モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
7 / 284
第1章 悪役令嬢は目立ちたくない

第6話 とにかく謝るが勝ちよ!

しおりを挟む
 まだ教室がざわざわと騒がしい中、帰り支度をしていると、数学の先生に代わって担任のエライシャ先生が教室に入ってきた。

 「今日の授業は終わりですが、皆様に一件ご連絡がございます。春のピクニックの事です」

 先生がそう言うと、わっとクラスから嬉しそうな声が響いた。

 「この学園では、一年生は毎年5月に春のピクニックを行っています。日程は来週の木曜日。服装は自由ですが動きやすい恰好で来るように。持ち物は特にありません。昼食やお茶もこちらで用意してますからね。いつも教室に来る時間に校庭に集まり、そこからは馬車で行きます」

 クラス中で「どんな服着ていく?」や「場所はどこかしら?」と楽しそうな声があがる。

 だが、私はクラスの子達とは別の意味で興奮していた!

 (こ、これは!『ドキドキハプニングピクニック』イベントではないですか!?)

 乙女ゲームのヒロインと攻略対象が仲良くなる為のイベントで、このピクニックでは様々なハプニングが起きるのだ。

 (凄い!やっぱりちゃんとゲームのシナリオに沿ってるんだ)

 ゲームファンとしては非常に胸が高ぶるのだが、私はそこではっと我に返った。

 (いやいやいや、私は悪役令嬢アリアナだよ!?ゲーム通りだなんて浮かれてる場合じゃない!)

 良く考えれば、イベントではヒロインと攻略対象の好感度は上がるかもしれないが、アリアナの破滅ルートの可能性だって高まるかもしれないのだ。

 (こ、これはなるべく巻き込まれないようにしないと・・・)

 そんな事を考えていると、エライシャ先生は、

 「馬車は6人乗りを6台用意します。皆様それぞれ希望があるでしょうから、組み分けはお任せします。組み分け表を置いて置きますから、今週中に書いておいてくださいね」

 そう言って、教室を出ていった。

 (あ~~~、マジかぁ・・・)

 自由な組み分けなんて「ぼっち」にとっちゃ地獄デスヨ。地獄!。

 私は額を押さえて下を向きながら顔をしかめた。

 周囲では和気あいあいと馬車に乗る仲良しメンバーが決まっていってる。このクラスは32人だから馬車6台なら5人グループが2組できるわけで・・・

 (こうなったら5人になったグループに、お願いして入れてもらおう・・・)

 どんよりした気分でそう思っていたら、

 「あ、あの・・・アリアナ様?」

 「はい!?」

 後ろから話しかけられて、私はびくっとした。振り返るとそこには3人の女生徒が立っている。

 そしてその中の一人・・・栗色の髪の小柄な少女がおずおずと私に話しかけて来た。

 「あ・・・あの宜しければ、アリアナ様、私達と一緒のグループになりませんか?」

 「えっ!?」 

 (だ、誰だっけ?この子。まだクラス全員の名前を覚えてないんだよな・・・)

 でもそんな事はどうでも良い!どのクラスにも天使の様に優しい子は、やはり居るのだ!

 私は心の中で「イエーイッ」と叫びながら、

 「あ、ありがとうございます!まだクラスに馴染めてなくて・・・どの組に入れて貰おうかと悩んでいたのです」

 そう言うと、その女生徒も私に初めて話しかけるので緊張していたのだろう、ほっとしたように微笑んだ。栗色のゆったりとした巻き毛に、少したれ気味の瞳も栗色だ。見るからにやさしそう。

 「これで私達の組は6人ぴったりね」

 もう一人、明るい赤毛のくせ毛をポニーテールにした女生徒が言った。ちょっと勝気そうな青みがかった灰色の瞳をしている。

 そして、もう一人は長いストレートの黒髪と黒い瞳が印象的な美人だ。背も3人の中で一番高く、スラリとしている。何故なのか、楽しそうにしている他の二人と違ってなんだか浮かない顔だ。

 でも、本当にありがたい!助かった!・・・それなのに大変失礼な事だが、3人の名前を私は全く知らないのだ。

 なので、失礼を承知で聞いてみる事にした。

 「あの・・・大変申し訳ないのですが、私はまだクラスの皆様の名前を覚えきれていないのです。宜しければお名前を教えて頂けないでしょうか・・・?」

 「まぁ!そうですわよね。アリアナ様は入学されてまだ1週間ですもの。当然ですわ!私はミリア・バークレイです。父はバークレイ伯爵です」

 栗色の巻き毛の女生徒、ミリアはにっこり笑った。

 「私は、ジョージア・キンバリー。父はキンバリー伯爵をたまわってるわ」

 赤毛の女生徒、ジョージアはハキハキした声でそう言った。

 (ミリアとジョージアね・・・二人とも伯爵令嬢と。よし、覚えた!)

 もう一人は・・・?と黒髪の子に目を向けると、彼女はなんだか気まずそうな顔をしている。

 「ほら、レティ。あなたも早く自己紹介しなさいよ」

 ジョージアがそう言うと、レティと呼ばれた女生徒はちょっと困ったような顔で言った。

 「あの・・・はい、私はアーキン子爵の娘のレティシアです。その・・・以前、アリアナ様とはお目にかかったことがございます・・・。」

 (えっ!?)

 ぎくっとした。アリアナと会ったって事は、それは私になる前のアリアナって事よね?

 レティシアは続けた。

 「その・・・その時私は、アリアナ様のご不興をかったようで・・・、あの・・・」

 (うあ~やばい、やばい、やばい!これはもう・・・)

 私は急いで彼女に頭を下げた。

 「ごめんなさい!その節は失礼を致しました!どうかお許しください!」

 先手必勝!昔のアリアナが何をしたのかは覚えていないが、何せ傲慢で我儘で嫉妬深い悪役令嬢だ。ろくな事はしていないだろう。

 とにかく謝るが勝ちよ!
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...