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お前が好きと何度も言おう
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地下十二階の出口の検討が付いた。シロちゃんの巣の反対側にある億年樹の空洞だ。
億年樹の周りを観察すると、シロちゃんが近寄らない空洞を見つけた。影は太陽に逆らい、その空洞を示していた。
巨体のシロちゃんが近寄らないほどの場所だから、警戒するべきだ。だが時間が無い。予定より長く地下十二階に止まっている。もしも外への出口が地下9999階にあるなら時間が足りない。おとぎ話よろしく、外へ出たら見知らぬ世界かもしれない。
そろそろ脱出の準備を始めたほうが良い頃合いだ。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズの掛け声で杖の先から太陽が生まれたと思うほど強い炎が出る。
「凄いな」
ローズの魔法の軌跡は草原に炎の道となって刻まれていた。地平線の彼方まで焼き尽くしたのではないかと思う威力だ。
「うーん。やっぱり火力の加減ができてない。それに炎も散らばってる。本当だったら雑草の茎に穴を空けるだけなのに。これじゃあレーザーじゃなくて放射器だよ」
しかしローズは難しい顔で悔しがっていた。
「何で悔しがってんだ? すげえじゃねえか! 特訓の成果が出てる!」
「ダメ! 火力調節できないとレイに当たっちゃう!」
ローズはぶうぶうと本を読み漁る。
「ああもう嫌だ!」
そして投げだした。
「私ってやっぱり才能無いなぁ……」
柔らかい大地に可愛らしいお尻を乗っけるとぷくっと頬を膨らませる。
「十分凄いさ」
隣に座って頭を撫でて励ます。
「でもでも、昨日は上手くできたの。それなのにせっかくレイに特訓の成果を見てもらうって時に失敗しちゃうなんて」
胡坐をかくと体を乗せて甘えてくる。子犬か子猫のようだ。微笑ましくて頬っぺたを撫でると、もちもちと柔らかかった。
「そんな落ち込むな。飯でも食って休憩しよう」
弁当として持ってきた干し肉を渡す。
「食べさせて」
そして突っ返されるとあーんと口を開けた。
「仕方ない奴だ」
干し肉を口に持っていくとあぐあぐと可愛く小さな口で噛む。
「お前は凄くて可愛い。自信を持て。俺の婚約者なんだから」
頭を撫でると、二へっと抱き着かれる。
「レイ、大好き」
軽く唇を合わせる。胸がドキドキと高鳴った。
「俺も大好きだ」
頬がぐつぐつと熱くなる。困ったもんだ。命がけの状況なのに、浮ついて堪らない。
「私、今とっても幸せ」
ぼんやりと寝転んで空を眺めていると、胸の上で寝るローズが笑う。
「レイのおかげ」
軽く唇と唇が合わさる。甘酸っぱい味で唇が痺れる。
「俺も幸せだ」
今度は俺からキスをする。気恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「ほんと……レイに会えて、良かった」
ポロリとローズの目から一筋の涙が溢れる。
「どうした? 目にゴミでも入ったのか?」
「え? 入ってないけど?」
「泣いてるぞ」
ローズが自分の頬を触ると、綺麗な手にサラサラとした涙の粒がくっつく。
「ほんとだ! 何でだろ!」
笑う間にも見る見ると涙が溢れる。
「……私、外に出たくない。レイと一緒にここでずっと暮らしたい」
ぐすぐすと顔をくしゃくしゃにする。
「外が怖いのか?」
頭を撫でると、静かに頷く。涙は止まらない。
「いえにかえりたく……ない……おかあさんにもおとうさんにもあいたくない……みんなにあいたくない……もうあんなめにあいたくない!」
しゃっくりが出ると鼻水と涙で可愛い顔が台無しになる。それでもローズの悲しみは止まらない。
「俺が傍に居る。だから外に出ても大丈夫だ」
ローズは首を振って涙を散らす。
「ぞどにでだら……レイ、はだらぐがら……いっじょにいられなくなる……もういどりぼっぢはいや……」
ローズの嘆きに何を言えば良いのか分からなくなった。頭を撫でることしかできなかった。
だけどこれだけは言える。
