迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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不死者の殺し方

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 只今、ルシー、アス、ベルの三名とともに地下5000階の森を探索中。
「足痛い!」
 ルシーがうるさくて敵わない。

「ルシー様! 私がおんぶします!」
「アス! 私のことを忘れるんじゃない!」
「ベル様! 申し訳ありません! ベル様もおんぶします!」
 アスはルシーを抱っこして、ベルをおんぶして立ち上がる。

「ぐえ!」
 盛大にズッコケた。

「何やってんのお前ら?」
「見て分からないの? 足が痛いの!」
「何キレてんだよ」

 騒ぐルシーの足を掴んで見る。

「酷い靴擦れだ!」
 ルシーの踵は真っ赤に腫れ上がっていて、靴下まで血まみれだ。

「お前たちは大丈夫か!」
 大慌てでアスとベルの足を見る。

「これは酷い」
 ベルの足は踵以上につま先が傷んでいる。親指の爪など割れて肉に食い込んでいる。
 アスの足は踵とつま先だ。どちらも血が滲んでいる。この状態でルシーとベルを抱えるなど俺でもできない。さぞ痛いだろうに、健気で無謀な奴だ。

「ちょっと待っていろ」
 応急処置として、葉を踵とつま先に巻き付ける。食い込んだ爪は間に葉を詰め込んで悪化を防ぐ。

「おお! 痛みが和らいだ!」
「これぞ人間の知恵か!」
「レイ殿! ありがとうございます!」

 どういたしまして、と言いたいが、それよりも三人の靴を調べないといけない。そして調べると、なぜ三人の足が傷ついたのか分かった。

「ルシー? この靴はなんだ? 平べったいし踵がむき出しだ」
「革靴だよ。かっこいいでしょ!」
「かっこいいかもしれないが、これじゃ森の中なんて歩けないだろ」
 ルシーの靴は貴族がダンスで履くような物だった。高いだろうし、気品があるだろうが、森の中では無意味だ。

「ベル、この靴小さくないか?」
 ベルの靴はルシーと同じ革靴だった。それだけでも叱りものだが、こいつはさらに足の大きさと合っていない。
「ぴったりの大きさだと思うが?」
「ぴったりじゃダメだ。余裕がないとつま先が傷つく」
「人間とは中中に奥深いな」
 ベルは他人事のようにふむふむと頷く。自分の体なのだからもう少し危機感を持ってもらいたい。

「アスの靴は、しゃれているが、大丈夫そうだな。単に慣れていないだけか」
 アスの靴は冒険者のように頑丈で、踝がきっちりと隠れるくらいの長靴だ。
「申し訳ありません。人間となって歩くのは初めてだったので」
「気にするな。これなら歩けるだろ」
「大丈夫です!」

 三人の靴を見ると、ルシーとベルは靴を改造する必要がある。

「仕方がねえ。作るか」
 葉と雑草の茎を紡いで草鞋を作る。本来なら乾かしたいが、時間がないので仕方がない。それに大本となる靴はある。これに細工すれば上等なものができる。

「へー! 魔法も使わないで器用に作るね!」
 ルシーが肩に頭を乗せて来る。本当に弟たちが傍に居るようだ。
「魔法なんて難しい物使わなくてもできる」
 少し得意げに話す。弟たちはどうしているかな?

「針、糸、刃物をこうも巧みに使いこなすとは、素晴らしい一芸だ」
 真正面でベルが感心する。凄まじく照れる。

「レイ殿はやはり素晴らしい! 人間となった今なら分かります!」
 アスは隣で正座して礼儀正しく見ている。

「お前ら……恥ずかしい」
 男だからか、これほどの称賛を受けるとむずがゆい。



「凄い凄い! 全然痛くない!」
 ルシーは森の中を跳ねるように歩く。
 キラキラ輝いている。
 ベルとアスも興味津々に森を見ながら歩いている。

「スリルとはこういう感覚か」
 ベルが茂みの奥の奥を目を凝らして見つめる。

「気づいたか」
「ええ。そういうレイは、すでに気づいていた?」
「もちろん」
「では、お手並み拝見といこう」
 ベルが二人に下がれと手招きしたので、一気に殺気を放つ化け物まで走る!

「居ない!」
 茂みをかき分ければあと一歩というところで殺気が突然消える!

「ぐぎゃ!」
 ルシーの悲鳴が聞こえた!

「ルシー!」
 大急ぎで戻ると、ルシーは右腕を切り飛ばされ、アスは腹を切り裂かれ、ベルは右の顔面を爪で抉られていた!

