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常春の国 篇

常春の王の懐刀・双翼の二人

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常春とこはるの王が住まう〈おうみや〉には、王に許された者だけがつかえる。そして常春とこはるの王の豪華ごうかな寝所にまで入ることが許されているのは、王以外では特別な

常春とこはるの王には、全幅ぜんぷくしんを置く“懐刀ふところがたな”がいる。

常春とこはるの王の魔力から生まれし、美しい双翼そうよくの二人。常春とこはるの王と同じく美しい〈金眼きんめ〉を持つ。

ひだり双翼そうよくのハル。

みぎ双翼そうよくのリョク。

冷酷な相貌そうぼうたたえるひだり双翼そうよくのハル。さらりとした短めの銀糸ぎんしの髪を持つ。

かたや、つね柔和にゅうわな笑みをたたえるみぎ双翼そうよくのリョク。やわらかな黄金きん巻毛まきげを持つ。

この双翼そうよくの二人、相貌そうぼうと生まれ持つ性質は相反あいはんする。

冷酷な相貌そうぼうのハルより、柔和にゅうわな笑みをたたえるリョクの方が残虐性ざんぎゃくせいける。

長身で引き締まった体躯たいくに、強靭きょうじんな肉体を持つ常春とこはるの王の“懐刀ふところがたな”。

きんぎんの髪色を持つ美しい双翼そうよくの二人は、さすがは常春とこはるの王につかえる者らとだけあって、中世的ちゅうせいてきな美しさをあわせ持つ。

つね常春とこはるの王のそばひかえ、王の身辺しんぺんまもる。

限りなく強く、限りなく非情ひじょうな二人。

常春とこはるの王以外で、唯一ゆいいつ、異世界の姫の素顔すがたを知る二人の双翼そうよく

この世界では稀色きしょくとされる黒曜こくようまとう異世界の姫。そのたぐまれうるわしい素顔すがお拝謁はおえつする事が許される二人は、すでに冬子への恋情れんじょうたかぶらせている。


そのうるわしき異世界の姫である冬子。

ここ幾日いくにちかー、体調がかんばしくない。

常春とこはるの王の豪奢ごうしゃな寝台から起き上がることが少ない冬子。天蓋てんがいから掛かるしゃまくは固く閉じられ、常春とこはるの王の胸にいだかれては、こんこんと眠りにく。

常春とこはるの王の執愛しつあいにより、外界がいかいに出ることもかなわず、寝所にめられては過ごす冬子が、幾月いくつきかしたのち、初めて体調をくずしては、常春とこはるの王に全てをゆだねている。

そうした最中さなか

常春とこはるの王は、双翼そうよくのハルとリョクに会う為に、寝台に眠る冬子を残し、〈おう執務しつむ〉へと瞬時しゅんじに移動する。

そこにひかえるのは、常春とこはるの王の懐刀ふところがたなの美しき双翼そうよくのハルとリョク。

あるじ、姫の様子はー……?」

常春とこはるの王へと言葉を投げる陽気なリョク。

双翼そうよくの二人にいては無礼講ぶれいこう。どのような不敬ふけいゆるされる。

「ああっ、どうやら良い兆候ちょうこうだ。今は無理はさせられない。姫なら日がなとこいている」

かなり機嫌きげんの良い常春とこはるの王に、今度は双翼そいよくのハルが言葉をべる。

「それはき事でございます。黒曜こくようの姫君が、無事にご懐妊かいにんともなれば、皆様方にもお披露目おひろめを致さなければなりませんー……ですが、その前に黒曜こくようの姫君には儀式がひかえております。取り急ぎ、その対応に当たらせて頂きます」