俺はローズが好きだ。
「ちょっと散歩しよう。シロちゃんと一緒に」
ローズは聞いていなかった。ただ泣くだけだった。
ローズを抱っこしてシロちゃんを呼ぶ。遠吠えが返ってくると、すぐにシロちゃんが走ってきた。
「背中に乗せてもらうぞ」
シロちゃんは鼻頭を撫でるとすぐに座ってくれた。
ゆっくりとぐずるローズを抱っこして、シロちゃんの背中に上る。そしてもふもふと毛布よりも柔らかい背中に胡坐をかくと、その上にローズを乗せる。
「シロちゃん、少し走ってくれ」
シロちゃんは力強い声とともに走り出した。
「ローズ。少しだけ、顔を上げてくれ」
ローズが顔を起こす。視線の先は、迷宮とは思えない景色が広がっていた。
夕焼けに染まる名も無き草が黄金色の絨毯のように果てまで輝く。足元に目を凝らせば黄色や赤色の花がぽつぽつと咲いている。その影に紛れてネズミが小走りに虫を捕まえるために走り去る。遠くに目を細めれば巨大な牛の親子が、角で押し相撲をして遊んでいる。地平線に広がる迷いの森からオオカミの鳴き声が聞こえる。空を見上げれば、薄暗い色に染められた場所にチラチラと星が光る。地平線に沈む太陽が夜の訪れを告げる。
美しき景色が高速で走り去る。明日へと続く時のように流れゆく。
「俺はお前が好きだ」
ローズを後ろから抱きしめる。ローズを励ますつもりで見せた景色に、自分が感動してしまったのか涙が流れている。
「お前が泣くたびに俺はお前が好きだって言う。俺は、それしか言えない」
ローズの小さな手が、俺の腕に絡まる。
「ありがとう」
ローズの涙は流れ去る風ですっかり消えていた。
「ローズ、大好きだ」
「私もレイが好き。大好き。迷惑かけちゃうかもしれないけど、大好き。それだけは、絶対に変わらない」
日が落ちきる前に拠点へ戻る。シロちゃんの背に乗って、ローズと一緒に。
「ローズ、不安になったら何度でも泣け。俺は絶対に傍に居る。傍に居て何度でも好きだって言うから」
俺にできることはローズが好きだと言うことだけだ。信じてくれるまでずっと言い続ける。
「私も何度も言う。レイが好きだって」
星空よりも綺麗な笑顔で、気持ちが温かくなる。
「生きて帰ろう」
好きだと言える人と一緒に。
億年樹の周りを観察すると、シロちゃんが近寄らない空洞を見つけた。影は太陽に逆らい、その空洞を示していた。
巨体のシロちゃんが近寄らないほどの場所だから、警戒するべきだ。だが時間が無い。予定より長く地下十二階に止まっている。もしも外への出口が地下9999階にあるなら時間が足りない。おとぎ話よろしく、外へ出たら見知らぬ世界かもしれない。
そろそろ脱出の準備を始めたほうが良い頃合いだ。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズの掛け声で杖の先から太陽が生まれたと思うほど強い炎が出る。
「凄いな」
ローズの魔法の軌跡は草原に炎の道となって刻まれていた。地平線の彼方まで焼き尽くしたのではないかと思う威力だ。
「うーん。やっぱり火力の加減ができてない。それに炎も散らばってる。本当だったら雑草の茎に穴を空けるだけなのに。これじゃあレーザーじゃなくて放射器だよ」
しかしローズは難しい顔で悔しがっていた。
「何で悔しがってんだ? すげえじゃねえか! 特訓の成果が出てる!」
「ダメ! 火力調節できないとレイに当たっちゃう!」
ローズはぶうぶうと本を読み漁る。
「ああもう嫌だ!」
そして投げだした。
「私ってやっぱり才能無いなぁ……」
柔らかい大地に可愛らしいお尻を乗っけるとぷくっと頬を膨らませる。
「十分凄いさ」
隣に座って頭を撫でて励ます。
「でもでも、昨日は上手くできたの。それなのにせっかくレイに特訓の成果を見てもらうって時に失敗しちゃうなんて」
胡坐をかくと体を乗せて甘えてくる。子犬か子猫のようだ。微笑ましくて頬っぺたを撫でると、もちもちと柔らかかった。
「そんな落ち込むな。飯でも食って休憩しよう」
弁当として持ってきた干し肉を渡す。
「食べさせて」
そして突っ返されるとあーんと口を開けた。
「仕方ない奴だ」
干し肉を口に持っていくとあぐあぐと可愛く小さな口で噛む。
