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第二章 聖杯にまつわるお話

第268話

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 その日の晩は案の定というか、夢の世界に呼び出しを食らった。

「ふんぬぅぅぅ!!」

 目の前にいるゴーレムみたいなゴツイ巨体、これが末っ子霧ちゃんの本来の姿らしいです。
 でっかいな。

 何か不満があるのか、ずっと怒っているように見える。
 全身に力を入れているのか血管浮き出ているし、食いしばった歯の間からは何か漏れていて、目は闘争中かのように赤く爛々と光っている。
 でも暴れるわけじゃなく、川のほとりでキャンプしている僕らの横で大人しく正座しているんだよね。

「喧しい、食事の邪魔をするな」
「ふご!」

 バコッという音がしたと思ったら、雷ちゃんが拳骨を霧ちゃんの脳天に落としていた。
 痛そう、手加減はしてくれているだろうけど、気のせいか霧ちゃんが涙目。

「バームクーヘンできた! 涼の炎効果が夢の中でも有効なのは助かるな」
「エッヘンエッヘン」
『イネス、海老しゃん釣れました』
「はい!」
「かあちゃん、川の中にタラがいた! 夢の世界って何でもありだな!」

 霧ちゃんみたさに皆集合しているからとても賑やか、かぐやも珍しく参加していて、カイちゃんと一緒に霧ちゃんの観察をしている。
 かぐやっておっとりしているように見えて過激な所あるけど大丈夫かな。

「ふぐぐ」
「ん? 待って雷ちゃん、霧ちゃんの腕に何か見えた」
「私もチラッとですが胸の辺りに何かあるような気がする、セティはどう?」
「ふむ……喉だな」
「うーん見える箇所がバラバラなのが不思議だな、雷はどうだ?」

 アー君の質問に雷ちゃんが霧ちゃんの正面に回り、何やら力を使い始めた。

「イネス、エビピラフ出来たよ」
「はぁい!」

 結局、今日の夕食は料理教室で作ったものは食べられず、ドリちゃんが用意してくれていたちらし寿司を夕食に食べました。
 話し合いが終わって夕食にしようとしたら、全部神薙さんに食べられちゃっていたんだ……黒ちゃんがちょっと涙目でした。

「バラバラの力を無理やり繋ぎ合わせて作ったのだろう、力が反発しあって暴走を起こしかけている。恐らくそれを止めているのが母の謎能力なのだろう」
「そう言えば女神が『神話の存在から厄介な存在を選び出し、欠片を集めた』みたいなこと言ってた」
「名前を与えて存在を縛っただけで不安定さを放置しているのは、母を害す一瞬のためだけの使い捨てだからだろうな」

 えっそうなの!?
 知らずに物騒な目にあってたんだなー。

「もし企みが成功してたら、この世紀末漫画に出てくるような外見の末っ子、ママの腹をぶち破って生まれてくるはずだったんだぞ」
「なるほどー」
「暢気だな!?」
「なんで陣痛と同時に腕の中に出てきたか不思議に思ってたけど、あれってお腹を破ろうとして失敗したんだなって納得しちゃった」

 エイリ〇ンみたいな生まれ方する予定だったんだろうなぁ、怖い怖い。

「なるほど、この名前を与えたのも、母の曖昧な力に対抗するための策の一つだった可能性があるな」
「雷の考察が正解な気がする。けど謎能力こそご都合主義と曖昧さの塊みたいなふわっとした何かだからなぁ、戦法は間違ってないけど、相手が悪すぎた感じか」
『ママの勝ちぃ』
「霧はどうする?」
「ぺかぁしますか?」

 要約すると、僕を殺そうとあれこれ手を回したけど、謎能力のふわっとした感じに負けたと。
 神々の欠片集めるの大変だっただろうに……なんだか敵ながら哀れに思えてきた。
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