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本編
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しおりを挟むユーグのキスにうっとりとする。
わたしは、ユーグの事を愛し始めているのだろうか?
もしかしたら、もう、愛しているのかもしれない___
ユーグはわたしが許すまで、待つと言っていた。
それを考えると、恥ずかしさでいっぱいになるのだが、
『嫌』という感情ではなく、恥ずかしい、それに何処か期待している…
やはり、わたしはもう、ユーグに落ちているのかもしれない。
◇◇
丁度、使用人たちの服が一掃した頃だった。
「アリシア、週末に館に親族を呼んで、簡単な晩餐会を開く事にした。
不愉快な相手かもしれないが、君にも出席して欲しい」
ユーグに言われ、クロエからの忠告を思い出した。
親族はわたしとユーグの結婚に反対なのだ。
それならば、尚更、彼を独りにする訳にはいかない。
「不愉快だなんて、大丈夫よ、あなたの大切な親族でしょう?
それなら、わたしにとっても、大切な人たちだわ」
ユーグは「ありがとう」と笑みを零した。
週末に向けて、執事とメイド長と打ち合わせをし、準備に当たった。
館中を掃除し、客室の準備、食事のメニュー決め…等々、慌ただしく時間は過ぎて行った。
週末の昼過ぎから、親族たちの乗った馬車が続々と館に着いた。
わたしはユーグと共に、挨拶に立った。
「ユーグ、久しぶりだな」
「急に晩餐会だなんて、どうしたの?」
「たまには良いでしょう、妻のアリシアです」
「アリシアです、どうぞよろしくお願い致します」
「フン、話には聞いていたが、感心せんな」
「平民の娘は品が無いわ」
皆、ユーグには良い顔をしたが、わたしには蔑む様な視線を向けた。
「妻を侮辱なさるのであれば、お帰り下さって結構です。
その代わりに、後で何を聞かされても、文句は言わないで下さい」
ユーグが不穏な事を言い、親族たちは顔色を変えた。
「どういう事だ、ユーグ、何かあるのか?」
「晩餐会の前にお話しします」
親族たちは口を閉じ、客室へ案内されて行った。
何かあるのだろうか?
わたしも気になったが、数時間後には分かる事だと待つ事にした。
「ユーグ、アリシア、お招きありがとう」
親しみを込め話し掛けてくれたのはユーグの姉、クロエだけだった。
「お義姉様、ようこそお越し下さいました」
抱擁を交わした後、クロエは息子のアンドリューを紹介してくれた。
二十歳過ぎの貴族の子息らしい、礼儀正しい青年だった。
「息子のアンドリューよ、ユーグの下で働いているの」
「アンドリューです、奥様にはお初にお目に掛かります」
「初めまして、アリシアです、どうぞよろしくお願い致します」
クロエとアンドリューが案内されて行った後、ユーグの両親が現れた。
「ユーグ、親に結婚の報告に来ないとは、どういう事だ!」
「私も聞いていませんよ、聞いていれば、こんな結婚は、認めませんでしたけどね」
やはり、厳しい表情だった。
「手紙で報告したでしょう、忙しくしていたんですよ。
それに、結婚するのは私です、一生を共にする伴侶に、ケチを付けないで頂きたい」
「おまえは伯爵なんだぞ!こんな下賤の小娘に、伯爵夫人が務まると言うのか!」
「父上、汚い言葉は控えて下さい、父上の方が品性を疑われます」
「品性だと!?この、一族の面汚しが!」
あまりの暴言に、わたしは戦々恐々としたが、ユーグは顔色一つ変えない。
暴言を吐かれる事に慣れているのだろうか?