「お前は凄くて可愛い。自信を持て。俺の婚約者なんだから」
頭を撫でると、二へっと抱き着かれる。
「レイ、大好き」
軽く唇を合わせる。胸がドキドキと高鳴った。
「俺も大好きだ」
頬がぐつぐつと熱くなる。困ったもんだ。命がけの状況なのに、浮ついて堪らない。
「私、今とっても幸せ」
ぼんやりと寝転んで空を眺めていると、胸の上で寝るローズが笑う。
「レイのおかげ」
軽く唇と唇が合わさる。甘酸っぱい味で唇が痺れる。
「俺も幸せだ」
今度は俺からキスをする。気恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「ほんと……レイに会えて、良かった」
ポロリとローズの目から一筋の涙が溢れる。
「どうした? 目にゴミでも入ったのか?」
「え? 入ってないけど?」
「泣いてるぞ」
ローズが自分の頬を触ると、綺麗な手にサラサラとした涙の粒がくっつく。
「ほんとだ! 何でだろ!」
笑う間にも見る見ると涙が溢れる。
「……私、外に出たくない。レイと一緒にここでずっと暮らしたい」
ぐすぐすと顔をくしゃくしゃにする。
「外が怖いのか?」
頭を撫でると、静かに頷く。涙は止まらない。
「いえにかえりたく……ない……おかあさんにもおとうさんにもあいたくない……みんなにあいたくない……もうあんなめにあいたくない!」
しゃっくりが出ると鼻水と涙で可愛い顔が台無しになる。それでもローズの悲しみは止まらない。
「俺が傍に居る。だから外に出ても大丈夫だ」
ローズは首を振って涙を散らす。
「ぞどにでだら……レイ、はだらぐがら……いっじょにいられなくなる……もういどりぼっぢはいや……」
ローズの嘆きに何を言えば良いのか分からなくなった。頭を撫でることしかできなかった。
だけどこれだけは言える。
俺はローズが好きだ。
「ちょっと散歩しよう。シロちゃんと一緒に」
ローズは聞いていなかった。ただ泣くだけだった。
ローズを抱っこしてシロちゃんを呼ぶ。遠吠えが返ってくると、すぐにシロちゃんが走ってきた。
「背中に乗せてもらうぞ」
シロちゃんは鼻頭を撫でるとすぐに座ってくれた。
ゆっくりとぐずるローズを抱っこして、シロちゃんの背中に上る。そしてもふもふと毛布よりも柔らかい背中に胡坐をかくと、その上にローズを乗せる。
「シロちゃん、少し走ってくれ」
シロちゃんは力強い声とともに走り出した。
「ローズ。少しだけ、顔を上げてくれ」
ローズが顔を起こす。視線の先は、迷宮とは思えない景色が広がっていた。
夕焼けに染まる名も無き草が黄金色の絨毯のように果てまで輝く。足元に目を凝らせば黄色や赤色の花がぽつぽつと咲いている。その影に紛れてネズミが小走りに虫を捕まえるために走り去る。遠くに目を細めれば巨大な牛の親子が、角で押し相撲をして遊んでいる。地平線に広がる迷いの森からオオカミの鳴き声が聞こえる。空を見上げれば、薄暗い色に染められた場所にチラチラと星が光る。地平線に沈む太陽が夜の訪れを告げる。
美しき景色が高速で走り去る。明日へと続く時のように流れゆく。
「俺はお前が好きだ」
ローズを後ろから抱きしめる。ローズを励ますつもりで見せた景色に、自分が感動してしまったのか涙が流れている。
「お前が泣くたびに俺はお前が好きだって言う。俺は、それしか言えない」
ローズの小さな手が、俺の腕に絡まる。
「ありがとう」
ローズの涙は流れ去る風ですっかり消えていた。
「ローズ、大好きだ」
「私もレイが好き。大好き。迷惑かけちゃうかもしれないけど、大好き。それだけは、絶対に変わらない」
日が落ちきる前に拠点へ戻る。シロちゃんの背に乗って、ローズと一緒に。
「ローズ、不安になったら何度でも泣け。俺は絶対に傍に居る。傍に居て何度でも好きだって言うから」
俺にできることはローズが好きだと言うことだけだ。信じてくれるまでずっと言い続ける。
「私も何度も言う。レイが好きだって」
星空よりも綺麗な笑顔で、気持ちが温かくなる。
「生きて帰ろう」
好きだと言える人と一緒に。
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