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第二章 聖杯にまつわるお話

第458話

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 ここ数日ほど召喚されることがなかったので油断していた。

「どうか我らをお助けください」

 仕事に学業に遊びにと、それぞれ出掛ける皆を見送り、のんびりと干柿を作っていたら久々に召喚された。
 手に渋柿を持ったままの僕は、目の前で土下座して懇願してくる男性にどんなリアクションしたら良いのでしょうか。

 とりあえずこれだけは紐に結んでしまおうと、巻き巻きを再開始めた僕に気付かずに現状を切々と訴えかけるボロきれのような人。
 一束完成してもまだ語っていたので、えっちゃんに渡し、新しいのを受け取ってまた作り始める。

 この柿は干柿を作るため、涼玉にお願いしてわざわざ渋柿を作ってもらいました。
 子供達は好奇心に負けて全員渋柿の洗礼を受け、ぎゃーぎゃー騒いでたけど、あれ可愛かったなぁ。

 珍しく全員外出しているので、僕もえっちゃんとダンジョン巡りにでも行こうかと思ったけど、お昼にちょっと豪華な和食を食べるのもいいかなーって、外出は取りやめたんだよね。
 そう、豪華な和食。
 自分で作ろうかと思ったけどドリちゃんが張り切っていたので譲り、僕はえっちゃんと干柿を作っていたという訳です。

 船盛とかはちょっと豪華すぎるし、量が多いから一人じゃ食べられないし、ちょっと寂しい。
 こう、旅館で食べるような小さな鍋をぐつぐつやるあれとかがいいなぁ、楽しみだなぁお昼。

 でも待って、もしかしてこのイベント終わらせないと帰れない?
 巻きでフラグなりなんなり折って帰らなきゃ!!

 お寿司、お寿司食べたい!
 お昼に付いてなかったらギレン呼び出して夕食で作ってもらおう!

「おい何をしている、仕事を――」

 うっかり「寿司ぃ!」と叫びそうになった瞬間、部屋に誰かが入ってきた。
 装備を見る限り、どうやら冒険者っぽいのですが。

「神子様!?」
「はい」

 しかも僕の顔を知っているようだ。
 これは早々に帰れるフラグかな。

 そのまま部屋から連れ出され、案内された先は腹を出して寝ているドラゴンがいる部屋だった。
 鼻提灯がぷぅぷぅと気持ちよさそうです。リラックスし過ぎじゃありませんかね。

「おーい、起きろ、起きろっ!」
「んがっ!!」

 大声で呼びかけられて絵に描いたような鼻提灯が割れ、ドラゴンが目を覚ました。

「に、人間よ我を起こすとは良い度胸……」
「そういうのいいから」

 慌てて体を起こし、威厳を無理やり出そうとして冒険者の人にバッサリと切られました。
 このドラゴン、微妙に残念な感じがする。

「それよりお前が捕まえた人間の一人が掃除サボって神子様を召喚してたぞ」
「おぎゃぁぁぁ!!」

 僕に気付いた瞬間、悲鳴を上げたドラゴンが尻尾を丸めて壁に激突、穴を開けて逃亡した。
 ここ洞窟の中だったんだね、開いた穴からお空が見える。
 青空綺麗。

「あ、あの」
「飯の時間には帰ってくるから大丈夫、あいつただのアホだから」

 ため息を吐きつつ何かを拾った冒険者の人が、それを僕に渡してくれた。
 鱗かな?

「迷惑料としてもらっておくといい」
「事情がよく飲み込めないです」
「ここは少し前にハロウィン領になった領地内、そこに出来た崖にドラゴンが住み着いたのは知ってる?」
「はい」
「群れで住み着いたドラゴンを追い払おうと国から依頼を受けた連中がいて、そのまま行方不明になった話は?」
「ちょっと前にアー君から聞いた気がする」

 どうやら行方不明の人達は邪神の餌になったのではなく、ギルドの管理下に置かれてドラゴンの住処のお掃除を命じられていたらしい。
 冒険者がギルドを通さずに他の依頼を受けるのはご法度、当然ペナルティが存在して、今回はドラゴンの身の回りのお世話がそれに当たるらしい。

「そんなルールがあったんだ」
「ギルドを通して依頼を受けるのは俺ら冒険者の身を守る意味もある。そのルールを私利私欲のために破れば神罰とはいかないがそれなりに罰を受けるのは当然だろう」

 次に案内された先では、僕を召喚した人と同じような人がひぃひぃ泣きながらモップで床掃除したり、藁を積み上げたり、肉を捌いたりと忙しそうに立ち働いていた。
 行方不明になったはずの冒険者はドラゴンの巣で家事全般してました。

 一通り案内された所でアー君がお迎えに来て冒険者さんとはお別れ、お昼には間に合って高級旅館のような和膳を楽しむことができました。
 天ぷらのエビがサクッと美味しかったなぁ。
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