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第二章 聖杯にまつわるお話

第270話

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 そういう訳で霧ちゃんが生まれ変わり、新生霧ちゃんになりました。

「……」

 報告したら騎士様が固まってしまった。
 寝ぼけたアー君に手の甲を齧られてますよー。

「ねぇ樹」
「はい」
「その霧ちゃんって、シャムスを膝にのせてご飯食べさせているあの白いの?」
「はい、シャムスのスライムと混ざった副作用なのか、シャムスに絶対服従なうえにべったりなんです」

 進化した直後からシャムスと離れる様子がありません。
 マールスと同じような黒子的ポジションになるんだろうなぁ。

「異界の神の欠片を集めた不完全な存在をスライムでくっつけた? そんなのあり?」
「シャムスのスライムって万能ですよね」

 お料理の手伝いから道具への変形、装飾品への擬態などなど、利用できる範囲が計り知れない。
 魔物だけじゃなく神様までどうにかできるシャムス、素晴らしいと思います。

「いやいや、神のなりそこないをスライムで進化させるとか、過去の神々の慟哭が響く案件だよ!?」
「しかも霧のあやふやさとスライムの変形自在が合わさってもう何でもありです、その影響で僕らもこんな事が出来るようになっちゃいました」

 騎士様に向かって手を伸ばすと、僕の手の先が霧状になって空気に溶けかけた。
 完全には使いこなせないんだよね、想像力が足りないのだろうか。

 そして騎士様完全フリーズ。

「今日のパンやけに固いと思ったらパパの手か……なんで固まってるの?」
「これ」
「ああ、俺らの霧化に衝撃受けちゃった? 面白いよなぁこれ、戦略の幅が広がるよ」

 常日頃から自分達の力をいかに面白く使うかを考えている子は簡単にコツを掴んだけど、僕や涼玉みたいに自動発動タイプは微妙に使いこなせていない。
 例えば騎士様の手を叩こうとした場合、アー君なら寸前で霧状になってすり抜けることが出来るけど、僕は霧のままぺちっと叩いてしまうんだよね。
 うーん難しい。

「あれは言った? 実体のまま夢の世界に移動できるようになったの」
「まだ。その前に騎士様がフリーズしちゃったんだもの」
『するするー』
「こらシャムス、食事中だ」

 シャムスは元々人型と獣化に自在に変化していただけあって、変化に関する力の利用は得意分野だったみたい。
 今も霧になって霧ちゃんの膝を抜け出し、そのまま子犬に変化して庭へと飛び出していった。

「カイなんて徹夜で研究して身に着けてたしなー、アカーシャはダメだったけど」
「アカーシャって生まれたばかりの頃は力使ってたよね?」

 霧で港街を覆って魔物から守ったりしてたと聞いた事がある。

「あの時期は感覚で生きてたからだろうなぁ、今は人としての意識が強いからあの頃の感覚を取り戻すのは無理があるかもな」

 ふわっとした感じなら得意なはずなのに、なぜ僕は上手く使えないのだろうか。
 あれか、意識と無意識の差?
 謎能力も無意識で使っているらしいし、効果範囲もとんでもないらしい。

 おのれ、せっかくここに来て異世界っぽい力を手に入れたのに!
 自分のイメージの脆弱さが情けない!

「っは! 樹、今のはなに!?」
「こんな事も出来るぜ!」

 再起動した騎士様の前でアー君が自分を氷柱の中に封じ込めた。と思ったら、霧状になって一瞬で氷の外に出現した。
 もちろん氷の柱はそのまま。と思ったら、神薙さんが迷いなく食べ始めた。

「……!?」
「また固まっちゃったよ?」
「もうパパはしょうがないなー」

 わはは、と笑いながらアー君はそのまま学園に登校してしまった。
 銅像のように固まった騎士様置いてかないで!
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