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後宮妃・二の妃と林家編①
32.後宮妃の辞退と引越し
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皇帝・王炫から〈冷宮〉への引越しの許しをもらった宝玉と“三の妃”。それには加え、後宮妃の辞退と退宮をも許された“三の妃”がいる。
申し出が通ったことに心から喜ぶ“三の妃”からは、以前のような高慢さはない。
今の彼女は宝玉同様に、年相応で朗らかな令嬢の雰囲気が漂っている。おかげで敬愛する公主・麗香からの茶会にも呼ばれるほど。
あるべき姿を取り戻した“三の妃”。
まるで少女のように花が綻ぶように笑う。
「うわぁ! 可愛いー……」
それに魅了されたお調子者の近衛がいる。
まぁ、それは置いておいて。
◇
今回、皇帝・王炫は“三の妃”の後宮妃辞退をすんなり認めている。普通ではあり得ないことだが、意外にも舞台裏は筋が通っている。
元より、皇帝の為だけに存在するのが後宮妃。
だが、皇帝の役に立つどころか不興を買えば罰せられる。多くの場合が〈冷宮〉送りとなり、或いは人知れずに処分される者もいる。
以前の「墨事件」は公にはされていないが、“三の妃”の〈冷宮〉を気にする者がいれば、その事を持ち出せば済む。
後宮妃を辞した“三の妃”の身分は、彼女が願い出た通り、宝玉付きの側仕え。
だが、元々の身分が高い為に、皇帝にも拝謁できる身分を持つ宮女・美玉という立場にある。
それでも宝玉からしてみれば、初めてできた同性の友達。側近とは思わず、友達の美玉ちゃんで通している。
面白いのが、侍女姿の宝玉に仕える為、これではどちらが主かはわからない。
「うん? でも私は気にしないよ? 侍女の衣装もボロを纏っていた頃に比べれば、貴人の姫君のような素敵な衣装だし……」
それは言い過ぎだが……。
ただ、後宮妃・“二の妃”との一件が片付いた頃には、皇帝・王炫の寵愛を賜る“後宮妃”として、存在が公にされる宝玉がいる。
◇
早速行動に移す宝玉と“三の妃”。
先立って動いてくれたのは皇帝・王炫。
人が住むには寂れ、かなり荒れ果てた〈冷宮〉の内部を帝家お抱えの工匠(※大工職人)を遣わし、早急に内外装を修繕し、改装してくれたのだ。
建物自体は装飾のない簡素な〈冷宮〉だが、一歩中へと入れば、まずまずの快適さ。というよりも豪華さがないだけの話。
新たに作られた天窓からは陽光が降り注ぎ、柔らかな光に彩られている。温かさを感じられる空間が出来上がっている。
宝玉が名付けた通り、まさに〈温宮〉。
◇
新たな住まいとなる〈冷宮〉改め〈温宮〉。
宝玉も“三の妃”も、そこに豪華さは求めていない。
「炫様……住みやすさのほうが大事です。豪華な衣装よりもふかふかな布団の方が宝玉には嬉しいのです」
「ならば、宝玉……ふかふかの布団で余と共寝をするのはどうだ? 人肌は、より温かいぞ」
「何を言っているのですか? 炫様はいい大人ではありませか? 独りで寝てください」
「くくっ……つれないことを言う。おまえは誠に初心で愛らしい」
はたから見れば、いちゃついているとしか思えない二人。
「……微笑ましいこと」
後宮妃・麗香は、明るいだろう二人の未来を思い、実に嬉しそうに美しい笑みを湛えている。
それを見つめる近臣の張武偉が、内心ではかつての許婚である公主・麗香に見惚れていたりと、宝玉を中心に温かな風が流れている。
さて。
皇帝・王炫は寵愛する宝玉の頼み事なら、労力も財力も惜しまない。自らの財貨をもって修繕させている。
賢明な皇帝なら、私的なことに国の財貨は使わない。私利私欲に走ることもない。
豪華ではないにしても、真新しい壁紙や新たに置かれた衣装棚や寝台。それに湯殿も併設され、新たな〈温宮〉は意外と心地良い。
ものの見事に完成だ。
いよいよ、〈温宮〉へ。
◇
案外、荷物が少ない為、引越しは意外とスムーズ。“三の妃”が後宮妃の辞退を願い出たことで、その衣装の全てを放棄したからだ。
