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第35話:出陣
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あんなに旨い酒を飲んだのは生まれて初めてだった。
肉も、何の肉かなんて関係ない、ちょっと焦げていたけどとにかく旨かった。もっと持ってねぇかなぁ。
金髪キラキラで色気駄々洩れの馬鹿だと思ってたけど、悪い奴じゃないのかもしれないと絆されるぐらいには人生で初めて心と腹が満たされた。
……け、決して食べさせてもらったから美味しかったのだとかは認めない。
出会ってからずっと引っ付いたまま私を放してくれなかったあの美形、お、おおおおおお夫のギルバート――もうギルでいい!――はあの馬鹿に唆されるがまま、王族に劣らぬ結婚式を挙げると宣言し、まずはドレスを作る職人を連れて来ると言って出発したのがつい先ほど。
何でも治めていた村の近くに、王都の職人も真っ青な技術を持つ者がいるらしく、そいつに結婚式で着るドレスを依頼するのだと……密着した状態で切なげに語られた。切なげな表情をする意味が分からなかったけど。
そーゆーわけで、私はやっと自由時間を得た。
暇だな。
ギルとは出会ってからずっとくっついていたから変な感じ………………いやいやいやいや。
だめだ、別の事考えよう。
そう、殴りに行こう。
理由は何でもいい、あの馬鹿を殴ろう、すっきりするに違いない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「と言うわけなんだよ」
「……要約するとギルの事を考えると寂しいから、何かとりあえず俺を殴るか!となったと」
「よーし避けるなよ」
ゆらりと動いたレイアの拳が再び刀鬼に照準を当てる。
「あーもー、暴れていい環境に案内するから殴ろうとしないで、保護者がこっち来てるから色々まずいんだって」
保護者ってなんだ。問う前に刀鬼は立ち上がり、すでに扉の所に立っていた。
「鎧は装着していってね、かすり傷一つ負わないように」
「りょーかい」
うきうきと全身鎧を無詠唱で装着すれば、おや、と刀鬼が片眉をあげた。
「凄い才能だね、もう力を使いこなしてるんだ」
「戦闘に関する事は把握しておかないと動けねぇだろ」
「力の流れを完全に制御できてるなら、祝福重ね掛けしても大丈夫かも」
「なんだそりゃ」
「こっちの話、扉開けたら多分そこ戦場だから、気を付けてね」
「あ?」
扉を開けてあるのは廊下だろう?とツッコミを入れる暇もなかった。
開けられた扉の先にあったのは血煙が上がる馴染みの光景だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
戦場にはためく緑を基調とした旗。
あれは王都の正規兵、王様の狗だ。
非力な村人を身を護るものも持たせず前線に立たせ、牙を剥く魔物の囮に使っている。
奴隷を買う金が勿体ないからと、近隣の村人をさらってきて討伐に使うのだと、以前パーティを組んだ奴が吐き捨てるように教えてくれた。
王の権力をかさに弱者を踏みにじる非道な行為。
嗚呼、見慣れた光景だ。
正規兵に逆らうなんて愚の骨頂だ。
国から追われる。
たとえ助けられたとして、それで、どうする。逃がす? どこに?
どんなに胸糞悪くても手を差し伸べる事すら出来やしない、目を逸らし宿屋に戻って度の強い酒を煽って無理矢理忘れようとしていた――今日までは。
ああ、馬鹿男、お前に感謝してやるよ。
おかげで私は長年の憂さ晴らしが出来る。
躾ける価値もない狗だ。
全部ここでぶっ壊してやる。
ただそうだな、助けるのは人間のためじゃない。
『人間』の戦力を削るためだ。
肉も、何の肉かなんて関係ない、ちょっと焦げていたけどとにかく旨かった。もっと持ってねぇかなぁ。
金髪キラキラで色気駄々洩れの馬鹿だと思ってたけど、悪い奴じゃないのかもしれないと絆されるぐらいには人生で初めて心と腹が満たされた。
……け、決して食べさせてもらったから美味しかったのだとかは認めない。
出会ってからずっと引っ付いたまま私を放してくれなかったあの美形、お、おおおおおお夫のギルバート――もうギルでいい!――はあの馬鹿に唆されるがまま、王族に劣らぬ結婚式を挙げると宣言し、まずはドレスを作る職人を連れて来ると言って出発したのがつい先ほど。
何でも治めていた村の近くに、王都の職人も真っ青な技術を持つ者がいるらしく、そいつに結婚式で着るドレスを依頼するのだと……密着した状態で切なげに語られた。切なげな表情をする意味が分からなかったけど。
そーゆーわけで、私はやっと自由時間を得た。
暇だな。
ギルとは出会ってからずっとくっついていたから変な感じ………………いやいやいやいや。
だめだ、別の事考えよう。
そう、殴りに行こう。
理由は何でもいい、あの馬鹿を殴ろう、すっきりするに違いない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「と言うわけなんだよ」
「……要約するとギルの事を考えると寂しいから、何かとりあえず俺を殴るか!となったと」
「よーし避けるなよ」
ゆらりと動いたレイアの拳が再び刀鬼に照準を当てる。
「あーもー、暴れていい環境に案内するから殴ろうとしないで、保護者がこっち来てるから色々まずいんだって」
保護者ってなんだ。問う前に刀鬼は立ち上がり、すでに扉の所に立っていた。
「鎧は装着していってね、かすり傷一つ負わないように」
「りょーかい」
うきうきと全身鎧を無詠唱で装着すれば、おや、と刀鬼が片眉をあげた。
「凄い才能だね、もう力を使いこなしてるんだ」
「戦闘に関する事は把握しておかないと動けねぇだろ」
「力の流れを完全に制御できてるなら、祝福重ね掛けしても大丈夫かも」
「なんだそりゃ」
「こっちの話、扉開けたら多分そこ戦場だから、気を付けてね」
「あ?」
扉を開けてあるのは廊下だろう?とツッコミを入れる暇もなかった。
開けられた扉の先にあったのは血煙が上がる馴染みの光景だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
戦場にはためく緑を基調とした旗。
あれは王都の正規兵、王様の狗だ。
非力な村人を身を護るものも持たせず前線に立たせ、牙を剥く魔物の囮に使っている。
奴隷を買う金が勿体ないからと、近隣の村人をさらってきて討伐に使うのだと、以前パーティを組んだ奴が吐き捨てるように教えてくれた。
王の権力をかさに弱者を踏みにじる非道な行為。
嗚呼、見慣れた光景だ。
正規兵に逆らうなんて愚の骨頂だ。
国から追われる。
たとえ助けられたとして、それで、どうする。逃がす? どこに?
どんなに胸糞悪くても手を差し伸べる事すら出来やしない、目を逸らし宿屋に戻って度の強い酒を煽って無理矢理忘れようとしていた――今日までは。
ああ、馬鹿男、お前に感謝してやるよ。
おかげで私は長年の憂さ晴らしが出来る。
躾ける価値もない狗だ。
全部ここでぶっ壊してやる。
ただそうだな、助けるのは人間のためじゃない。
『人間』の戦力を削るためだ。
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