迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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逃げるか戦うか

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「美味しい!」
 ローズが膝の上で肉を頬張る。
「美味しいってこんな感じなんだ!」
 ルシーも膝の上で肉の味に感動する。

「お前ら下りろ。飯が食えない」
 二人が邪魔で飯が食いずらい。

「レイの邪魔だからそろそろ下りなよ」
 ローズがお尻でルシーのお尻をぐいぐい押す。
「まあまあ、そう焦んないで。はい、あーん」
 ルシーはローズの圧力をものともせず、肉を口まで運んでくる。
「あーん」
 美味いが邪魔だ。
「レイ! あーん」
 ローズも負けずに肉を運んでくれる。

 強引にどかすのも可哀そうなのでしばらく好きにさせる。

「今度は私が変わるから、アスは座ってくれ」
「リリー殿、ありがとうございます」
 アスとリリーは交代で皆の前にベルが焼いた肉を運ぶ。
 息の合うコンビだ。隙が無い。
 
「チュリップは大丈夫か? 体調が悪いのか?」
 黙々と肉を口に運ぶチュリップの様子を見る。料理をベルに任せきりなのは珍しい。

「治療の時に少しだけ気分が悪くなりました。今はもう大丈夫です」
 顔色は良く、食欲もあるので大丈夫だろう。

「レイ! あーん!」
「僕のもあーん!」
 それはそれとしてローズとルシーが雪崩のように肉を運んでくる。
「お前ら仲いいな」
 二人のおもちゃにされている気分だ。



「ところで、君たちが一番印象に残った階層ってどこ?」
 ルシーはもぐもぐと口を動かしながら聞く。

「俺は地下十二階だ。あそこは衝撃的だった」
「迷宮に太陽があるなんて思わなかった!」
 ローズがうんうんと同意する。

「あそこのおかげで私たちは強く成れた」
「シロちゃんにも会えましたからね」
 リリーとチュリップももぐもぐと口を動かす。

「シロちゃんか。懐かしいな」
「元気だったよ。レイに会いたがってた」
 ローズの言葉を聞くと目頭が熱くなる。また会いたい。

「シロちゃんとは誰のことだ?」
 ベルが大皿に乗った焼肉をテーブルに置いて座る。

「でっかいオオカミだ。真っ白な毛で可愛い奴で、俺たちの友達だ」
「あのオオカミが友達! 嬉しいな」
 ベルは満足そうに肉に手を付ける。飲み込むと美味いとつぶやいた。

「ベルはシロちゃんを知っているのか?」
「私が生み出した最初の知的生命体だ!」
 ベルはまるで我が子を褒められたかのように上機嫌だ。

「君たちがここに来るまでに戦った化け物は、すべて神々と戦うために作ったものだ。だから知性は無い。私たちの命令を愚直に守るだけだ。何時しかそれだけだと面白くないと思った。だから試しに知的生命体を作ろうと思ったが、とても難しい! 人間を作ろうと思ったが、できるのはゴブリンやオークといった下等生物だ。それでも頑張って作った。それで初めてできたのがシロちゃんだ!」
 ベルは水を飲んで口を潤すと、俺たちに身を乗り出す。

「あの子と一緒に何をした? 遊んだのか?」
「地下十二階の門番を倒すために一緒に戦った」
「あの子は君たちと一緒に大陸クモに立ち向かったのか!」
「立ち向かったというより、俺たちを守ってくれた。俺たちが後一歩で食われるときに、シロちゃんが勇気を振り絞って助けてくれた。シロちゃんが居なかったら、俺たちはあそこで死んでいた」
「詳しく聞かせてくれ!」
「分かった」
 ベルは瞳を輝かせて俺たちの話を聞いた。

「そうか……あの子は君たちが大好きだったんだな」
 ベルは感極まった様子で涙を浮かべる。
「化け物では考えられない行動だ。実に嬉しい。ありがとう」
 頭を下げられると照れる。

