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第二章 聖杯にまつわるお話

第170話

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 酒に激弱なお兄さんを雇ったら相棒もついてきた。
 ただいまカウンター近くの空いていた机に座り、契約書にサインもらっているところです。

 机と仲良くしている時は気付かなかったけれども、このお兄さんがデカかった。
 アー君の婚約者である白熊さんと同レベルでデカかった。
 見上げた時思わず首がグキッてなったぐらい、アー君も将来あのぐらい大きくなるのだろうか。

「そもそも、タンクを担当している理由が防御力の高さじゃなく、無口でも何となく許される雰囲気があるからなんだよなぁ」
「なんとなく?」
「一度戦闘を見せてもらったけど、戦闘時に発する声も「むんっ!」とか程度だし、相棒はテレパシーを疑うレベルで目で会話出来るから無口がさらに加速したんじゃないかな」
「うちの相棒がすんません」

 代わりに謝罪するのも相棒さんのお仕事の内らしい、それは相棒を超えて奥さんなのでは。

「喋らない真の理由は口を開くのが面倒……そうギルド資料にも書いてあるからびっくり」
「アー君、個人情報覚えてるの?」
「全員の特徴覚えるまで受付に立たされたりもしたなぁ」

 元々冒険者の知り合いはいたし、多少顔も知っていたけれど、さすがに刀国にいる冒険者全員ではなかったからそれなりに大変だったようです。

「そこまで口を開くの面倒なら何かの職人にでもなればいいのに」
「……死ぬほど不器用なんですよコイツ、弓矢は敵に当たらないし、剣で急所を一突きも出来ない」
「盾なら相手が突っ込んでくるから、とかいう?」
「……」

 うむ。と言わんばかりに一つ頷いた。
 タンク担当だからガタイはいい、背丈もあるし、筋肉ガッチガチ、眉間の上に走る傷跡が歴戦の戦士感を漂わせているけれど、個人プロフィールの総合が「ただの面倒くさがり」。

「最近は移動が面倒という理由で馬か二足歩行のトカゲ飼いたいとか言い出して……世話するの絶対俺の仕事になると思うんですけど、どう思います?」
「別に暮らしとけ」
「そんな事したら俺が二件分家事をやる羽目になるんですけど!?」

 すでに世話を焼いているってことか、完全に奥さんですね。

「分かった。分かった、こっちの書類にもサインしろ、女神に出してやるから」
「なんの書類ですか?」

 アー君が差し出した書類に訝しげな視線を向けながら警戒して手を伸ばそうとしてこない、中々用心深いタイプのようです。

「……これ、あの……」
「うん、サインしたらこの場で承認される」

 それでも見える範囲で書面を読んだらしく、顔色が悪いですよ。

「神子様! のほほんとしていないで、アルジュナ様を止めてください! これぇ!」
「……」
「お前もサインするんじゃない! なんでこういう時は早いの!?」

 書類の種類は「神前婚姻証」、刀国ギルドオリジナルだろうか。
 イネスによると神様の前でこれにサインした瞬間、婚姻が成立しちゃうし、書類は女神様に一直線なので離婚も出来ないらしいです。
 神様……アー君とイネスがいるから成立しちゃいますね。

「いや、一緒に住んでるし、家事も受け持ってるんだろ、嫁じゃん」
「だってそれは、俺が面倒みないとこいつ仕事に来ないし! 腹が減って動けなくなるギリギリまで飯も食わないからっ!! ってお前もなんで俺にサインさせようとしてんの!?」
「嫁」
「祝杯に今いる連中に酒奢っておくから」
「それ俺になんの利益もないんですけどーーー!」

 結局相棒の人はあの手この手で丸めこまれ書類にサイン、泣きながら本日の現場に向かうことになった。

「アー君、これ本日二組目の夫婦誕生だね」
「めでたいな、酒は二杯まで無料にしてやってくれ」
「お願いしますねー」
「はい」

 アー君の指示とイネスのお願いに、受付のお姉さんがにっこりと微笑みを返してくれた。
 小動物と子供好きなんだろうなぁ。

 奢り発言を聞いた冒険者の歓声を背にギルドを後にし、イネスと用心棒二人を店に送って僕らは帰宅……。

「待ってアー君、たこ焼き」
「はいはい」

 訂正、たこ焼きとお好み焼きをお土産に帰宅しました。

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