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龍の花嫁
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玄関まで見送りに出てきたリナに今月の休みを紙に書いて渡した。何度も何度も眺めて抱き締めて嬉しそうに笑った。付き合ってる男の休暇を知るということは当たり前なのに、こいつは初めてなんだった。
娼婦たちは待つばかりだったな。付き合うという感覚もないだろう。
いや待て、俺もないな?
この地に配属されてからそういういわゆる男女の付き合いをしたことはない。
まあいいか。
リナは他を知らないからなんとかごまかせるだろう。
どうせ嫁になるし。
「やっぱり来月って長すぎるな。来週、いや今日連れて帰って宿を取って」
パコーン、と後頭部を叩かれた。
「ほほほほ、お戯れをカイ様。宿など無駄遣いをするくらいなら新居の頭金になさいませ」
下駄!
下駄で客の頭をはたきやがった!
「女将……、ずいぶんと扱いが」
「お客様ではありませんので、媚をうっても他の娘を買ってお金を落としてくれるわけでもないですし」
笑顔が怖い。
「三日後、迎えに来るから街に買い物に行こう」
「はい」
頬に軽くキスをすると、赤くなる。
頭を撫でてやると、笑った。
「早く仕事行ってください、こっちはみんな今から寝るんだから」
お姐さんたちがあくびをしたり手で追い払ったりしている。
「お前ら、出てこなくてもいいだろう。化粧剥げてんぞ」
「客じゃないし、将来も客にならない男につける白粉も惜しいわ。」
「上客連れてきてね、カイ様。騎士団なのに友達いないの?」
「もうちょっと甘さ押さえないと仕事場で気持ち悪いですよ」
こいつら
リナをもう一度抱き締めて、気持ちを浄化して離れた。
ーーーーーーー
カイが完全に見えなくなってから
「おめでとう!リナ!!」
みんなに抱きつかれて、揉みくちゃにされていた。
「ありがとうございます」
「さあ、来月まで特訓よ」
???
「仮にも娼館育ちで旦那に飽きられて浮気なんかさせたらダメよ」
姐さんたちの目が怖いです
ーーーーーーー
三日後、休みの日に迎えに来たカイは
普通のワンピースを着たリナに目を見開いていた。
「変ですか?」
「いや、可愛い。そういう服を買いにいくか?」
「昼間のお使いは私がしてたので、前は街に出てたんですが、最近はよくわからなくて。」
「何かしたいことはあるか」
「したいこと、あるんですが」
やけに恥ずかしがるので、これは予定変更してどこか連れ込んだりしていい感じのお願いだろうかと思っていたら
「お料理を、できるようになりたくて。カイさまに食べてほしいです」
可愛すぎて目眩がした
「あっ、でもやったことはほとんどなくて。調理場で酒菜を教えてもらおうと思って見せてもらってます。で、その
包丁とか道具を自分専用のものが欲しくて。ダメですか?」
ダメじゃないけど、ちょっとダメかもしれない。可愛すぎて怖いこいつ。
「お前と暮らすことだけ考えて浮かれてたけど、衣食住って毎日のことだよな。考えてくれてありがとう。
俺も詳しくわからないから、何でもありそうな商会にとりあえず行ってみるか?もし専門的なものが後々必要になっても紹介してくれるだろうし」
今住んでるところには台所すらない。
そうか、家の値段もそういう設備で跳ね上がるんだろうな
嫁貰うってよく考えなくても大変なことだな。
ヒューゴの実家の商会に行った。
ーーーーーー
ほぼ1ヶ月で準備を終えた。奇跡的に新居を押さえることができたのはヒューゴの兄のお陰だ。
若夫婦向けの集合住宅もあったが、リナにいくつか見てもらった中で選んだのは、小ぢんまりとした借家だった。
元は大きな屋敷の敷地内にある別宅。愛人でも囲っていたのか台所も風呂もトイレもある。
持ち主は転々として、元使用人の老夫婦が屋敷も管理していた。
屋敷は取り壊されている。庭石と樹木は残っている。
「なんか不思議な家だな。昔話に出てきそうな」
「可愛いです。古くて」
リナが気に入ったなら、と決めた。借家だが自由に内装を替えたりしていいそうだ。
今日はリナが娼館を出る日。
カイは着飾ったリナを久しぶりに見た。
白い衣装、色とりどりの簪。
色紐。
餞の装いで、
笑っていた。
夜の世界から青空に飛び立つ蝶のように。
「カイさん!」
走って寄ってくる
「リナ、いつもより髪が重いから気をつけて!」
姐さんの声が届く前にリナがよろける。
瞬時に腕をつかんで、カイが抱き上げた。
そのままくるくると回ると衣装の裾が翻る。
「カイさん、早いよ、目が回っちゃう」
クスクス笑いながらキスをする。
「幸せにしないと許さないって言おうと思ったけれど、もう充分って顔ね」
リナを見て、姐さんたちも笑顔になる。
「ねえ、龍ってさ」
「伝説の?」
「めちゃめちゃ番を溺愛して嫉妬深いらしいわよ」
「ピッタリじゃない」
撒かれた酒も花びらも嬉し涙もキラキラして、
本当に門出に相応しい日だった。
【完】
娼婦たちは待つばかりだったな。付き合うという感覚もないだろう。
いや待て、俺もないな?
