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第21話
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結論から言うと、私たちはそれから5年間は変わらず平和な日々を過ごせていた。私がこの館で過ごせるのは17歳の冬まで、ちょうどその期間の半分が過ぎた時だ。
5年経った今私は12歳で、妹は11歳、姉は15歳になった。ディランだけは出生のせいでいまいち年齢が分からないが、おそらく私とそこまで変わらないだろう。
……5年間、本当に平和だった。私が何度テストで満点を取ろうとも姉は控えめに微笑むだけだったし、妹が私を敵視することはなかった。使用人の間で蔓延っていた暴力も、力のある使用人たちが互いに牽制しあっているのがきいたのかほとんど無くなっていた。
「どうかしましたか、お嬢様」
ディランが、ソファで紅茶を飲む私の顔を覗き込むようにそう問いかけた。……前から顔がいいとは思っていたが、最近は特に目立つようになってきた。
目つきが悪いという言葉で言い表すのはもったいないと思うほど、美しさを兼ね備えた切れ長の瞳。所謂王子様のような見た目ではないが、どこか怪しい魅力のある顔だ。12歳でこれとは、将来どんなイケメンに育つんだろう。
「……なんでもないのよ~。ただ、年々ディランが美人になっていくのがなんたか感慨深くて~……」
私の言葉にディランは照れ隠しの咳払いをしてから、呆れたようにため息をついた。彼は無愛想に「そりゃあ人魚の血を引いてますからね」と大真面目に言う。確かに人魚は種族的に絶世の美女が多いとされているけど。
「で、先程から話している件なんですけど……」
「ええ、いいわよ~。1週間の休暇がほしいんでしょう?お土産にケーキでも持っていきなさい」
1週間の休暇。それが私とディランが今話していたことだ。ディランはこの5年間私に従者として忠実に仕えてくれていた。身体の小さい子供だからやれる仕事は少なくても、側についてくれていたのだ。
それでもこうして、時々しばらくの休みを貰うことはあった。
「ありがとうございます、ここの家のケーキは美味しいですからね。弟たちも喜びますよ」
それは、町外れに住んでいるという彼の兄弟との時間を過ごすため。彼には2人の弟がいる。兄弟といっても、血は繋がっていないみたいだが。
ディランがこうしてここで働くことで、2人の弟は差別に合うことがない閉鎖的な空間で内職をして暮らしていけてるのだそう。
黒髪が差別されずに表に出てこれる世になればいいのにとは思うが、そう簡単にはいかないものだ。
「……まあ、弟たちは俺と違ってあと数年の辛抱ですよ」
「え?」
「俺の弟2人は有翼種と人間のハーフなんです。……ハーフだから翔べるようになるまで時間がかかるらしくて、10歳頃まで地上で暮らさなくちゃいけないんですよ。
……でも、翔べるようになれば差別なんてない有翼種が暮らす里で住めますから」
「そう……寂しくなるわね~」
血が繋がっていないとは聞いていたが、まさか有翼種とは。人魚と人間のハーフであるディランは見た目は完全に人間だが、ディランの口ぶりからしてその弟たちは翼があるんだろう。
一体どれだけ美しいんだろう、と少し想像をふくらませた。
「それで……その、もう1つお願いがあるんですけど」
遠慮がちに、ディランは私にお願いをした。私は彼と向き合うため、紅茶をテーブルに置く。
「休みの間一度だけでいいんで、会ってほしいんです。俺の弟たちに」
私はその言葉にぎょっとした。魔族、それも有翼種となれば差別だけでなく人身売買の危険も伴う。あまり目立つ行動は避けたいはず、自分で言うのもなんだが私はコーディリア家である以上何をしても目立つ存在なのだ。
「一体どうして?」
「特に、意味は無いんです。ただの俺のわがままですよ。それに仲のいい使用人に協力者もいますし……、駄目ですかね?」
ディランにそう言われては私は断れない。少々不安になりつつも、私はそのお願いに頷くしかなかった。
5年経った今私は12歳で、妹は11歳、姉は15歳になった。ディランだけは出生のせいでいまいち年齢が分からないが、おそらく私とそこまで変わらないだろう。
……5年間、本当に平和だった。私が何度テストで満点を取ろうとも姉は控えめに微笑むだけだったし、妹が私を敵視することはなかった。使用人の間で蔓延っていた暴力も、力のある使用人たちが互いに牽制しあっているのがきいたのかほとんど無くなっていた。
「どうかしましたか、お嬢様」
ディランが、ソファで紅茶を飲む私の顔を覗き込むようにそう問いかけた。……前から顔がいいとは思っていたが、最近は特に目立つようになってきた。
目つきが悪いという言葉で言い表すのはもったいないと思うほど、美しさを兼ね備えた切れ長の瞳。所謂王子様のような見た目ではないが、どこか怪しい魅力のある顔だ。12歳でこれとは、将来どんなイケメンに育つんだろう。
「……なんでもないのよ~。ただ、年々ディランが美人になっていくのがなんたか感慨深くて~……」
私の言葉にディランは照れ隠しの咳払いをしてから、呆れたようにため息をついた。彼は無愛想に「そりゃあ人魚の血を引いてますからね」と大真面目に言う。確かに人魚は種族的に絶世の美女が多いとされているけど。
「で、先程から話している件なんですけど……」
「ええ、いいわよ~。1週間の休暇がほしいんでしょう?お土産にケーキでも持っていきなさい」
1週間の休暇。それが私とディランが今話していたことだ。ディランはこの5年間私に従者として忠実に仕えてくれていた。身体の小さい子供だからやれる仕事は少なくても、側についてくれていたのだ。
それでもこうして、時々しばらくの休みを貰うことはあった。
「ありがとうございます、ここの家のケーキは美味しいですからね。弟たちも喜びますよ」
それは、町外れに住んでいるという彼の兄弟との時間を過ごすため。彼には2人の弟がいる。兄弟といっても、血は繋がっていないみたいだが。
ディランがこうしてここで働くことで、2人の弟は差別に合うことがない閉鎖的な空間で内職をして暮らしていけてるのだそう。
黒髪が差別されずに表に出てこれる世になればいいのにとは思うが、そう簡単にはいかないものだ。
「……まあ、弟たちは俺と違ってあと数年の辛抱ですよ」
「え?」
「俺の弟2人は有翼種と人間のハーフなんです。……ハーフだから翔べるようになるまで時間がかかるらしくて、10歳頃まで地上で暮らさなくちゃいけないんですよ。
……でも、翔べるようになれば差別なんてない有翼種が暮らす里で住めますから」
「そう……寂しくなるわね~」
血が繋がっていないとは聞いていたが、まさか有翼種とは。人魚と人間のハーフであるディランは見た目は完全に人間だが、ディランの口ぶりからしてその弟たちは翼があるんだろう。
一体どれだけ美しいんだろう、と少し想像をふくらませた。
「それで……その、もう1つお願いがあるんですけど」
遠慮がちに、ディランは私にお願いをした。私は彼と向き合うため、紅茶をテーブルに置く。
「休みの間一度だけでいいんで、会ってほしいんです。俺の弟たちに」
私はその言葉にぎょっとした。魔族、それも有翼種となれば差別だけでなく人身売買の危険も伴う。あまり目立つ行動は避けたいはず、自分で言うのもなんだが私はコーディリア家である以上何をしても目立つ存在なのだ。
「一体どうして?」
「特に、意味は無いんです。ただの俺のわがままですよ。それに仲のいい使用人に協力者もいますし……、駄目ですかね?」
ディランにそう言われては私は断れない。少々不安になりつつも、私はそのお願いに頷くしかなかった。
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