クラス転移したら追い出されたので神の声でモンスターと仲良くします

ねこねこ大好き

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ブラッド領北部と仲よくしよう!

戦争、攻勢

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 異変に気付いたのは赤子とスラ子だった。
「炎?」
「オオカミの森」
 二人は一緒に眠るゼロを起こさないように呟く。

「炎を放つだと」
 次に気づいたのはきな子だった。不機嫌に眉を顰める。

「ホノオ?」
 ハチ子も見回っていた蜂人から報告を受けて気づく。

「モエル」
 地中に作った巣の中でアリ子も蟻人から報告を受ける。

「ニゲル」
 徘徊していたクモ子は仲間とともに万年都の奥へ避難する。

「煙だ!」
 万年都の一番高い樹で見張りをしていたバードは警鐘を鳴らす。

「何!」
 ついにゼロが飛び起きた。



「オオカミの森で火災が起きた。万年都からとてつもなく離れているから、こっちは安全だ。しかし燃え広がれば、こちらも焼けてしまう可能性がある」
 万年都の会議室で、バードがゼロ、赤子、スラ子、ジャック、ザック、アマンダに慌ただしく説明する。

「火災! 何で!」
 ゼロは耳を塞ぐ。
 バードはゼロの背中を慰めるように撫でる。赤子とスラ子はピタリとゼロに寄り添う。

「あいつら、火を放ったか。予想通りだ」
 対してジャックは全く動じない。

「予想通り?」
 バードが噛みつく。

「森はモンスターの庭。どんな冒険者でも手こずる。だから火を放って更地にする。合理的な手段だ」
「あんた! それが分かってて何もしなかったの!」
 アマンダも噛みつく。

 ジャックは悪びれない。

「守るにも限度がある。オオカミの森は広い。散らばって油と火薬をばら撒かれたら対処できない。これを防ぐにはあいつらをブラッド領からたたき出すしかない」
「ならさっさとやりなさいよ!」

「私はモンスターと会話できない。できるのは、ゼロだけだ。それとも、君たちが農具を持って立ち向かうか? 向こうは戦争の手練れだぞ?」
 バードたちは言葉を失い、沈黙する。

「ゼ、ゼロ?」
 バードが恐る恐るゼロの顔を覗き込む。

「赤子さん、火災を止めてください」
「分かった」
 赤子がパチンと指を鳴らす。

「次は何をすればいいですか?」
 ゼロは顔を上げない。バードたちは何が起きたのかと困惑する。ジャックだけ平然とした態度だった。

「攻勢に出る必要がある」
「きな子やハチ子、アリ子にクモ子に、殺してくれと頼めばいいんですか!」
 ゼロは大粒の涙を流して体を縮こませる。

「その通りだ」
 ジャックは赤子とスラ子に睨まれても顔色を変えない。

「彼女たちに死ねと命じるんですか! 僕たちの都合で!」
「君は勘違いしている。目を逸らしているのか? 森が焼かれた。彼女たちにも危険が及んでいる」
 ゼロは何も言わない。

 そして針のむしろのような沈黙が停滞する。

「きな子とハチ子、アリ子、クモ子に聞いてみます」
「そうしたほうが良い」
 ゼロは顔を上げない。ジャックは悠然と小麦から作った酒を飲んだ。



「なるほど、それは許せない」
 ゼロの話を聞くと、きな子だけでなくオオカミたちも唸る。

「でも、戦いに行くと怪我するかも? それに罠かも?」
「怪我は承知。罠も関係ない」
 きな子の隣でオオカミたちが吼える。

「今回ばかりは私も許せん。あいつらをかみ殺す」
 きな子は怒りに震える目でゼロに言う。

「……分かりました。合図があるまで待っていてください」
 ゼロは硬い笑みできな子たちと別れる。

「君だけの問題では無いのだよ」
 ジャックはゼロの隣で言う。

「分かってます。でも、だったら、何で僕が号令を出さないといけないんですか!」
 拳を握りしめて、歯を食いしばる。

「君しかモンスターと会話できないからだ」
 ジャックは冷酷な真実を淡々と述べる。

「ところで君は、自分が関わらなければモンスターたちが死んでもいいと思っているのかな? 自分が号令をかけなければ死んでも良いと?」
「お願いです。何も言わないでください」
 ゼロはジャックから顔を逸らした。



