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9.

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「おなかすいた」

色々と貪るように再会の熱に溺れていたら
昼御飯を食べるのを忘れていた。
「……ろくなもの置いてないけど」
ジオスがチーズとオレンジをもってきてくれた。

二人で分けて食べて、指を舐められた。
「……っ、ダメ!」

「オレンジの汁がついてたから。期待してんの?」

「してないわよ!」
ボスッと枕をジオスの顔に当てる

こんな、だらしないのは自分らしくない。
もっと、毅然としていたいのに。

「ごめん、調子に乗った。外になにか食べに行こう」

頭を撫でてくれる手が優しいから。
やっぱりこの人が特別なんだと思う。
今までの恋愛みたいに駆け引きをする
余裕もなくて、グズグズでカッコ悪いところばかり出してしまっている。

「……好き」

ビクッと手が止まった。
「好き、なの」

「……俺も、もっとちゃんと……仕事が軌道にのったら会いに行こうと思っていた。
でも、団長が結婚するって、聞いて。王宮に部外者が行ける機会ができたから、我慢できなかった」

ジオスは立ち上がって、引きだしから数個の容器を持ってきた。
「これは、義姉のアイデアでラベルを貼ったんだけど」

『ひとりで泣いてないか?』
『頑張りすぎてない?』

『ちゃんと見てるから』

クリームを手のひらに乗せられた。

「ずっと作りながら君のことを考えていた。」

今までにないくらい、まっすぐ視線を合わせてくれる。
「もっと、ちゃんとしたプロポーズをするから。予約だと思って」

ぎゅっ、と抱き締められた。
「……バカ」


絆されたといえば、そうなのかもしれない。

それでも、温もりが嬉かった。

三ヶ月後。
ジオスの作るクリームは人気で、もうすぐ専門店を開こうかと思っているらしい。
「売り子で店に女性がいてくれると良いんだけどな」
「王宮の侍女に人気の品っていうのも売り上げに貢献するんじゃない?」

「そうだな」

カトリーヌは仕事を辞める気はないし、ジオスも誇りをもって働く彼女を愛している。

もう、夜に泣いていたカトリーヌはいない。

ジオスは時々思い出す。

キリッとした美人だなと時々見ていたカトリーヌが、月の光のもとグズグズと泣いていたのを。

俺だったら、とても大事にするのに。
彼の浮気の愚痴を聞きながら、口にだせない思いを膨らませた。

その頃があるから、今の幸せが余計にわかる。

団長ありがとう。お陰で再会できた。
「ジオス?また考え込んでたの?」

「あー、うん新作をちょっとな。」

二人の穏やかな時間を満喫するために
記憶をそっと閉じた



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