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極冬の国 篇

異世界の姫を取り戻す者

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「……やはり、な。おさないトウ王子では、トウカ王女を取り戻すはむずかしいとみえる」

ーだが、極冬王きょくとうおうには、そのような事はひゃく承知しょうち

両国りょうこくの王らが、一度としてやいばまじえずとも、つねに互いにの魔力は相殺そうさいされるように、王の実子じっしである王子らとてそれは同じ。

甚大じんだいな魔力を持つ者同士、これまで互いに干渉かんしょうする事もなく存在そんざいしてきた。

互いの魔力がぶつかれば、両国りょうこくの王らも無傷むきずではいられない。それこそ国が吹き飛び、消滅しょうめつしてしまいかねない。

それ程の甚大じんだいな魔力を持つ極冬王きょくとうおう常春とこはるの王。

(トウ王子はまだおさない。ーゆえに、感情かんじょう起伏きふくが激しいトウ王子は、ある意味では流されやすい。下手へた攻撃こうげき仕掛しかけずに様子をうかが常春とこはるいちの王子の方が、トウ王子よりは力量りきりょうは上と見える。ふふっ、だが問題ない。此処ここ領土りょうどわれの庭も同然どうぜん……今更いまさらいちの王子に何が出来る……?)

意外いがいにも心中穏しんちゅうおだやかな極冬王きょくとうおう

愛してやまない異世界の姫は、まぎれもなく極冬王きょきとうおうの胸に身をまかせて眠っている。

更には、より深く眠らせる為に冬子の唇を奪い、己れの魔力をそそぐ。極冬王きょくとうおうの魔力に呼応こおうして、冬子の胸に咲く大輪たいりん氷華ひょうか紋様もんようあやしく光る。

極冬王きょくとうおうの魔力を受けて育つ氷華ひょうかの花。

氷華ひょうかの姫たる美しい冬子。

極冬王きょくとうおうが、無情むじょうにも冬子のしんぞうに植え付けた氷華ひょうかたねは、冬子の身体中からだじゅうを張り、冬子をしばかせとなっては、極冬王きょくとうおうからは離れられない身体からだへとらしめている。

冬子のしんぞうに植え付けられた氷華ひょうかたねを取りのぞき、氷華ひょうか紋様もんよう消滅しょうしつさせる事ができるのは、それをほどこした極冬王きょくとうおう自身じしん

およそ、常春とこはるの王ですら取りのぞく事は不可能ふかのう

あるいは、もう一つだけその方法があるとすれば、しんぞうを剣でつらぬき、その動きを止めれば、おのず氷華ひょうかたねれる。

ーそれはすなわち、その者の「死」を意味する。

この極冬きょくとうの国にしか存在そんざいしない美しい氷華ひょうかの花。

極冬王きょくとうおうの魔力にって咲く氷華ひょうかの花は、この地をー、更に厳密げんみつに云えば、極冬王きょくとうおうから離れ、その魔力の供給きょうきゅうたれれば、途端とたんれ果ててしまう。

それは冬子とて同じ。

極冬王きょくとうおうからは、つねにそのしたでもって口内こうないおかされる冬子。

互いにしたからめては、混じり合う粘液ねんえきと共に、魔力をそそがれる冬子は、つねみだあえぐ。

時には、極冬王きょくとうおうの熱くたぎくさびを深くくわえさせられ、口淫こういんによっても欲情よくじょうしると共に、魔力をそそがれる事もある。

極冬王きょくとうおうが特にこのむのは、一日とて置かずに成される激しい情交じょうこう

冬子の甘いみつらす淫靡いんびあなへとし込まれた極冬王きょくとうおうたかぶるくさび存分ぞんぶんに冬子のりょうつぼみ穿うがち、幾度いくどき出される欲情よくじょうの汁と魔力を、冬子のはらへとあふれる程にき出す。

その所為せいで、今日こんにちまで何事もなく、おだやかなせいを与えられている冬子。

極冬王きょくとうおうの色に、存分ぞんぶんに染められている冬子。

(ーゆえに、其方そなたわれから離れては生きられない身体からだ。美しい氷華ひょうかの姫は此処ここでしか生きられないのが運命さだめ……どうあっても我のー)

くくっ、何が可笑おかしいのかー、極冬王きょくとうおうからは、しのび笑いがれる。

「ーさて、トウカの事はセツとヒョウにまかせるといたそう。われは、いとしい氷華ひょうかの姫が、二度と余計よけいな者にまどわされる事のないように、王后牢おうこうろうへと連れ帰り、ふたたひどばつを与えねばならぬ。くくっ、いとしい姫……其方そなた永劫えいごうに渡り、もはや王后牢おうこうろうから出る事はないー」

やはり、極冬王きょくとうおうの笑みは仄暗ほのぐらい。

冬子をうっとりと見つめる極冬王きょくとうおうあおき瞳には、狂気きょうきさえも混じる。

ーその刹那せつな

「ー配下はいかまかせるなどと……随分ずいぶん余裕よゆうではないかー……だが、その余裕よゆう最早もはやここまでー!」

突如とつじょ、この場へと現れたのは、の国の絶大ぜつだいなる君主くんしゅ

かがやくばかりの黄金おうごんの髪をなびかせ、尊大そんだい態度たいどたたず常春とこはるの王。

「ーその余裕よゆうすきを生む」

常春とこはるの王の手には、見事みごと金色こんじきの王の剣が燦然さんぜんかがやく。

その手ににぎ金色色こんじきいろの王の剣で、冬子をいだ極冬王きょくとうおうの腕を一刀いっとうもと両断りょうだんする。

そこに躊躇ためらいはない。

まさにまたた出来事できごと

極冬王きょくとうおう切断せつだんされた腕からは、血飛沫ちしぶきが上がり、思わず片膝かたひざを付く極冬王きょくとうおう

「ぐうううううっ!」

大量たいりょうの血が流れ落ち、極冬王自身きょくとうおうじしんを赤くめ上げる。

り落とされ、転がる極冬王きょくとうおうの腕。

「父上ーっ!!」

絶叫ぜっきょうするトウ王子が、己れの父王ふおうもとへと飛ぶ。

そして、その手の中にいたはずの冬子は、常春とこはるの王の腕の中へとうばい去られる。

「……いとしい冬子……ようやく其方そなたえたー……」

しかとき締める常春とこはるの王。

あの頃と少しも変わることのない美しい冬子が、確かに常春とこはるの王の胸の中に眠る。

甘くかぐわしい香り。なつかしいにおい。

常春とこはるの王をきつけてはやまない美しい冬子が、確かに此処ここる。

「……どれ程に其方そなたいたかったことかー……いとしい余のたから。もう二度と其方そなたうばわれはせぬ……!」

いだこころを落ち着かせるように、ゆっくりと金眼きんめを閉じる。

「……いとしいの冬子ー……其方そなただけを愛しているー」

尊大そんだい相貌そうぼうには、深い情愛じょうあいが浮かぶ。

冬子を抱き締める腕には、更なる力がこもる。

ーしばし、逢瀬おうせとき

後には、極冬王きょくとうおう惨事さんじさけび声を上げるトウ王と、かたやー、安堵あんどいちの王子。

そう、常春とこはるいちの王子には別のねらいがあった。

極冬王きょくとうおうの目をらし、ときかせぎ、父王ふおうである常春とこはるの王に、異世界の姫をうばい返す機会きかいを与える事こそが、いちの王子の最大さいだいねらい。


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