を胸に、私が我慢し続けた結果。
エリックは子供を作りました。
流石に目が覚めた両親とヒルダは、エリックと婚約破棄するも、今まで甘やかされたエリックは本当にしつこい。
ねえエリック、知ってる?
「私にはもっと相応しい人がいるのよ?」
非常識な婚約者に悩まされていたヒルダが、穏やかな結婚をするまでの物語。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる