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最終章:皆と一緒に最悪の敵を打ち倒そう
100万貴族は仕事がいっぱい
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ゼロが100万貴族になってひと月が経った。
「焼けた万年樹の森の再生は順調だ」
万年都やオオカミの森、万年樹の森の開発を担当する、万年都開発大臣のザックが報告する。
昔、万年樹は魔軍の侵攻で火災が発生し、ほとんどが焼けてしまった。
ゼロは焼けた万年樹の森を再生しようと試みたが、人員不足などの問題でできなかった。
それは100万貴族となったことでようやく本格的に着手できるようになった。
「どの程度直りましたか?」
「ここ二週間で焼けた面積のうち、半分が挿し木を終えた。もう半分も焼けた万年樹の撤去が済み、挿し木ができる状態だ。イースト様からの支援で非常に早く進んでいる」
ゼロは同じ100万貴族であるイーストと協力関係を結んでいる。
「これから一人の領主として接する。私は自分の領地を優先して考える。お前は自分の領地を優先して考えろ」
「分かりました。でも、しばらくはお手柔らかにお願いします」
「分かっている。お前を怒らせたくないからな」
会談の日、二人は笑い合った。
会議の様子に戻る。
「また、万年都の拡大も進んでいる。王都からの技術者や支援のおかげだ。小麦畑も十分すぎるほど広がっている」
「そろそろ森の秘薬の製造に必要な薬草畑に集中したほうがいいかもしれませんね」
「そうだな。あと、万年樹と鉄を組み合わせると、軽くて丈夫な合金に仕上がることが分かった」
「新しい発見ですね。王都の報告会で報告しておきます」
ゼロはザックの報告を受けながら、大量の資料に目を通す。
「次は俺から経済の状況を報告する」
万年都の経済を取り仕切る、経済大臣のバードが報告する。
「通行税と贅沢品税で財政は潤っている。ただ、お菓子など甘い物に税をかけるなと、不満が出ているようだ」
「原料の砂糖は税の対象から外しましょう。それよりもお酒の税率を上げましょう。ここはとても綺麗な水がありますから、そちらを飲んでもらいましょう」
「胡椒といった香辛料はどうする?」
「税率を下げましょう」
「財政難になりそうだ」
「他に税金をかけられそうな物は?」
「賭博だろう。金銭のトラブルが起きているから、税率云々を抜きにしても取り締まったほうが良い」
「そろそろ王都から騎士を雇う時期ですか。お金が足りなくなるかも」
「砂糖の税率を下げる方向にしないか?」
「そうですね……どの程度下げられるか、検討してください」
会議は昼を過ぎても続く。
「いったんお昼にしましょう」
ゼロが控えのメイドを見る。メイドは慇懃に頭を下げて会議室から出る。するとすぐにお膳を持ったメイドが各自に食事を運ぶ。
「これは何だ?」
赤子が出された赤いゼリーを睨む。
「牛の血をゼリーにした物だ。俺たちも食ったが、意外と美味い」
バードがゼリーをスプーンで掬う。
「私はゼロの血しか飲まない!」
フンッとそっぽを向く。
「食べてみてください。皆で赤子さんが食べられる物は無いか考えたんです」
ゼロがにっこり笑うと、赤子はしぶしぶゼリーを食べる。
「……悪くない」
ツルリと一口で食べる。
「良かった!」
「でもゼロの血のほうが美味しいぞ!」
赤子はゼロに体を寄せる。
「食べてくれてありがとうございます」
ゼロは赤子の頭を撫でる。
「ムム」
パクパク無心に食べていたスラ子は、赤子とゼロを見ると、椅子をズルズル引きずって、ゼロと引っ付く。
「ゼロ、あーん」
そしてパンをゼロの口元へ運ぶ。
「あーん」
ゼロはパクリと食べると、手元のパンをスラ子の口元に運ぶ。
「あーん」
「あーん」
モグモグと笑顔で食べる。
「平和ね」
テーブルの隅っこで静かにしていたアマンダが笑う。
「理想的な風景だ」
テーブルのど真ん中で偉そうにふんぞり返るジャックが笑う。
「ところで役職も無いあんたが何でここでふんぞり返っているの?」
アマンダが言うと、バード、ザックもジャックを見る。
「俺はこの町の相談役だ。だからここに居る」
「文句しか言ってないわよね?」