煌びやかな衣装や装飾品は「もう必要ありません」という“三の妃”は、それらを行商人に買い取ってもらい、貧しい人たちへと寄付している。
「元々……お義姉様ほどの衣装は持ち合わせておりません。父からしたら期待はずれの子どもでしたから……それに後宮妃となる為だけに用意された父からの衣装や装飾品には、今さら思い入れも愛着もありません。むしろ、手放せたことには清々します」
満面の笑みで告げる“三の妃”。
確かに、その表情は清々しいほどスッキリして見える。
自分を認めてくれる存在がいるだけで、こうも人は変われるのだ。彼女には宝玉と出会えたことが良い転機となった。
もしかしたら、林家は大切にするべき娘を見誤った可能性があるかもしれない。
◇
〈冷宮〉への引越しは、あまり表立っても良くない……とのことで、夜更けにこっそり行われた。これには宦官のフリをした近臣の李暁明も駆り出されていた。
主な役割は荷物持ち。皇帝直属の近衛だけあり、力もあり俊敏だ。
「暁明、時には役に立ってこい」
皇帝・王炫から命じられ、宦官の衣装を用意されたとか。
本来、〈後宮〉は男子禁制。
ただ、例外も存在する。
何事においても最終的に決めるのは皇帝。そう、全ては皇帝が決めることが優先される。
現皇帝・王炫の実姉の住まいである〈皇后宮〉への立ち入りには、皇帝の護衛である近臣の付き添いは許されている。
いつでも代えのきく多くの後宮妃より、皇帝自身の身に何か異変が起きる方が困るからだ。
皇帝・王炫が宦官の形をさせた李暁明を遣わした行為には、実は別の意図も存在する。
他の後宮妃への警戒だ。
そう、見ている者は見ている。
例えば、不敬を犯した義妹の行動に目を光らせている義姉の“二の妃”とか。彼女付きの侍女が、夜更けに〈後宮〉の居室から出ていく“三の妃”の行動を不審に思い、まさに主人である“二の妃”へと報告。
そして林家にも伝わり、数日を置かずして皇帝・王炫の元には林家からの封書が届けられる。
『皇帝陛下に対し、愚かな行為を犯した娘を退宮させ、俗世とは関わりのない尼寺へと行かせます』
その気もないことを平然とうそぶく林家の当主。
少々、上から目線な物言いの文面からも、彼の高慢な性格がうかがえる。林家の当主夫人もおそらくそうだろう。
ただ、「墨事件」のことは公にされていない。林家はそのことを知ってか知らずか。
申し出が通ったことに心から喜ぶ“三の妃”からは、以前のような高慢さはない。
今の彼女は宝玉同様に、年相応で朗らかな令嬢の雰囲気が漂っている。おかげで敬愛する公主・麗香からの茶会にも呼ばれるほど。
あるべき姿を取り戻した“三の妃”。
まるで少女のように花が綻ぶように笑う。
「うわぁ! 可愛いー……」
それに魅了されたお調子者の近衛がいる。
まぁ、それは置いておいて。
◇
今回、皇帝・王炫は“三の妃”の後宮妃辞退をすんなり認めている。普通ではあり得ないことだが、意外にも舞台裏は筋が通っている。
元より、皇帝の為だけに存在するのが後宮妃。
だが、皇帝の役に立つどころか不興を買えば罰せられる。多くの場合が〈冷宮〉送りとなり、或いは人知れずに処分される者もいる。
以前の「墨事件」は公にはされていないが、“三の妃”の〈冷宮〉を気にする者がいれば、その事を持ち出せば済む。
後宮妃を辞した“三の妃”の身分は、彼女が願い出た通り、宝玉付きの側仕え。
だが、元々の身分が高い為に、皇帝にも拝謁できる身分を持つ宮女・美玉という立場にある。
それでも宝玉からしてみれば、初めてできた同性の友達。側近とは思わず、友達の美玉ちゃんで通している。
面白いのが、侍女姿の宝玉に仕える為、これではどちらが主かはわからない。
「うん? でも私は気にしないよ? 侍女の衣装もボロを纏っていた頃に比べれば、貴人の姫君のような素敵な衣装だし……」
それは言い過ぎだが……。
ただ、後宮妃・“二の妃”との一件が片付いた頃には、皇帝・王炫の寵愛を賜る“後宮妃”として、存在が公にされる宝玉がいる。
◇
早速行動に移す宝玉と“三の妃”。
先立って動いてくれたのは皇帝・王炫。
人が住むには寂れ、かなり荒れ果てた〈冷宮〉の内部を帝家お抱えの工匠(※大工職人)を遣わし、早急に内外装を修繕し、改装してくれたのだ。