「テキ!」
 ハチ子はゼロの話を聞くと羽を鳴らす。周りの蜂人も羽を鳴らして怒りを示す。
「僕の合図があるまで、待ってくれる?」
 ゼロはハチ子の顔を撫でる。

「ゼロ、カナシイ?」
 ハチ子は触覚でゼロの顔を撫でる。

「大丈夫。心配してくれてありがとう」
 ゼロはハチ子の顔に抱き着いて、涙を流す。



「イク!」
 アリ子はゼロの話を聞くとガチガチと歯を鳴らす。周りの蟻人も歯を鳴らす。
「僕の合図があるまで待ってね」
 ギュッとアリ子に抱き着く。

「ママ、ナイテル」
 アリ子はゼロの顔を撫でて涙を拭く。

「ごめんね。僕が弱いばっかりに」
 アリ子の頬にキスをして微笑む。



「タベル」
 クモ子はゼロの話を聞くと毛を逆立たせる。周りの蜘蛛人も毛を逆立たせる。
「ちょっと待っててね」
 ギュッとクモ子を抱きしめる。

「ゼロ、オナカスイタ?」
 クモ子は傍にある肉をゼロに手渡す。

「ありがとう!」
 ゼロは肉をかじって笑った。



 きな子たちに話をすると、ゼロはジャックと向き合う。
「君は最前線に出て、モンスターの指揮を執ってもらう」
「僕は戦争のやり方が分かりません」
 ゼロは暗い目でジャックを見る。

「合図するだけで大丈夫だ。これだけでも相手からすると脅威なのだ」
「そうですか」

「私が定めた位置にモンスターを配置させて、合図を出す。敵が逃げたら、そこで追撃は止めだ」
「追い打ちはしなく良いんですね?」

「万年都から離れすぎるとモンスターはご飯を食べられなくなる。補給隊を編成する必要があるが、今の段階では無理だ」
「それが攻勢に出られない理由ですね」

「そうだ。モンスターは強力な戦闘力を持つが、その分ご飯も食べる。虫人やオオカミたちを合わせると、一匹につき一日百食分は必要だろう。それを賄うのは現時点では無理だ。だから万年都から行って帰れる距離に止める」
「分かりました。ある程度追い返したら、きな子たちに追撃を止めるように指示します」

「素晴らしい! 戦いは昼のうちに終わるだろう。終わったらまた話し合おう」
「分かりました」
 ゼロはきな子の背中に乗って、再度ハチ子、アリ子、クモ子と打ち合わせをする。



 一日後、ゼロたちは攻勢の準備を整える。
「ゼロ?」
 スラ子がゼロの震える左手を握る。
「ゼロ」
 赤子がゼロの震える右手を握る。

「ありがとうございます」
 ゼロは青い顔で微笑むと、立ち上がる。そして何度も深呼吸する。

「攻撃開始!」
 ついに反撃の合図が告げられた!

 最初に突っ込んだのはきな子だ。防壁やら落とし穴などの罠を突進だけで粉砕する。

「化け物だ!」
 兵隊たちは突然の脅威に混乱する。その隙に蜘蛛人とオオカミがなだれ込む。

「逃げろ逃げろ!」
 蜘蛛人は人間と同じく手がある。建物の中に隠れてもドアを開けて入ることができる。さらに壁も登れるため窓から入ることができる。パニックになった兵隊たちに逃げ場はない。

「早く走らせろ!」
 待機していた馬車が兵隊たちを乗せて走り出す。残念ながら重い荷物を背負う馬では、オオカミと蜘蛛人の足の速さに勝てない。一瞬で食い殺される。

 さらに追い打ちをかけるように地中から蟻人が現れる。地中からの奇襲に馬は足を止める。その隙に殺される。
 馬車が動かないと分かった兵隊たちは走って逃げだす。しかし蟻人が作った落とし穴にはまり、動けなくなる。これはジャックの指示である。

 残ったのは鎧を装備した騎士だけだ。彼らを破るのは鋭い毒針を持つ蜂人。飛行能力と腕力を駆使されるとなす術もなく捕まる。そして強烈な毒針を腹に受ける。毒針は鎧を貫通して、騎士たちに致命傷を与えた。

「攻撃止め!」
 ゼロの声でオオカミと虫人は死体を食べるのを止める。

「素晴らしい!」
 高台で様子を見ていたジャックは興奮に震える。

「もしかすると君は、神に選ばれた真の勇者か!」
 ジャックは一人でゼロに惜しみない拍手を送る。

「皆でお墓を作ろう」
 ゼロは悲し気な笑みで、死体を見つめていた。
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