「大丈夫か!」
 服を切り裂いて止血処置を行う。

「ティンダロスだ!」
 ベルが落ちかかる目玉を押さえる。

「ティンダロス?」
「次元のはざまに潜むオオカミだ。ここの階層だから当然不死。性格は狡猾。君に勝てないと察して僕たちを襲った」
 ルシーは歯を食いしばって痛みに耐える。

「ティンダロスは不死者すらも殺す猛毒を持っている。絶体絶命だ」
 ルシーは血を吐いて話し続ける。

「黙っていろ。すぐに片づける」
 地面に手を当てて念じる。

「すべての命よ、我が手に集え」
 右手に熱が籠ると、引き換えに木々が枯れる。煌めく太陽を余すところなく受けた地面から熱が引く。風が止む。空気が淀む。
 森に住むすべての生命体の力を奪う。地下十二階で巨大クモを倒した時の術だ。

「さすが、レイだ」
 ルシーが微笑むと同時に、枯れた木の影から悪臭が立ち上る!
「そこだ!」
 出現した化け物の頭を掴む!
「何て醜い生き物だ!」
 顔面はクモのように複眼で溢れている。大小無数の口が涎を垂らしている。爪は真っ黒でどす黒い液体に塗れている。
「貴様の命、貰うぞ!」
 森の命を使い、ティンダロスの命を体から引きずり出す!

 魂を抜かれたティンダロスは、何度か痙攣するとダラリと舌を垂らして動かなくなった。

「そうだ。それが不死者の殺し方だ」
 ルシーは真っ青な顔で、なお笑う。

「だから苦戦するのがおかしいんだよ。手加減して進んでた?」
「良いから口を閉じろ!」
「まあ、理由は分かる。魂を奪うにはそのための力が必要だ。レンガ造りの迷宮じゃそれはできない。できるけどできない。ローズたちの命を奪ってしまうから」
「だから眠ってろ! すぐに引き返すぞ!」
 ブツブツ呟くルシーを負ぶって、重体のアスを抱っこして、重傷のベルに肩を貸して引き返した。



「何て酷い怪我!」
 チュリップを叩き起こしてルシーたちの治療をしてもらう。

「いくら治しても傷が治らない?」
「ティンダロスの猛毒だ。不死者も殺す死の呪いだから、簡単には治せない」
 ベルが濁った眼でチュリップを睨む。

「まずは呪いを引きはがせ。それから治療しろ」
「は、はい、え、でも、どうやって?」
 チュリップはしどろもどろになる。

「レイ。お前ならできるだろ。チュリップに見せてみろ」
 ベルが顔面から手を離すと、肉がべろりと落ちた。
「俺が! どうやればいい!」
「先の要領だ。命と同じように呪いの力を引きはがせ」
「分かった!」
 ベルの顔に手を当てて目を瞑る。

 ドロリドロリと肉の中で蠢く虫のような奴が居た!

「こいつだ!」
 手に力を込めて蠢く虫を引きはがす!
「何て気持ちの悪い奴だ!」
 グチグチと黒い生ものが手のひらで悶える。あまりにも醜いので握りつぶしてやる。

「これで治る」
「はい!」
 チュリップはベルに急かされて呪文を唱える。見る見るとベルの傷が治った。

「アスにもやってくれ」
「分かった!」
 真っ青になって腹を押さえるアスの傷に触る。

「待て! チュリップは僧侶だ。ならばチュリップがやるべきだ」
 ベルがチュリップを睨む。

「私ですか!」
「お前はレイに頼り切るつもりか? レイが倒れたら泣くだけか?」
 チュリップはギラリとベルを睨むと、すぐにアスの傍に行く。

「しばし、傷に触らせていただきます」
「よろしく頼むます」
 チュリップに任せるため、アスから離れる。

「……これは!」
 チュリップは傷口に触るとすぐに手を離した。

「なにこれ!」
 ガタガタと歯を鳴らしながら手を見つめる。

「レイ、君が代わりにやってくれ」
 チュリップが心配だったが、アスとルシーを放っておけないので代わる。

「傷は私が癒そう」
 毒を取り除くと、ベルが即座に傷を治す。

「ふー! 助かった!」
 ルシーが苦笑いする。

「済まなかった。もう少し注意していれば」
 迂闊に離れたことを謝る。
「別に良いよ。それより、ご飯にしよう! さっきのティンダロスの肉だ!」
 ルシーは大けがを負ったにも関わらず元気に笑う。

「取ってくるから待っていろ」
 立ち上がるとチュリップの様子を見る。

「大丈夫か?」
 全身を真っ青にさせたチュリップの背中を摩る。

「ええ……大丈夫です」
「そうか……すぐに戻ってくるから、待っていろ」



「ローズたちを僕たちが鍛えなおすってのもありかもしれない」
 レイが森の中へ入ると、ルシーはベルとアスに耳打ちする。
「チュリップの手際を見る限り、そうしたほうが良いかもしれないな」
 ベルは震えるチュリップを見てため息を吐く。

「では、私が彼女たちの相手をします」
「いや、僕たち全員でやろう」
 ルシーはアスの言葉を遮る。

「彼女たちにも相性がある。アスはリリー、ベルはチュリップ、僕はローズを担当する」
 ルシーは震えるチュリップと、疲れ果てて未だに眠るローズたちを見つめる。

「頑張れ。レイが好きなんだろ? 僕みたいに」
 ルシーは切なそうな瞳でチュリップたちを見つめ続けた。
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