建物自体は装飾のない簡素な〈冷宮〉だが、一歩中へと入れば、まずまずの快適さ。というよりも豪華さがないだけの話。
新たに作られた天窓からは陽光が降り注ぎ、柔らかな光に彩られている。温かさを感じられる空間が出来上がっている。
宝玉が名付けた通り、まさに〈温宮〉。
◇
新たな住まいとなる〈冷宮〉改め〈温宮〉。
宝玉も“三の妃”も、そこに豪華さは求めていない。
「炫様……住みやすさのほうが大事です。豪華な衣装よりもふかふかな布団の方が宝玉には嬉しいのです」
「ならば、宝玉……ふかふかの布団で余と共寝をするのはどうだ? 人肌は、より温かいぞ」
「何を言っているのですか? 炫様はいい大人ではありませか? 独りで寝てください」
「くくっ……つれないことを言う。おまえは誠に初心で愛らしい」
はたから見れば、いちゃついているとしか思えない二人。
「……微笑ましいこと」
後宮妃・麗香は、明るいだろう二人の未来を思い、実に嬉しそうに美しい笑みを湛えている。
それを見つめる近臣の張武偉が、内心ではかつての許婚である公主・麗香に見惚れていたりと、宝玉を中心に温かな風が流れている。
さて。
皇帝・王炫は寵愛する宝玉の頼み事なら、労力も財力も惜しまない。自らの財貨をもって修繕させている。
賢明な皇帝なら、私的なことに国の財貨は使わない。私利私欲に走ることもない。
豪華ではないにしても、真新しい壁紙や新たに置かれた衣装棚や寝台。それに湯殿も併設され、新たな〈温宮〉は意外と心地良い。
ものの見事に完成だ。
いよいよ、〈温宮〉へ。
◇
案外、荷物が少ない為、引越しは意外とスムーズ。“三の妃”が後宮妃の辞退を願い出たことで、その衣装の全てを放棄したからだ。
煌びやかな衣装や装飾品は「もう必要ありません」という“三の妃”は、それらを行商人に買い取ってもらい、貧しい人たちへと寄付している。
「元々……お義姉様ほどの衣装は持ち合わせておりません。父からしたら期待はずれの子どもでしたから……それに後宮妃となる為だけに用意された父からの衣装や装飾品には、今さら思い入れも愛着もありません。むしろ、手放せたことには清々します」
満面の笑みで告げる“三の妃”。
確かに、その表情は清々しいほどスッキリして見える。
自分を認めてくれる存在がいるだけで、こうも人は変われるのだ。彼女には宝玉と出会えたことが良い転機となった。
もしかしたら、林家は大切にするべき娘を見誤った可能性があるかもしれない。
◇
〈冷宮〉への引越しは、あまり表立っても良くない……とのことで、夜更けにこっそり行われた。これには宦官のフリをした近臣の李暁明も駆り出されていた。
主な役割は荷物持ち。皇帝直属の近衛だけあり、力もあり俊敏だ。
「暁明、時には役に立ってこい」
皇帝・王炫から命じられ、宦官の衣装を用意されたとか。
本来、〈後宮〉は男子禁制。
ただ、例外も存在する。
何事においても最終的に決めるのは皇帝。そう、全ては皇帝が決めることが優先される。
現皇帝・王炫の実姉の住まいである〈皇后宮〉への立ち入りには、皇帝の護衛である近臣の付き添いは許されている。
いつでも代えのきく多くの後宮妃より、皇帝自身の身に何か異変が起きる方が困るからだ。
皇帝・王炫が宦官の形をさせた李暁明を遣わした行為には、実は別の意図も存在する。
他の後宮妃への警戒だ。
そう、見ている者は見ている。
例えば、不敬を犯した義妹の行動に目を光らせている義姉の“二の妃”とか。彼女付きの侍女が、夜更けに〈後宮〉の居室から出ていく“三の妃”の行動を不審に思い、まさに主人である“二の妃”へと報告。
そして林家にも伝わり、数日を置かずして皇帝・王炫の元には林家からの封書が届けられる。
『皇帝陛下に対し、愚かな行為を犯した娘を退宮させ、俗世とは関わりのない尼寺へと行かせます』
その気もないことを平然とうそぶく林家の当主。
少々、上から目線な物言いの文面からも、彼の高慢な性格がうかがえる。林家の当主夫人もおそらくそうだろう。
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