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お疲れ様

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 試合はそのまま1―3でゲシュペンストの負け試合になった。
 圭吾を含めた選手達が肩を落としながらも、応援してくれたサポーターに試合後の挨拶をしに来る。
 今日で6試合、勝ちのないゲシュペンストイレブンにブーイングは当然の事だった。
「勝つ気あるのか!」
「やる気がないなら試合に出るな!」
「俺たちは結果が欲しいんだよ!」
 様々な罵声が飛ぶ。
 明らかに圭吾に、ゲシュペンストの選手達に焦りや不安、絶望の色がうかがえた。そんな中、美月は精一杯の声で、圭吾の名を叫んでいた。
 圭吾がたくさんのサポーターから美月を見つけた。嬉しそうとも悲しそうとも取れる笑顔で圭吾は美月に微笑んだ。
 その時、美月は確信に近いものを感じた。

 やっぱりあの拳を挙げたパフォーマンスは私にしてくれたんだ。
 こんな沢山の声援の中で、私の声が届いた。
 大勢のサポーターの中から私を見つけてくれた。
 ゲシュペンストのサポーターをしていて良かった。石川選手のファンで良かった。

 試合が負けていることも忘れ、自分を見つけてくれた事が嬉しかった。
 ほんの些細な偶然からメールが出来るようになり、石川選手に、圭吾と繋がる事が出来た。
 美月にとって今日の試合は忘れる事の出来ない試合になることは間違いなかった。
 しかし、罵声の飛ぶ中、落ち込んでいる圭吾にかける言葉が美月には思いつかない。
 言葉を発せず口だけで圭吾に向かって

「お・つ・か・れ・さ・ま」
 と言っておいた。
 自分の好きな石川選手が、圭吾に読み取れたかは分からない。
 でも、これが今の美月には精一杯の行動であり、想いであった。下を向き選手控え室に向かう圭吾の背中を最後まで美月は見届けた。
 
インタビューが圭吾の元にやってくる。
「完全に力負けです。次、修正して出直しです。」

 言葉少なめでインタビューを切り上げる。
 選手に全員に危機感があった。サポーターが怒るのも当然だと誰しもが思っていた。
 帰りの選手バスの中は重苦しい空気が漂っている。誰1人、口を開かない。

 いつかは世界に出て、海外のチームでプレーがしたって思っていたけどさ、こんな状態で海外オファーなんてあるわけがないよな。
 リーグ優勝すら無理だろ。上位チームと何が違うんだろ。
 はぁ~。チームに足りないもの……自分に足りないもの……
 なんなんだよ~。

 圭吾が心の中で呪文のように唱える。そんな時、ふと美月の顔が浮かんだ。
 美月の「お・つ・か・れ・さ・ま」を読み取っていた。
 せっかく見に来てくれた自分のファンの子にみっともない試合を見せてしまった後悔が残る。
 挙句の果てに慰めのような(お疲れ様)のセリフ。
 自分自身を責めずにはいられなかった。

(次は・・・必ず・・・)
 圭吾は必勝を胸に帰路についた。
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