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前日譚 ※本編を先にお読み下さい
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しおりを挟むパーン!
パーン!
銃を撃つ音が響き、俺は画板から顔を上げた。
この辺りは狩りをする場でも無い…
俺は様子を見に行く事にし、音のした方に向かっていた。
ジョルジュとエリーズも気になったのか、前方に二人が見えた。
「ジョルジュ!」
「ああ、ユーグ」
「誰かが銃を撃っているのか?」
「多分ね、近くみたいだから行ってみようと思っていた所だよ…」
「俺も行くよ、エリーズは来ない方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうだね、エリーズ、君はここで待っていてよ」
ジョルジュと二人で、エリーズを帰そうとしたが、エリーズは聞かなかった。
「わたしだけ仲間外れなんて嫌よ!わたしも行くわ、わたしも気になるもの」
仕方なく三人で向かっていると、的を置き、銃を撃っている者たちを見つけた。
俺には見覚えがあった。
祭りの時に会った、ピエールと仲間の女性二人だ。
的はロベール男爵家の別邸に向けられている。
何かしらの思惑があるのかもしれない。
町一番の資産家という位だ、爵位持ちが気に入らないのかもしれない。
パーン!
「どうだ!見たか、俺の実力を!!」
「流石、ピエールね!」
「あなたに勝てる人はいないわ!」
聞かせたいのか、彼等は馬鹿みたいに大声で話している。
この辺は私有地では無いが、銃を撃って良い区域でも無い。
「君たち!銃を撃つのは止めてくれ!」
ジョルジュが声を掛けると、ピエールたちは振り返った。
「別にいいじゃねーか、おまえの土地じゃねーだろう、男爵子息様」
「君の土地でも無いよね、それに、ここは銃を撃って良い場所では無い!」
「堅い事言うなって、ただの試し撃ちだろ…おお?
誰かと思えば、祭りの時は世話になったな、エリーズ!
俺たちと一緒に来るなら、止めてやってもいいぜ?」
ピエールがエリーズに目を付け、ニタリと笑う。
ジョルジュはエリーズを背に庇った。
「嫌よ!野蛮な人は嫌いだもの!」
「それなら、黙って見てるんだな!おっと、手が滑った!」
ピエールが明後日の方向に向け、銃を撃った。
パーン!!
「嫌っ!!」
エリーズは耳を押さえ、身を竦めた。酷く怯えている…
「ジョルジュ、エリーズを連れて行くんだ、俺が話を付け様…」
俺が言った時だ。
ピエールがまた銃を撃った。
パーン!!
「キャン!!」
高い声に、俺たちは一斉にそっちを見た。
「やだ!人撃っちゃったんじゃない?」
「ヤバいよー、ピエール!」
「いいから、逃げろ!!」
ピエールたちがバタバタと逃げて行く。
俺は声のした方に走った。
芝生の中に、黒く小さなものが蹲っている。
覗き込むと、真っ黒い子犬で小刻みに震え、腿から血を流していた。
弾が掠ったのだ___
「キューン…クーン…」
弱弱しい鳴き声だが、幸い、死んではいない。
「大丈夫だ、直ぐに助けてやるからな…」
俺は急いでシャツを脱ぎ、子犬を包み、慎重に抱き上げた。
「ジョルジュ!子犬の脚に弾が掠ったらしい!直ぐに医者を…」
俺は言い掛けて言葉を止めた。
先程まで怯えていたエリーズが、俺の脇から子犬を覗き込んでいたからだ。
「エリーズ?」
「可哀想な子…今、血を止めてあげる」
エリーズは先の尖った小枝で、自分の人差し指の先を切った。
「エリーズ!何を…!!」
彼女の指からは赤い血が溢れ、子犬に滴り落ちた。
その瞬間、金色の光が子犬の体を包んだ___
「これは…!?」
驚愕し見ていると、やがてその光は消え、子犬がひょこりと顔を起こした。
「キャンキャン!」
元気に鳴き、俺の腕の中で小さな尻尾を振っている。
見ると、足の怪我は消えていた。
まるで、何も無かったかの様に…
エリーズは自分の指先を、ペロリと舐めた。
それだけで血は止まった様だ。
「エリーズ…今のは…魔法か?」
《魔法》
人間に宿る不思議な力で、それは千年の昔に滅んだと言われている。
時に先祖返りで、力を持つ者が生まれると言われているが…
「魔法とは少し違うわね…
わたし、人間では無いの、妖精、エルフよ___」
エリーズが大きく頭を振ると、長い髪は空を舞った。
彼女の耳が、尖った長いものに変わったのに気付く。
昔、挿絵で見た妖精と同じだ…
俺はそんな事をぼんやりと思っていた。
エリーズの話によると、彼女たちの種族が棲む世界は、古くからこの森林と繋がっていて、
それを守る為、人間を森林に近付かせない様にしている。
森林に入った者は、迷わされ、出口へと導かれるらしい。
俺はこの話に驚愕したが、ジョルジュは平然としていた。
「ジョルジュは彼女がエルフだという事は知っていたのか?」
「ああ、僕は聞いていたよ、僕が告白した時に、話してくれたんだ」
俺はジョルジュが知っていた事に驚いた。
知っていて、尚、エリーズを恋人にした。
男爵家の跡取りであるジョルジュが、人間ですらない女性を選ぶとは…
俺には二人に未来があるとはとても思えなかった。
「だけど、力の事は知らなかったな…」
「何もかも違うんですもの、何を話せば良いのか、分からないわ」
エリーズは種族の十二番目の王女で、王女の血には特別な力があるのだと言う。
「王女の血には、病や傷を治す力があるの、但し、条件がある…」
「条件?」
「一時期を過ぎたら、この力は失われるの、今だけの力よ」
一時期、今だけ…
「処女?」
「ユーグ!」
つい、言ってしまった俺の口を、エリーズがその手で塞いだ。
赤い顔をし、怒った様に俺を睨む。
「掟を軽々しく言葉にしてはいけないわ!」
そんな、大層なものなのか?
だが、デリカシーが無かった事は確かで、俺は大人しく「悪かった」と謝っておいた。
「エリーズのお陰で助かったな、チビ」
俺は腕の中の子犬に言う。
子犬は元気に「キャンキャン!」と哭いた。
「この子はどうするの?」
「俺が飼うよ」
俺は深く考えずに答えていた。
腕の中の子犬を見ていると、守ってやりたくなった。
それに、エリーズとの繋がりの様に思えたのだ。
「それじゃ、ユーグ、名を与えてあげて」
エリーズに急かされ、俺は子犬を持ち上げ、眺めた。
焦げ茶色の綺麗な瞳、愛嬌のある顔をしている。
「アミ」
《友》という意味だ。
「良かったわね、アミ」
「キャンキャン!」
エリーズが子犬に話し掛け、指先で頭を撫でた。
子犬はエリーズの指を必死で舐めていた。
「お腹が空いているのね」
「よし、それじゃ、僕がビスケットとミルクをご馳走しよう!」
「キャンキャン!」
「俺は寝床を用意してやるか…」
「キャンキャン!」
子犬は元気で愛想も良く、俺たちはすっかりアミに夢中になり、世話に明け暮れた。
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