「こっちも礼を言う。シロちゃんに会えて本当に良かった」
「そうか! あぁ……しかし、そうなると、あの子には可哀そうなことをした。君たちが来なければ永遠に孤独だった」
 ベルはしみじみと項垂れる。
「また会うと約束した。だから元気出せ」
「そうか……。ありがとう」
 深呼吸すると涙を拭う。
「神は偉大だ。君という友人を作った。私では真似できないことだ」
 ふとルシーとアスを見る。二人はベルの様子を見て、薄く笑っていた。
「やっぱり皆で食べる飯は美味いな!」
 食欲がぐわっと湧き出た。本当に美味しい。
 皆も美味そうに食べる。

「リリー殿は体術も修めているのですか?」
「剣が無い時も想定して学んだ。最も、まだまだ未熟だ」

「治癒魔法等は頭の怪我も治せるのか?」
「一応治せます。ただ完全に治りきらないことも良くあります」





 飯を食ったら猛烈な眠気に襲われる。腹いっぱいになったら眠る。この迷宮で最高の贅沢だ。
「眠気なんて初めてだ!」
「思考能力が低下している。人間はなぜ愚かなのか分からなかったが、こうなるなら仕方がないことだ」
「眠い……」
 ルシーたちがブツブツ喧しい。

「お前らも横になって寝ろ」
「どこで寝ればいいの?」
「俺はこいつらと一緒に寝るから、空いたベッドで寝ろ」
 ローズたちを抱えてベッドに倒れる。

「えぇ……こいつらなんて床で良いじゃん」
「そう言うな! 友達だ!」
 ごねるローズを無理やり体の上に乗せる。
「まだ眠くない!」
「俺はもう眠い! 久しぶりに一緒に寝よう!」
 ローズの頭を撫でる。
「仕方ないな……今日だけだからね」
 ローズが目を瞑るとリリーとチュリップもベッドに上がる。

「こうして横になると、地下十一階を思い出す」
 リリーが俺の腕を枕にして笑う。
「あの時は大変でしたね。ご飯も無くて、ぶっつけ本番の迷宮探索でしたから、不安で死にそうでした」
 チュリップは俺の腕に抱き着いてため息を吐く。
「レイがドジっ子だったばっかりに!」
 ローズは俺の上で頬を膨らませる。
「まあまあ、もう怒るな」
 久しぶりに三人と笑いあう。

「君たちは本当に仲が良いね」
 ルシーが寝転びながらニコニコと顔を向ける。
「もう何千年一緒に居るからな」
 ローズたちの頭を撫でる。

「もはや一心同体だ。これほど信頼できる仲間は居ない」
 リリーはルシーに笑い返す。
「ある意味不運ですわ!」
 チュリップは夜空に嘆く。
「何で不運なんだ?」
「だって、外に出てもあなたは傍に居るのでしょう?」
「当然だ! 俺はお前が大好きだ!」
「それが不運! 数多の殿方と遊ぶ機会がありません」
「その分幸せにする!」
「はいはい」
 チュリップはクスクスと胸に頭をこすり付ける。

「ぷすー」
 ローズはすでに熟睡していた。

「俺は寝るぜ」
「うん。お休み」
 ルシーに断ると、目を瞑る。すんなりと意識が落ちた。



 真夜中、レイたちが寝息を立てる中、ルシー、ベル、アスはベッドから下りる。
「殺す」
 ルシーがレイたちに殺気を向ける。

「動くな」
 瞬きすると、リリー、ローズ、チュリップがルシー、ベル、アスの喉元に武器を突きつけていた。

「素晴らしい速さだ」
 ルシーたちは三人に微笑みかける。

「熟睡した状態で瞬時に目を覚まし、武器を構える。今の私たちではできないことだ」
 ベルも三人に微笑む。

「ですが、怖がりすぎですね。レイ殿を見習っても良いかと」
 アスはイビキを立てるレイを見る。

「何が狙いだ?」
 三人はぎらつく目でルシーたちの一挙一動に目を光らせる。

「君たちに忠告するためだ」
「忠告だと?」
「そうだ。君たちはここで引き返したほうが良い。これ以上はレイの足手まといだ」
「何だと!」
「凄んでも、君たちの心は誤魔化せない」
 リリーたちはルシーの視線から目を逸らす。

