田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮妃・二の妃と林家編①

30.宝玉の願いごと

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「炫様……つかぬことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「宝玉、いきなり改まってどうした?」

「いえ、なんとなく……うーん、あのですね」

 言いにくいのか、なかなか先を言わない宝玉。

 ーー図々しくも、このようなことをお願いしても許してくださるだろうか? でも、今は自分たち以外は誰も使っていないし、あそこを住まいに変えてもいいのでは?

 そう思いながらも少々遠慮がちの宝玉。

 それを見つめる皇帝・王炫は思う。

 ーー躊躇うとは宝玉らしくない。余程に大それた願いとみえる。もしや……。

 フッと微笑する皇帝・王炫は、諭すように優しく語りかける。

「宝玉……何を躊躇っている? 口に出さなければ分からない。願いごとがあるなら申してみろ。可能な限り叶えよう。聡いお前のことだ。充分に聞く価値はある」

「炫様……どのような事でも聞いていただけるのですか? 無茶なお願いかもしれませんよ?」

「ああ。さすがに『皇帝になりたい』というのは無理だが……それ以外なら構わない。『皇后になりたい』という願いでもいいぞ? 聡いお前なら善き皇后となるだろう」

「いえ……そのようなお願いではありません。大事なことです」

 さらりと受け流す宝玉。

「それよりも、か……それは残念だ」

 微笑みを湛えながらも内心では落胆の皇帝・王炫。

「では、気を取り直してお聞きしますが、炫様……〈冷宮〉は今のところ使われておりませんよね?」

「ああっ、誰も好き好んで〈冷宮〉には行きたがらない。あそこは後宮妃には墓場のような場所だ。それが今では……」

 くくくっと笑う皇帝・王炫の脳裏には、今の〈冷宮〉の変わり果てた姿が浮かぶ。

 寂しい場所であるはずの〈冷宮〉の庭園には、青々とした農作物が実り、美しい花畑まであるのだ。

 おそらく、他の後宮妃が見たら腰を抜かすだろう……見事な光景が広がっている。

 ーー荒れた庭園を、よくもあそこまで作り替えたものだ。勤勉にして賢明な余の宝玉にはいつも驚かされる。

「宝玉……お前たちぐらいだろう。好き好んで〈冷宮〉へと毎日のように入り浸るのは……」

「そうなんです。〈冷宮〉へと足を踏み入れるのは私と三の妃様ぐらいのものです。炫様……誠にそう思われますか?」

「そうだろうな。この先もお前たちぐらいかも知れない。もはや、〈冷宮〉は以前のような役目を果たすこともないだろう」

 半ばハッキリと言い放つ皇帝・王炫。


 ◇


 そもそも、後宮妃の誰にも寵愛を授けない皇帝・王炫。

 自ら宝玉を後宮妃に迎えてからは、新しい後宮妃も必要とされていない為、余計に〈後宮〉から足が遠のいている。

 それが示すのは、相手にされない後宮妃が皇帝の寵愛を失うことはおろか、叛意を抱いて罰せられることもない。

 〈冷宮〉送りとなる後宮妃自体がいないのだ。

「この際です。宝玉は意を決して申し上げます。炫様……〈冷宮〉を新たな住まいとして賜りたいのです。使われていないのなら、なおさら好都合です。それに、あれほどの屋敷を放置したままにしておくのは勿体ないと思いませんか? 〈冷宮〉は古くても建物自体は頑丈です。住まいは人が住まなければ、ただ朽ちて寂れてしまいます。やはり勿体ないです」

「だが、宝玉……それが〈冷宮〉のあるべき姿であり、快適では意味をなさない」

「今まではそうですが、これからは違います。〈冷宮〉に風を通して陽の気を入れましょう。〈冷宮〉ではなく〈温宮〉とするのはいかがですか?」

 先ほどまでの遠慮がちの宝玉はどこ吹く風。喋り出したら意気揚々と言い切る。

 ――また面白いことを言い出したものだ。

 大笑いする皇帝・王炫。

 近衛の李暁明に至っては「はっ?!」と耳を疑う。ただ、後宮妃・麗香と近臣の張武偉は冷静。

 何か考えがあるのだろう……との思い。

「宝玉……その意図は何だ? それが聞きたい」

「さすがは炫様です。実はですね……」

 後宮妃・”三の妃”でもある美玉の願いを伝える。

 



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