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パン屋のマリア
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もう一年以上前になる。
パン屋さんに可愛い店員さんがいる、とマリアが店に出始めてすぐに評判になった。
でもマリア目当てで、あわよくば仲良くなりたいと思って来るような軽薄な男性は皆尻込みして帰っていった。
キリッとして声をかけられないそうだ。
元々は小さなパン屋だった。
庶民が日々の食卓に乗せるような素朴なパンを丁寧に作っていた。
それにチーズを乗せたり、具材を挟んだものを子供たちが売り歩いていた。
マリアは堂々としていて姿勢よく、どんなお客にもしっかりと対応する。
女性客にむけての小さめのパンや、男性向けのサンドイッチが増えたのはマリアの意見を参考にしたらしい。
しばらくすると様々な客層に人気のパン屋になっていた。
そしてマリアをさらに有名にしたのが黒狼と呼ばれる第三騎士団のヒューゴだ。第一、第二は貴族。第三は貴族と平民が混じっている。
城下の見回りなどをするので身近に感じられる分、人気は高い。
ヒューゴは素早い動きと剣の腕からスリなどを追いかける機会が多かった。好んで黒い服を着ているのて黒狼の騎士と呼ばれている。
愛想もなく、人を寄せ付けない雰囲気だった。子供からはその孤高ぶりも含めて人気だったが、名前を呼ばれても軽く手を上げたりする程度。
別の騎士のように女性に囲まれたり差し入れを渡されることはなかった。
「ヒューゴかっこいいよなあ」
庶民の子供たちが騎士の真似をして遊ぶとき、ヒューゴ役になりたがる子が必ずいる。
そのヒューゴをパン屋で見かけたというから、数人の子供がパン屋を覗いていた。
パン屋でパンを買っている。
ヒューゴが。
「ヒューゴも柔らかいもの食べるんだな」
「干し肉と酒しか飲まないのかと思ってた」
「まって、あのお姉さん泣いちゃうんじゃない?怖くて」
「ああ、俺たちのヒューゴは普段も迫力が滲み出てるからな、お姉さん震えてしまうな」
「本当は正義の味方なんだって俺たちが説明しに行こう!」
ヒューゴが会計の順番が来た
お姉さんと視線を合わせて、固まっている。
「あ、お姉さん止まっちゃった」
「震えてるか?」
「震えてる」
「やっぱり、俺らが行かないと」
「違う。ヒューゴの手が、トレイが震えてる」
子供たち、ガラスにくっついた。
「何やってるのあんた達」
買い物中の母親二人が子供のそばにやってきた。
店を覗きこむなんて!と走ってきた。
「ヒューゴさんがパン屋に?珍しいけど、パンくらい良いじゃない。ほら、帰るわよ」
「ん?ああ、マリアさんだっけ。見つめあって、ああ、そういうこと!」
顔を赤くして二人が何か話しているのを見て、母親達は察した。
そして、邪魔をしないように今度こそ子供達をガラスからはがして連れかえった。
「ヒューゴさん女性に奥手だったのね。マリアさんに会いにパン屋に通うなんて、可愛い!」
「マリアさんも絶対ヒューゴさんのこと好きだよね。巡回の時にもう、ヒューゴさんしか目に入らないって感じでキラキラしてる」
「この前、巡回の時にヒューゴさんが片手で口を覆って、マリアさんに、小さく手を振ってたわよ!」
「きゃー!
ギャップ萌え!!」
母親達の間で二人の進展を見るのが流行した。
「はー、若い人は良いわねえ」
他にもパン屋の並びにある店の人や街の住人も二人を微笑ましく見ていた。
一年以上前からである。
結婚しないのか?あの二人。
そろそろじゃない?
みんな盛大にお祝いしたくてウズウズしていた。
「マリアさんため息ついてたわよ!ヒューゴさん、もしかして結婚する気ないのかしら」
「いや、この前うちの赤ん坊を見て蕩けそうな顔してたわよ!だから子供は兄弟も必要だから、早めに産んで良かったって言ってやったわ!」
「私もヒューゴさんに、独身の時にアパートに不審者が出て怖くなったから旦那と一緒に住むことにして入籍したって、言ったんだけど」
「どうだった?」
「眉間にシワを寄せてたわ」
「私は、マリアちゃんがモテるって話をさりげなくしといたわよ」
「ありがとうございます」
えっ?
と振り返ったら
「ま、マリアさん!」
にっこりと微笑むマリアが立っていた。
パン屋の外のテラスに作られたイートインスペース。今日はマリアが休みと聞いて、つい噂話をしてしまった。
母親たちは、青ざめた。
「ごめんなさい、私たち余計なことを」
「いえ、皆さんのような、既婚者の知恵は参考になります。」
お茶のおかわりを全員の分運んできて、自分も座る。
マリア、私服のときは余計にキリッとしている。
「ヒューゴさんではなくて、私のほうから効果的な方法があれば教えてください」
マリアは頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください!」
「私、どんな手を使っても絶対にヒューゴさんと結婚したいんです。」
その迫力に母親達は震えた。
感動で。
かっこいいわ!マリアさん!
