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富子
第2話 打ち明け話
しおりを挟む「れい……? 霊って、まさかお化けのこと?」
真剣な表情で子どもみたいなことを口にする娘に、富子はつい笑って
しまった。
「ははは、そんなAIで何でも出来る時代なのに、そんな非科学的な。娘
ができても、優良はまだまだ子どもだな」
夫も同じことを思ったのか、一緒に笑い飛ばすと、優良の表情がみる
みる失望で曇っていく。
一通り笑った後になってから優良の変化に気づいた夫は、慌てて「母さん、
優良は真剣なのに、笑うなんて酷いぞ」と優良の機嫌を取り始める。
まったく相変わらず詰めも娘にも甘い。
私が商店街で俳優さんに会ったと喜んでいた時には、まるで信じてくれ
なかったというのに。
まあ、それはともかく優良の話を聞いてみないことには話は始まらない。
一人掛けのソファに座った優良は鞄に手をかけ、今にも立ち上がって帰って
しまいそうな雰囲気だ。
夫に続いて、富子も優良を宥め、改めてとにかく話してくれと促した。
「一週間前のことなんだけれど……」
優良によると話は、一週間ほど前に遡るという。
その日、優良が目を離したすきに、孫娘の紗矢が家を飛び出していったと
いう。
だがこういう時のためにGPS機能が付いたタグを紗矢のお気に入りの
ポシェットに付けておいたので、紗矢の居場所はリアルタイムで優良は把握
できたのだそうだ。もちろん居場所が特定できても、いつどこで危ない目に
遭うか分からない。
紗矢はまだ4歳。すぐに優良は紗矢がいる場所へと急いだ。
「今は昔と違って、なんでもハイテクなのねえ」
自分が育児をしていた頃を思い出して、富子は感心した。
「一度家を飛び出したばかりだったから、まさかまたもう一度……なんて」
「ちゃんと見てなきゃダメじゃない! それに紗矢は一日に2回も家を飛び
出したってこと? 何かあったの?」
思わず親目線から口出ししてしまうと、バツが悪そうに優良は押し黙った。
「まあまあ、母さん。最後まで話を聞こうじゃないか」
悪くなった空気に居たたまれず、夫が口を出した。
富子も言ってしまったものの、優良の反応にしまったと後悔していたので、
「ひとまず話を最後まで聞くわ」と言い繕う。そこまでして、ようやく優良は
再び口を開いた。
「結局、紗矢は知らない一軒家の離れにいたんだけれど、そこが……」
紗矢がいた場所――そこは、古い大きな日本家屋の敷地内にある、黒く歴史
の染み込んだ年代物の離れだった。
家の前に赤い花が供えるように置いてあるのも気持ちが悪い。
夕暮れの風が吹くたびに、瀕死の虫のようにピクピクと震える花びらが不気味
だったのが印象的だったという。
もちろん優良は今まで一度も来たことはない。
紗矢がどうしてそんなところにいるのかさっぱりわからず、まさか変質者に
でも 攫われたのではないかと、優良は冷や汗が出た。
「でも他人の家の敷地内でしょ。だから何度もインターホンを押したんだけど、
誰も出てくれなくて……」
それなら理由を話して離れに入れてもらおうと優良は周囲を見回したが、広い
庭にも道路にも誰もおらず、途方にくれた。
スマホでGPSを確かめると、紗矢がその離れにいることは確かなのに。
こうしている間にも、紗矢は変質者から危険な目に遭わされているのかもしれ
ない。
「居てもたってもいられなくなって、家の人には後から承諾をもらうことにして、
離れに入ったの」
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