「文句ではない。意見だ」
ジャックは悪びれない。
「食事が終わりましたら、始めましょうか」
ゼロは赤子とスラ子を隣に、一同へ笑いかけた。
日が沈むころ、ようやく会議に終わりが見えてきた。
「とりあえず、現状の課題の洗い出しと、対処案は出ましたね」
黒板に今までの纏めを書く。
「漏れはない」
バードたちは頷く。
「そうだ。一つ言っておくことがある」
ジャックは手も上げずに声を上げる。
「王都および周辺貴族のスパイを発見した」
「え!」
ゼロたちは驚きを口にする。
「最も証拠がないので泳がせている状態だ」
「大丈夫なの?」
アマンダは不安げな表情をジャックに向ける。
「奴らの狙いは森の秘薬と超人薬の秘密。いきなり殺すことは無い。だが油断は禁物だ。護衛をつけるから、絶対に一人で出歩くな」
「また森の秘薬と超人薬の秘密ですか……超人薬はともかく、森の秘薬は一般流通させているのに」
ゼロは顔を歪める。
森の秘薬は素晴らしい治癒効果があるため、教会などを通じて一般人も使用できるように定められている。
もちろん、転売などトラブルにならないように、王族たちと話し合いはつけている。
ジャックはゼロを見る。
「これは覚悟の上だっただろ」
ゼロは苦々しく頷く。
「分かってます。監視を怠らないようにしてください」
「分かっている。あと、これとは別に最近万年都で窃盗など犯罪率が増加している。見回りを強化しているが、絶対に一人で出歩かないように」
「分かりました。皆さまも注意してください」
ゼロの言葉で会議は終わった。
会議が終わり、部屋に戻ると、赤子とスラ子はぐったりとベッドに寝転ぶ。
「終わった」
「退屈だった」
「お疲れ様です」
ゼロは苦笑しながら書類を纏める。
「何してる?」
スラ子がうねうねとゼロの背中に抱き着く。
「明日、王都へ報告会へ行くから、その準備」
ペラペラと書類をめくって、内容を確認する。
「最近寂しいぞ。たまにはゆっくりしよう」
赤子はゼロを持ち上げると、膝の上に乗せる。
「そうそう!」
スラ子はゼロの膝の上に座る。
「ごめんなさい。王都で報告会が終わったら、久しぶりに一日遊びましょう」
「やった!」
「ゼロ、好き!」
赤子とスラ子はギュッとゼロを抱きしめた。
「焼けた万年樹の森の再生は順調だ」
万年都やオオカミの森、万年樹の森の開発を担当する、万年都開発大臣のザックが報告する。
昔、万年樹は魔軍の侵攻で火災が発生し、ほとんどが焼けてしまった。
ゼロは焼けた万年樹の森を再生しようと試みたが、人員不足などの問題でできなかった。
それは100万貴族となったことでようやく本格的に着手できるようになった。
「どの程度直りましたか?」
「ここ二週間で焼けた面積のうち、半分が挿し木を終えた。もう半分も焼けた万年樹の撤去が済み、挿し木ができる状態だ。イースト様からの支援で非常に早く進んでいる」
ゼロは同じ100万貴族であるイーストと協力関係を結んでいる。
「これから一人の領主として接する。私は自分の領地を優先して考える。お前は自分の領地を優先して考えろ」
「分かりました。でも、しばらくはお手柔らかにお願いします」
「分かっている。お前を怒らせたくないからな」
会談の日、二人は笑い合った。
会議の様子に戻る。
「また、万年都の拡大も進んでいる。王都からの技術者や支援のおかげだ。小麦畑も十分すぎるほど広がっている」
「そろそろ森の秘薬の製造に必要な薬草畑に集中したほうがいいかもしれませんね」
「そうだな。あと、万年樹と鉄を組み合わせると、軽くて丈夫な合金に仕上がることが分かった」
「新しい発見ですね。王都の報告会で報告しておきます」
ゼロはザックの報告を受けながら、大量の資料に目を通す。
「次は俺から経済の状況を報告する」
万年都の経済を取り仕切る、経済大臣のバードが報告する。
「通行税と贅沢品税で財政は潤っている。ただ、お菓子など甘い物に税をかけるなと、不満が出ているようだ」
「原料の砂糖は税の対象から外しましょう。それよりもお酒の税率を上げましょう。ここはとても綺麗な水がありますから、そちらを飲んでもらいましょう」
「胡椒といった香辛料はどうする?」
「税率を下げましょう」
「財政難になりそうだ」
