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龍の一族

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リナが眠ったあと、女将と話をするために一階に降りた。

「女将、チャンスをくれて感謝する」

「まあチャンスがあってもモノにしないような方には持ちかけません」

「で、教えてくれ。いくらだ」

「まあ、性急な。
お茶を運ばせますので話はそれから」

「一生かかっても払う。」

カイは、耳飾りを触った。
それは無意識にだった。

「その龍の紋章を手放すつもりですか」

どう答えるべきか。
それくらい覚悟があると言う方が印象は良くなるのだろうか。
いや、商売だ。
印象で左右されることなどない。
あったとしても誤差の範囲。

この即答しない間さえも値踏みされている。

「必要とあれば、先で手放すことも考えている。担保として認めてくれるところから金を借りることも考えた。」

「なるほど、カイ様は正直な方ですね」

女将はゆっくりと茶を飲んだ。

「こちらも率直に言いましょう。身請け先が倒れたら困ります。それを持っている限り、カイ様は一生食いっぱぐれが無いというのが私たちの考えです」

龍の末裔だとする東の大陸の帝国皇室。その国は滅びたが、一族に伝わる龍の紋章はどの国でも通れる通行手形とされている。あちこちに散らばった帝国の民が手助けをしてくれることもある。

歴史の中で他人に奪われても、不思議なことに一族のもとに戻ってくる。
カイのものはピアスに加工してある。
貿易や商会の者なら喉から手か出るほど欲しがるだろう。

容姿、言語、龍の紋章。
それを生かして仕事につくことができる。
女将が食いっぱぐれがないというのはその点では合っている。

「リナの身請け金だけで手放されては困りますね。
普段のお給料でご用意下さい。」

カイは女将の提案に反対する気はない。
だが、額による。

スッと女将が紙を差し出した。

「これ、分割か?」

「いえ。総額です」

「桁が違うだろ」

「これで、リナをあなたに託します」

安すぎた。
騎士団の給料の二ヶ月分程だ。
ちょうど、カイの行っていた特別任務手当と同じくらい。

「お金は必要なときにお使いくださいと言いましたでしょう?カイ様には『娼婦のリナ』ではなく、これからのリナのためにお金を使っていただく方が重要ですので」

「しかしこれは」

「……あの娘は、うちに置いておきたい才能があります。それでもあの子がカイ様を望んだので送り出すのです」

「才能?あいつに娼婦は無理だろう」

「だから女将修業をさせてみようかと思ったのです。

うちには、十人を越える娼婦がいます。
リナは、全ての娼婦がお客様に前回会ったときの衣装や簪がどれだったか覚えているのですよ。」

「全て?」

「お好みを把握することもあれば、別人のように装いを変えることもできます。経営者としては娼婦を増やすよりお客様に『見たことのない娘がいる』と思わせられれば宜しいので助かりました。」

「すごいな」

「その金の卵が男に惚れるだなんて誤算ですが」

女将の湯飲みを握る手が力強い。
「それは……すまない」

「幸せにしてくれないと、ここの女たちが許しませんので。どうぞそのつもりで」

女将は座布団から降りてカイに手をついて頭を下げた。

カイも騎士の正式な礼をした。

リナを迎える日は来月の吉日となった。

ーーーーーー

部屋に戻ると、リナは眠っている。布団から出た肩が丸い。
猫みたいに丸まって可愛い。

そう思って、ぎょっとする。

こんな、普通に可愛い可愛いとかもし口から漏れ出したら

アイツみたいじゃないか
彼女が出来てから人が変わってしまった無口な友人を思い出した。
断じてああはなりたくない。
あんな、でろでろに女の惚気をするなんて最早公害じゃないか。

「カイ……さ」

リナがもぞもぞした。
寝言だ。

可愛いいい、ぃ

違う。これは惚気じゃない。俺はデレデレしてない。こいつが可愛いのは単なる事実で俺の目が変わった訳じゃない。
ヒューゴみたいに他人に言うのが問題なだけで、リナ本人に言うのは構わない。
アイツは彼女の前で緊張してカッコつけて誉めないから、脳内がピンクに染まってる。それを周りに垂れ流してる。
ということは、リナに直接可愛いと言えば俺はヒューゴみたいなピンク公害野郎にならずに済むんじゃないか。

よし。
可愛がろう。

ーーーーーーー

朝、食事を運んだ下働きの子がお姐さんたちに囲まれていた。
「どうだった?リナは?抱き潰されてない?」

「すごかったです」

「またリナがひどい目に!?あの蛇男め、加減を」

「いえ、膝に乗せてご飯を食べさせて、ひたすら甘いことを言ってリナさん溶けそうでした。」

「誰そいつ」

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