この地に配属されてからそういういわゆる男女の付き合いをしたことはない。
まあいいか。
リナは他を知らないからなんとかごまかせるだろう。
どうせ嫁になるし。
「やっぱり来月って長すぎるな。来週、いや今日連れて帰って宿を取って」
パコーン、と後頭部を叩かれた。
「ほほほほ、お戯れをカイ様。宿など無駄遣いをするくらいなら新居の頭金になさいませ」
下駄!
下駄で客の頭をはたきやがった!
「女将……、ずいぶんと扱いが」
「お客様ではありませんので、媚をうっても他の娘を買ってお金を落としてくれるわけでもないですし」
笑顔が怖い。
「三日後、迎えに来るから街に買い物に行こう」
「はい」
頬に軽くキスをすると、赤くなる。
頭を撫でてやると、笑った。
「早く仕事行ってください、こっちはみんな今から寝るんだから」
お姐さんたちがあくびをしたり手で追い払ったりしている。
「お前ら、出てこなくてもいいだろう。化粧剥げてんぞ」
「客じゃないし、将来も客にならない男につける白粉も惜しいわ。」
「上客連れてきてね、カイ様。騎士団なのに友達いないの?」
「もうちょっと甘さ押さえないと仕事場で気持ち悪いですよ」
こいつら
リナをもう一度抱き締めて、気持ちを浄化して離れた。
ーーーーーーー
カイが完全に見えなくなってから
「おめでとう!リナ!!」
みんなに抱きつかれて、揉みくちゃにされていた。
「ありがとうございます」
「さあ、来月まで特訓よ」
???
「仮にも娼館育ちで旦那に飽きられて浮気なんかさせたらダメよ」
姐さんたちの目が怖いです
ーーーーーーー
三日後、休みの日に迎えに来たカイは
普通のワンピースを着たリナに目を見開いていた。
「変ですか?」
「いや、可愛い。そういう服を買いにいくか?」
「昼間のお使いは私がしてたので、前は街に出てたんですが、最近はよくわからなくて。」
「何かしたいことはあるか」
「したいこと、あるんですが」
やけに恥ずかしがるので、これは予定変更してどこか連れ込んだりしていい感じのお願いだろうかと思っていたら
「お料理を、できるようになりたくて。カイさまに食べてほしいです」
可愛すぎて目眩がした
「あっ、でもやったことはほとんどなくて。調理場で酒菜を教えてもらおうと思って見せてもらってます。で、その
包丁とか道具を自分専用のものが欲しくて。ダメですか?」
ダメじゃないけど、ちょっとダメかもしれない。可愛すぎて怖いこいつ。
「お前と暮らすことだけ考えて浮かれてたけど、衣食住って毎日のことだよな。考えてくれてありがとう。
俺も詳しくわからないから、何でもありそうな商会にとりあえず行ってみるか?もし専門的なものが後々必要になっても紹介してくれるだろうし」
今住んでるところには台所すらない。
そうか、家の値段もそういう設備で跳ね上がるんだろうな
嫁貰うってよく考えなくても大変なことだな。
ヒューゴの実家の商会に行った。
ーーーーーー
ほぼ1ヶ月で準備を終えた。奇跡的に新居を押さえることができたのはヒューゴの兄のお陰だ。
若夫婦向けの集合住宅もあったが、リナにいくつか見てもらった中で選んだのは、小ぢんまりとした借家だった。
元は大きな屋敷の敷地内にある別宅。愛人でも囲っていたのか台所も風呂もトイレもある。
持ち主は転々として、元使用人の老夫婦が屋敷も管理していた。
屋敷は取り壊されている。庭石と樹木は残っている。
「なんか不思議な家だな。昔話に出てきそうな」
「可愛いです。古くて」
リナが気に入ったなら、と決めた。借家だが自由に内装を替えたりしていいそうだ。
今日はリナが娼館を出る日。
カイは着飾ったリナを久しぶりに見た。
白い衣装、色とりどりの簪。
色紐。
餞の装いで、
笑っていた。
夜の世界から青空に飛び立つ蝶のように。
「カイさん!」
走って寄ってくる
「リナ、いつもより髪が重いから気をつけて!」
姐さんの声が届く前にリナがよろける。
瞬時に腕をつかんで、カイが抱き上げた。
そのままくるくると回ると衣装の裾が翻る。
「カイさん、早いよ、目が回っちゃう」
クスクス笑いながらキスをする。
「幸せにしないと許さないって言おうと思ったけれど、もう充分って顔ね」
リナを見て、姐さんたちも笑顔になる。
「ねえ、龍ってさ」
「伝説の?」
「めちゃめちゃ番を溺愛して嫉妬深いらしいわよ」
「ピッタリじゃない」
撒かれた酒も花びらも嬉し涙もキラキラして、
本当に門出に相応しい日だった。
【完】
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デロデロですやん🤣
幸せに…( *˙ω˙*)و グッ!
ありがとうございます!デロデロです。「俺たちの幕間~」でもデロッデロですので、良かったらどうぞ🎶