丁寧ていねいな口調もさることながら、双翼そうよくのハルの方が存外ぞんがいに、陽気なリョクに比べて生真面目きまじめさをあわせ持つ。

「そうそう、あるじ。〈はなれのみや〉に住まうおなごらはどうするー……しかも、やたらと姫に会いたがる面倒なきさきがいるよ」

双翼そうよくのリョクのう〈はなれのみや〉とは、常春とこはるの王の「荒ぶる欲情をき出す為」にと用意されたみや

きさきとは名ばかりの身体からだを差し出すおなごらが住まうみや

情欲じょうよくそのとも欲情のおりとも云われ、所謂いわゆる後宮こうきゅうしょうされる場所。おのこでは、常春とこはるの王と懐刀ふところの二人のみが入宮にゅうぐうを許されている。

常春とこはるの王が住まうおうみや〉からは、かなり離れた場所に建つ〈はなれのみや〉。

異世界からの姫が顕現けんげんしてからは、常春とこはるの王は一度とたりとも訪れてはいない。欲情もしない。

今の常春とこはるの王の欲情をあおり、おのれの全てをそそぐのにあたいするのは、異世界の姫である冬子ただ一人。

あとにもさきにも美しい冬子だけ。

唯一無二ゆいいつむに常春とこはるの王の希少きしょうな宝石。

この国の絶大ぜつだいなる王のためだけに存在するうるわしき姫は、何人なんびとにもれさせず、何人なんびとにもがいされることのないように、豪華ごうかおうの寝所にめ、大切にかこっている。


投げかけられたリョクの問いに、常春とこはるの王は無情むじょうにも淡々たんたんこたえる。

「全ては不要ふよう。〈はなれのみや〉ごと取りこわせ。おなごらも生家に返せ。聞かない者らの処分しょぶんは、そなたらにまかせる。好きにやるが良いー」

常春とこはるの王の言葉に、リョクの金眼きんめかがやき、表情は嬉々ききとしている。

「ーならあるじ早速さっそく動くよ。ハル、行こう……!」

「リョク、あまり床を汚すなよ。おまえは加減かげんを知らない。やり過ぎる」

小さく吐息といきくハル。

「なるべくなら穏便おんびんに行きたいところだが、あれらはそうもいくまい。特にいちきさきに限っては、不敬にも姫君を目のかたきにしているー……だが、慶事けいじの前に余計よけいな血は流すなよ、リョク」

双翼そいよくのハルの忠言ちゅうげんに、リョクは「はいはい」と軽く受け流すと、その場から瞬時しゅんじに消える。

双翼そうよくリョクの大掃除が始まる。

常々つねづねから風通かぜとおしをしたいと思っていた〈はなれのみや〉。

敬愛けいあいするあるじ情愛じょうあいく姫の為に、り切っている感がいなめない双翼そいよくリョク。その様子に、たのしげに笑みをたたえる常春とこはるの王。

二人とは対象的たいしょうてきなのが双翼そうよくのハル。相貌そうぼうくずことなく、片割れのリョクのあとを追って消える。

やり過ぎるリョクを止めるのは、いつも双翼そうよくのハルの役目。

そして、二人の双翼そうよくを見送る常春とこはるの王は、冬子の眠る寝所へと戻る。

いとしい冬子は、何も知らぬまま静かに眠りにいたまま、いまだに起きる気配けはいはない。

いつの間にやら戻った常春とこはるの王の腕にいだかれながら眠る冬子は、自然と常春とこはるの王の胸へと美しい顔を寄せては、ぴたりとる。

冬子の無意識むいしきのその行為に、常春とこはるの王は極上ごくじょう微笑ほほえみを浮かべる。

どうやら、冬子はこの世界にひとり降り立ったことにさみしさを感じ、人肌ひとはだが恋しくあるのか常春とこはるの王のぬくもりにすがる。

そのよう仕草しぐさを見せる愛らしい冬子に、殊更ことさらいとおしさが増す常春とこはるの王。

以前よりもはるかにかがやきを増して、まばゆいばかりに常春とこはるの王を魅了みりょうして止まない美しい冬子。

さすがは稀有けうな異世界。

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