「場所を変えよう。レイが出てくると、君たちの考えも揺らいでしまう」
 ルシーたちは喉元に突きつけられた武器など気にせず動く。
 三人は何もできずに固まる。

「付いてくるか来ないかは君たち次第。ただし、付いてこないなら、レイは君たちを守るために死ぬと言っておこう」
 三人は遠ざかるルシーたちの背中を見つめた後、眠りこけるレイに振り替える。

「行こう」
 リリーが武器を収めると、ローズたちも武器を収めて、ルシーたちの後を追った。



「ここなら良いだろう」
 草原の真っ只中でルシーたちとリリーたちは向かい合う。

「君たちにはガッカリしている。地下2000階程度の実力で良く来られたと呆れるほどだ」
 ルシーは三人に冷徹な目を向ける。

「知恵と工夫の賜物だ。私が作った化け物の隙を突いた。それは素直に素晴らしい。だが、その結果地力が地下2000階程度で止まっている」
 ベルも三人を冷たい目で睨む。

「知恵と工夫を凝らし、地下3000階にたどり着いたことは素晴らしいです。人間となった今ならそう思います。ですがその結果、あなたたちはレイ殿の足を引っ張っている。もう限界です。地下5001階からは、知恵と工夫ではたどり着けない、人間の限界を超えた領域です。ここで引き返したほうが良い」
 アスの容赦ない言葉が、冷たい風に乗って三人を包む。

「ならば! レイとともに地上に返せ!」
 リリーたちは恐ろしい形相で睨み返す。だがルシーたちは表情を変えない。

「それはできない。レイは地下9999階まで行く必要がある」
「なら私たちもともに進むだけだ!」
「僕の脆弱な殺気で大慌てするような奴がレイを助けられると思っているのか?」
 リリーたちは喉を詰まらせる。

「レイ殿とあなたたちでは生物としてのレベルが違います。レイ殿が人間ならば、あなたたちはシロアリに等しい存在なのです」
「私たちはシロアリじゃない!」
 ローズがアスに反論すると、ベルの目が光る。

「生物としての実力差だ。レイがなぜ起きないか? 君たちはシロアリが騒いだ音を聞き取れるか? 聞き取れない。その必要がないためだ。しかし君たちは違う。だからルシーの僅かな殺気に過敏に反応した。落ち着けば、そよ風よりも弱弱しい囁きなのに」
 三人はベルの言葉で一歩後ずさる。
 しかし、それでも歯を食いしばる。

「もうレイを一人にさせない!」
 ローズが武器を構える。

「頑固だね。なら、死んでもらう!」
 ルシーが指を鳴らすと、楕円形の暗闇がルシーとローズを包む。

「お前の相手は私だ!」
 ベルがチュリップに鉄槌を振り下ろす!
「ぐっ!」
 チュリップは間一髪で受け止めるが、受け止めた衝撃で地底へ落ちる。

「リリー殿。結界を張っているためレイ殿は来ません。助けを呼ぶのでしたら、私は止めませんが、どうします?」
 アスは凍てつく空気を纏って、リリーを睨む。

「ここでレイに助けを呼べば、私たちは助かるだろう。だが私たちは助けられるためにここに来たんじゃない! レイを助けるためにここに来た! お前ら程度など返り討ちにしてやる!」
 リリーは燃え滾る思いを空気に乗せて、武器を構える。

「いい度胸です。では、行くぞ、人間! ファントムソード!」
 アスが無数の剣を生み出すと、戦いの火ぶたが切って落とされた!
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