「他に税金をかけられそうな物は?」
「賭博だろう。金銭のトラブルが起きているから、税率云々を抜きにしても取り締まったほうが良い」
「そろそろ王都から騎士を雇う時期ですか。お金が足りなくなるかも」
「砂糖の税率を下げる方向にしないか?」
「そうですね……どの程度下げられるか、検討してください」
会議は昼を過ぎても続く。
「いったんお昼にしましょう」
ゼロが控えのメイドを見る。メイドは慇懃に頭を下げて会議室から出る。するとすぐにお膳を持ったメイドが各自に食事を運ぶ。
「これは何だ?」
赤子が出された赤いゼリーを睨む。
「牛の血をゼリーにした物だ。俺たちも食ったが、意外と美味い」
バードがゼリーをスプーンで掬う。
「私はゼロの血しか飲まない!」
フンッとそっぽを向く。
「食べてみてください。皆で赤子さんが食べられる物は無いか考えたんです」
ゼロがにっこり笑うと、赤子はしぶしぶゼリーを食べる。
「……悪くない」
ツルリと一口で食べる。
「良かった!」
「でもゼロの血のほうが美味しいぞ!」
赤子はゼロに体を寄せる。
「食べてくれてありがとうございます」
ゼロは赤子の頭を撫でる。
「ムム」
パクパク無心に食べていたスラ子は、赤子とゼロを見ると、椅子をズルズル引きずって、ゼロと引っ付く。
「ゼロ、あーん」
そしてパンをゼロの口元へ運ぶ。
「あーん」
ゼロはパクリと食べると、手元のパンをスラ子の口元に運ぶ。
「あーん」
「あーん」
モグモグと笑顔で食べる。
「平和ね」
テーブルの隅っこで静かにしていたアマンダが笑う。
「理想的な風景だ」
テーブルのど真ん中で偉そうにふんぞり返るジャックが笑う。
「ところで役職も無いあんたが何でここでふんぞり返っているの?」
アマンダが言うと、バード、ザックもジャックを見る。
「俺はこの町の相談役だ。だからここに居る」
「文句しか言ってないわよね?」
「文句ではない。意見だ」
ジャックは悪びれない。
「食事が終わりましたら、始めましょうか」
ゼロは赤子とスラ子を隣に、一同へ笑いかけた。
日が沈むころ、ようやく会議に終わりが見えてきた。
「とりあえず、現状の課題の洗い出しと、対処案は出ましたね」
黒板に今までの纏めを書く。
「漏れはない」
バードたちは頷く。
「そうだ。一つ言っておくことがある」
ジャックは手も上げずに声を上げる。
「王都および周辺貴族のスパイを発見した」
「え!」
ゼロたちは驚きを口にする。
「最も証拠がないので泳がせている状態だ」
「大丈夫なの?」
アマンダは不安げな表情をジャックに向ける。
「奴らの狙いは森の秘薬と超人薬の秘密。いきなり殺すことは無い。だが油断は禁物だ。護衛をつけるから、絶対に一人で出歩くな」
「また森の秘薬と超人薬の秘密ですか……超人薬はともかく、森の秘薬は一般流通させているのに」
ゼロは顔を歪める。
森の秘薬は素晴らしい治癒効果があるため、教会などを通じて一般人も使用できるように定められている。
もちろん、転売などトラブルにならないように、王族たちと話し合いはつけている。
ジャックはゼロを見る。
「これは覚悟の上だっただろ」
ゼロは苦々しく頷く。
「分かってます。監視を怠らないようにしてください」
「分かっている。あと、これとは別に最近万年都で窃盗など犯罪率が増加している。見回りを強化しているが、絶対に一人で出歩かないように」
「分かりました。皆さまも注意してください」
ゼロの言葉で会議は終わった。
会議が終わり、部屋に戻ると、赤子とスラ子はぐったりとベッドに寝転ぶ。
「終わった」
「退屈だった」
「お疲れ様です」
ゼロは苦笑しながら書類を纏める。
「何してる?」
スラ子がうねうねとゼロの背中に抱き着く。
「明日、王都へ報告会へ行くから、その準備」
ペラペラと書類をめくって、内容を確認する。
「最近寂しいぞ。たまにはゆっくりしよう」
赤子はゼロを持ち上げると、膝の上に乗せる。
「そうそう!」
スラ子はゼロの膝の上に座る。
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「やった!」
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