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最終章:皆と一緒に最悪の敵を打ち倒そう

因縁の対決

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 真の勇者は夢の中で何度も助けてくれたグランドさんだった。
「両名、揃いました」
 王様がコロシアムの玉座に座るグランドさんの前で膝を付き、首を垂れる。

「ご苦労」
 グランドさんは具合が悪そうな表情で呟く。

「おい! 頭を下げろ!」
 イーストさんに叱られたので慌てて跪く。

 何が起きるんだ?

「へへ」
 対してミサカズはムカつくほど余裕だ。皆が跪いている中、一人だけ立って居る。

 周りの兵士たちは咎めない。王様や貴族も見て見ぬふりをしている。

 指名手配されていたのになぜ?

「そろそろ、私は死ぬ」
 グランドさんは重い口を開く。

「だからこそ、後継者を決める。名はミサカズだ」
「何だって!」
 信じられない! 思わず立ち上がって抗議しようとするが、グランドさんの顔を見て、何も言えなくなる。

「ははは!」
 それを良いことにミサカズは笑う!

 畜生! お前みたいな屑が何で!

 真の勇者になりたい訳じゃない! だけどミサカズは許せない! そんな資格ない! それなのにグランドさんはどうして!

 グランドさんがミサカズを選んだ。
 とてつもないショックが心臓を打ち砕く。

「お言葉ですが、それは少々不味いと思います」
 王様が顔を上げる。

「なぜだ?」
「ミサカズは大量殺人鬼です。必ずや我が国を滅ぼします」

「何が問題だ?」
「え!」
 コロシアムに居る人々が全員顔を上げる。

「お前たちは戦争を終わらせるためにミサカズを転移させた。そしてお前たちの望み通り、ミサカズにはその力がある」
「し、しかし! それは我が国を滅ぼすためではありません!」

「うるせえな! ぐちゃぐちゃ負け犬どもがよ!」
 ミサカズは両手を広げて嘲笑う。

「俺は真の勇者に選ばれた! それに文句があるってのか!」
「お前は人を食った! 許されないことだ!」
 イーストさんが睨む。

「おいおい! 俺は戦争を終わらせるために強く成ろうとしただけだ! そして強くなった! だろ! そこのくそ女!」
 ミサカズはレビィさんを笑う。

「ええ。見ただけで分かる。あなたは私よりも強い。私たちを食べ続ければ、たった一人で戦争を終わらせることも可能でしょう」
「ほら見たか!」
 ミサカズは人々を笑う。

「俺はお前らのために強くなった! これが勇者でなくて何だ! だいたい戦争は死人がつきものだろ! 高が百人千人万人殺されたからって騒ぐのは可笑しいだろ! それとも戦場で死ぬのは上等で、俺に食われるのは下等か! 戦争を終わらせることができないお前らが下等だ! 俺はそれを助けるんだ! ほら! 涙を流して感謝しろ! 俺を称えろ! 文句がある奴は来いよ! 殺してやる!」
 全員、何も言えない。

「意義のあるものは居るか」
 グランドさんの静かな声がコロシアムに響く。

「なら、決まりだな」
 グランドさんの言葉に、ミサカズは笑う。

「心配するな! これからは俺が王様だ! ちゃんと俺に従えば、殺しはしねえよ! ハハハハハハハハハ!」
 ミサカズの高笑いが響く。

「意義あり!」
 我慢できずに叫ぶ!



「やっぱりな。馬鹿はどこまでも馬鹿だ」
 ミサカズは舌なめずりするが、構っていられない!

「こいつは真の勇者に相応しくない!」
「ならば誰が相応しい?」
 グランドさんは静かに聞く。

「僕だ! 僕が真の勇者になる!」
「クハハハハハハ! マジで言ってんのか! 弱虫のお前が! ギャクか! そうだろ! 最高だ! 笑い死ぬぜ!」
 腹を抱えて笑う。だからどうした。

「本気で言っているのだな」
 グランドさんはミサカズと違い、少しも笑わない。
 真っすぐに僕の目を見て喋る。

「本気です」
 声がコロシアムの静寂に溶ける。

「ならば、戦って決めるしかない」
 グランドさんが合図すると、僕とミサカズ以外、闘技場から下りる。

「ゼロは特別に赤子とスラ子と一緒に戦うことを認める。それ以外の者は手出し無用。勝負はどちらかの死で決まる。さあ、二人とも、準備をするがいい」
「分かってるよ、くそ爺」
 ミサカズはポケットから布を取り出すと、手に被せる。

「確か、クラウンって奴の力だったな」
 そして剣を出現させる!

「お前! クラウンさんの死体を食べたのか!」
「不味かったぜ! 鼻をつまんで食った!」

「許せない!」
 構える。するとミサカズは肩を震わせて笑う。

「まあ、こうなるかなって思ってたんだよ。お前は馬鹿だからな」
「そう」

「だが、最後にチャンスを与えてやる。昔みたいに、俺の靴を舐めろ。そうすれば許してやる」
「ふざけるな」
 集中して、気合を高める。

「お前を殺して弱かった自分に終止符を打つ! お前との因縁を終わらせる! 殺された人々の仇を討つ!」
「因縁? そんな上等な物じゃねえと思うが。まあいい。それより、マジで勝つ気か?」

「今の僕には赤子さん、スラ子が居る! 皆が居る! お前なんかに負けるか!」
「皆ね……実は、俺も居るぜ」
 ミサカズは腹を摩る。

「この中にな!」
「お前!」

「ああ! 嘘だった! 食った奴ら全員」
 鼻で笑う。

「ケツから出て行ったよ」
「……殺してやる」



「初め」
 グランドさんの合図とともに、因縁の対決が始まった。
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