「確かに、私は至らない伯爵でしょう、自分でも承知しています。
どうぞ、部屋に案内します」
「部屋位、分かっておる!」
ユーグの両親が館内に消え、わたしはそれを思い出した。
「挨拶出来なかったわ…」
すっかり、タイミングを見失ってしまった。
だが、ユーグは全く気にしていない様だ。
「構わない、それに、今は何を言っても無理だろう。
嫌な思いをさせてすまない、アリシア」
ユーグがわたしの手を取り、擦った。
温かい手の中に包まれ、わたしは自然、心が凪いでいた。
「わたしは大丈夫よ、あなたが庇ってくれているもの、ユーグ」
視線が絡み、熱を帯びたものの、
新たな親族が現れた事で、わたしたちは無言で対応に戻った。
◇
晩餐が始まる前、皆が書斎に集められた。
親族たちは皆、フォーマルに身を包み、貴族然とし、威厳を放っている様に見えた。
ユーグの両親を始めとし、総勢、十二名だ。
ユーグは皆を眺め、話し始めた。
「本日、私から発表したい事があり、皆さんに集まって頂きました」
「発表だと!?聞いておらんぞ!ユーグ!」
父親が声を荒げたが、ユーグはそれを無視し、続けた。
「私は爵位を譲り、退く事を決めました」
これには、周囲に動揺が走った。
「私が伯爵を継いで、十五年になります。
私が伯爵を継いだ理由は、他に適した者がいなかったからに他ありません。
私はこれまで、次の伯爵への繋ぎの役目を果たすつもりで、
後継者を探し、育てて来ました」
「それは、誰だというのだ!」
「ブーランジェ男爵子息、アンドリュー」
皆がアンドリューの方を振り返った。
アンドリュー自身、驚いた顔をしている。
「し、しかし、アンドリューはまだ二十三歳だ、若すぎる…」
「私が伯爵を継いだ年とそう変わりはありませんよ。
アンドリューには教えています、立派な伯爵になるでしょう」
「ユーグ、おまえはどうする気なんだ?」
「私は隠居するつもりです、これからは、やりたい事をする」
声を上げて反対する者はおらず、話は纏まっていた。
「ユーグ、本当にいいのね?」
クロエがユーグに確かめる。
ユーグは「ふっ」と笑った。
「ああ、アンドリューの補佐は姉さんに頼むよ」
「あなたは昔から解放されたがっていたものね、
いいわ、後の事は私に任せて、何処へでも行くといいわ、アリシアとね」
クロエが横目でわたしを見る。
ユーグはわたしに向かう。
「アリシア、付いて来てくれるか?」
「あなたらしくないわ、あなたはわたしを攫ってくれればいいの!」
ユーグが笑い、わたしの腰を抱いた。
親族たちが食堂へと向かう中、わたしたちは熱いキスを交わした。
わたしのユーグへの気持ちは、大きく膨らんでいた。
彼に抱かれても良いと…
いや、彼に抱かれたいと…
彼と愛し合いたいと___
晩餐会が終わり、皆がそれぞれの客室に引き上げた後、
わたしたちも部屋に戻り、着替え、寝支度をした。
寝室に入ると、ユーグはベッドに座り、ランプの灯りで本を読んでいた。
わたしはドキドキと煩い心臓を手で押さえる。
薄明りで良かった、顔が赤い事だけは、知られずに済むだろう。
わたしはベッドに入り、ユーグの傍へ寄った。
いつもであれば、こんな事はしない…
ユーグが気付き、本を置いた。
「アリシア?」
「ユーグ、わたし、多分、あなたを愛しているわ…」
わたしは一気に言っていた。
ユーグの目に驚きが見え、わたしの勇気は萎んでしまう。
恥ずかしくなり視線を落とすと、ユーグはわたしの手を掴んだ。
「多分?」
「分からないの、だから、教えて欲しいの…ユーグ」
恥ずかしさに、顔は益々赤くなったが、もう、戻る事は出来ない。
わたしはユーグの胸に手を当て、たどたどしく撫でた。
ユーグは鋭く息を吸うと、熱く口付けた___
◇◇
ユーグと本当の意味で、夫婦になれた___
「すまない、辛いだろう?」
ユーグが少しでも癒そうと、わたしの頬を撫でる。
自分の事の様に感じ、辛そうな表情をする彼に、わたしは微笑んで見せた。
「辛いわ、でも、うれしいの…」
愛しているか分からないと思っていたが、
わたしはユーグの腕の中、幸せに満ち足りていた。
わたしはユーグを愛しているわ!
今は自信を持って言えた。
ユーグこそ、わたしの《運命の人》だと___
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