「ヒューゴさん、マリアさんに充分メロメロに見えるけど、任せて!もし恋人のままが良いな~なんて生温いことを思ってるならガツンと人生設計するように仕向けましょう!」
マリアに最強かもしれない後ろ楯が生まれた。
パン屋さんに可愛い店員さんがいる、とマリアが店に出始めてすぐに評判になった。
でもマリア目当てで、あわよくば仲良くなりたいと思って来るような軽薄な男性は皆尻込みして帰っていった。
キリッとして声をかけられないそうだ。
元々は小さなパン屋だった。
庶民が日々の食卓に乗せるような素朴なパンを丁寧に作っていた。
それにチーズを乗せたり、具材を挟んだものを子供たちが売り歩いていた。
マリアは堂々としていて姿勢よく、どんなお客にもしっかりと対応する。
女性客にむけての小さめのパンや、男性向けのサンドイッチが増えたのはマリアの意見を参考にしたらしい。
しばらくすると様々な客層に人気のパン屋になっていた。
そしてマリアをさらに有名にしたのが黒狼と呼ばれる第三騎士団のヒューゴだ。第一、第二は貴族。第三は貴族と平民が混じっている。
城下の見回りなどをするので身近に感じられる分、人気は高い。
ヒューゴは素早い動きと剣の腕からスリなどを追いかける機会が多かった。好んで黒い服を着ているのて黒狼の騎士と呼ばれている。
愛想もなく、人を寄せ付けない雰囲気だった。子供からはその孤高ぶりも含めて人気だったが、名前を呼ばれても軽く手を上げたりする程度。
別の騎士のように女性に囲まれたり差し入れを渡されることはなかった。
「ヒューゴかっこいいよなあ」
庶民の子供たちが騎士の真似をして遊ぶとき、ヒューゴ役になりたがる子が必ずいる。
そのヒューゴをパン屋で見かけたというから、数人の子供がパン屋を覗いていた。
パン屋でパンを買っている。
ヒューゴが。
「ヒューゴも柔らかいもの食べるんだな」
「干し肉と酒しか飲まないのかと思ってた」
「まって、あのお姉さん泣いちゃうんじゃない?怖くて」
「ああ、俺たちのヒューゴは普段も迫力が滲み出てるからな、お姉さん震えてしまうな」
「本当は正義の味方なんだって俺たちが説明しに行こう!」
ヒューゴが会計の順番が来た
お姉さんと視線を合わせて、固まっている。
「あ、お姉さん止まっちゃった」
「震えてるか?」
「震えてる」
「やっぱり、俺らが行かないと」
「違う。ヒューゴの手が、トレイが震えてる」
子供たち、ガラスにくっついた。
「何やってるのあんた達」
買い物中の母親二人が子供のそばにやってきた。
店を覗きこむなんて!と走ってきた。
「ヒューゴさんがパン屋に?珍しいけど、パンくらい良いじゃない。ほら、帰るわよ」
「ん?ああ、マリアさんだっけ。見つめあって、ああ、そういうこと!」
顔を赤くして二人が何か話しているのを見て、母親達は察した。
そして、邪魔をしないように今度こそ子供達をガラスからはがして連れかえった。
「ヒューゴさん女性に奥手だったのね。マリアさんに会いにパン屋に通うなんて、可愛い!」
「マリアさんも絶対ヒューゴさんのこと好きだよね。巡回の時にもう、ヒューゴさんしか目に入らないって感じでキラキラしてる」
「この前、巡回の時にヒューゴさんが片手で口を覆って、マリアさんに、小さく手を振ってたわよ!」
「きゃー!
ギャップ萌え!!」
母親達の間で二人の進展を見るのが流行した。
「はー、若い人は良いわねえ」
他にもパン屋の並びにある店の人や街の住人も二人を微笑ましく見ていた。
一年以上前からである。
結婚しないのか?あの二人。
そろそろじゃない?
みんな盛大にお祝いしたくてウズウズしていた。
「マリアさんため息ついてたわよ!ヒューゴさん、もしかして結婚する気ないのかしら」
「いや、この前うちの赤ん坊を見て蕩けそうな顔してたわよ!だから子供は兄弟も必要だから、早めに産んで良かったって言ってやったわ!」
「私もヒューゴさんに、独身の時にアパートに不審者が出て怖くなったから旦那と一緒に住むことにして入籍したって、言ったんだけど」
「どうだった?」
「眉間にシワを寄せてたわ」
「私は、マリアちゃんがモテるって話をさりげなくしといたわよ」
「ありがとうございます」
えっ?
と振り返ったら
「ま、マリアさん!」
にっこりと微笑むマリアが立っていた。
パン屋の外のテラスに作られたイートインスペース。今日はマリアが休みと聞いて、つい噂話をしてしまった。
母親たちは、青ざめた。
「ごめんなさい、私たち余計なことを」
「いえ、皆さんのような、既婚者の知恵は参考になります。」
お茶のおかわりを全員の分運んできて、自分も座る。
マリア、私服のときは余計にキリッとしている。
「ヒューゴさんではなくて、私のほうから効果的な方法があれば教えてください」
マリアは頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください!」
「私、どんな手を使っても絶対にヒューゴさんと結婚したいんです。」
その迫力に母親達は震えた。
感動で。
かっこいいわ!マリアさん!
「ヒューゴさん、マリアさんに充分メロメロに見えるけど、任せて!もし恋人のままが良いな~なんて生温いことを思ってるならガツンと人生設計するように仕向けましょう!」
マリアに最強かもしれない後ろ楯が生まれた。
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