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第三章 世界に降りかかる受難
第561話
しおりを挟む婿を悪魔に寝取られ、聖剣探しの旅に出た見知らぬお嫁さんへ。
貴女の仇である悪魔ですが、今、貴女の実家で実の息子のような顔して暮らしてますよ。
ありきたりな物語だと、迫害とかそういう闇落ちまっしぐらな展開になるはずが、悪魔と人間のハーフの息子は村一番のモテ男らしい。
なんかハーフってカッコイイよな! というノリ。
村全体が明るいね。
畑仕事の休憩時間になり、悪魔と婿、息子の三人が家に戻ってきたのでお話を聞くことが出来ました。
ついでなのでクッキーもおかわりもらった。美味い、美味い。
「そもそも俺とコイツの出会いのきっかけが、森の奥で空腹で倒れてた所に俺が通りがかったんです」
「あの時はもうダメかと思ってました」
「食料と引き換えに俺はコイツを美味しくいただいたって寸法で」
キシシと笑う悪魔の口が、お月様のように裂けてます。
これを怖がらない村人のメンタルすっごいなぁ。
「その時はそのまま森で別れたのですが、また森に用が出来て、そのついでに様子を見に行ったら村は餓死寸前の人間がゴロゴロいるわ、コイツは赤ん坊抱いてるわでもうびっくりですよ」
「思えば、この子を授かる前から飢饉の前兆はあったのですが、無学な僕らでは気付かなかったんです」
「あの飢饉は本当に酷かったのぉ、お国からの援助も届かず、もうダメかと思いましたぞ」
おじいちゃんもあの世に逝きかけていたらしく、婿は婿で栄養不足で乳が出ず、赤ん坊も瀕死、もうダメかとおじいちゃんと二人、諦めていたらしい。
娘さんは婿が寝取られ、お腹に子供がいると分かった翌日には剣を片手に家を飛び出したんだって。猪突猛進、脳筋タイプね。
今いる家族を守らずに飛び出すから、悪魔に家族乗っ取られてるよ?
「そこで子供を見捨てることも出来たとは思うのですが、バレた後が怖いという思いが強くてすぐに引き返して村で豆のスープ作って配りましたよ。そしたら暗くて陰気などこにでもありそうな村が、頭がハッピーになっちゃって」
「バレたら怖い?」
「シヴァ様ですよ、あの変態っんんっ、あの守護神様は知っての通り、少年の命をないがしろにする奴には容赦ないんですから」
どうやら悪魔界隈でシヴァさんはとても有名らしい、名前持ちの悪魔を幼児化させて持ち歩いていることで恐怖の対象となってるんだって。分かる。
当初は反抗していた悪魔幼児だけど、今は普通に悪魔やってるよりも美味しいものを食べれると開き直って、幼児も悪くないぜ。とか言ってるらしい。
異世界の悪魔は逞しいなぁ。
「今じゃ雑草より多く生えてますよ、ほら扉の真横にわさわさしてるでしょ」
「……かあちゃ、これひよこ豆」
びっくり仰天、まさかの再会。
ひよこ豆、それも我が家の加護を受けたひよこ豆だった。
そりゃぁ飢饉の一つや二つ乗り越えられるし、陰気を吹き飛ばして陽気になるわけだ。
あれを食べて薄暗い雰囲気を保てる人間がいたら逆に見てみたい。
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