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第1章 悪役令嬢は目立ちたくない
第16話 ヒロインと湖
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幸いボート乗り場にはボートが1艘だけ残っていた。
(ボートで湖に出てしまおう!そうすれば奴らと関わらなくて済む)
そう思ってボートに乗ろうとしたところで、リリーに追いつかれてしまった。
「ア、アリアナ様!」
(げ!リリー、早っ!)
見るとリリー越しに、少し離れてディーンやパーシヴァルが向かってくるのが見える。
(えーい、こうなったら!)
「リリー様!一緒にボートに乗りましょう!」
「えっ?」
戸惑うリリーを引っ張って、私は無理やりボートに乗り込んだ。そして下手っぴながらもオールを使って、湖の中心に向かって漕ぎ出した。
初めて漕いだにしては、私とリリーを乗せたボートはスムーズに岸から離れていく。
「―――っ!」
ディーン達が岸で何か言ってるのが聞こえたが、完全に無視してやった。
少し右に曲がっていくと岸辺に立っている大きな木のおかげでディーン達の姿も見えなくなり、私はやっとここで一息ついた。
(ふう、やれやれ・・・)
「あの・・・アリアナ様?」
(あっ、しまった!リリーの事すっかり忘れてた)
あたふたと説明しようとしたけど、どう言って良いのか分からない。
「ご、ごめんなさい!リリー様。いきなりボートに乗せたりして。あの、ちょっとこれには訳があって・・・その・・・」
しどろもどろな私に、リリーは少し首を傾げながらもふわりと笑った。
「大丈夫ですわ、アリアナ様。私、アリアナ様とボートに乗れてうれしいですから」
「えっ?」
「私、学園に女の子の友達が誰も居なくて・・・。ピクニックに来るのも少し憂鬱だったんです」
リリーは少し寂しそうに目を伏せた。
「でも今日はアリアナ様とこんな風に過ごせて、ミリア様達とも親しくなれましたし、とても楽しいんです」
「リリー様・・・」
「だから、ありがとうございます。アリアナ様」
少し頬を染めて花のような笑みを浮かべ、私をまっすぐ見るアリアナ。
(ぐっ、可愛いっ!)
ヒロインの魅力アタックを受けるのはもう何度目だろうか?
どこまでも青い空、美しい山々、透き通った湖の景色、そして美しい微笑みを浮かべるヒロイン・・・
私が攻略相手だったら瞬殺じゃ!
(アリアナも大変だったろうな・・・。こんなヒロイン相手に戦わなきゃいけなかったんだもんね。なんだかアリアナがちょっとだけ可哀そうになって来たよ、ははは・・・)
見た目だけならアリアナだって十分可愛い。でもヒロインの魅力は容姿だけじゃない。内面から湧き出る輝きなのだ。
(それに性格も良いでしょ。勉強も出来るし、魔力も強くて・・・おまけに2年生になってからは聖女候補だもんねぇ。敵うわけ無いじゃんよ)
「アリアナ様、どうかされましたか?」
黙ってしまった私に、リリーが心配そうに聞いてきた。
「何でもないです。私もリリー様とお友達になれて本当に嬉しいですよ」
うん、これは嘘じゃない。
(そうだよ。逃げ回ったり戦かったりなんて、別にしなくてもいいじゃん)
普通に仲良くすればきっと楽しい。そりゃ、ディーンの事があったからアリアナには出来なかっただろう。
だけど私はリリーが好きだ。
ゲームをやってる時は自分がヒロインだった。こんな女の子になりたいって憧れた。
どういう因果か悪役令嬢になっちゃったけど、今ならまだアリアナだってやり直せるだろう。
(大丈夫!私がちゃんとやってみせるさ!)
そう強く思った。
私達はしばらく湖の上で雑談していた。だけどそろそろ戻った方が良いかもしれない。
(何も言わずに来たから、ミリア達が心配してるかもなぁ)
それにさすがにディーンもパーシヴァルも、ずーっとボート乗り場で待ってやしないだろう。奴らはモテモテの人気者なのだ。周りにいる女生徒達がフリーで放っておくはずがない。
「リリー様、そろそろ戻りましょうか?」
「そうですね、皆さんも探してらっしゃるかもしれません」
リリーも同じように思っていたようだ。
「アリアナ様、今度は私が漕ぎます。場所を変わりましょう」
「えっ、良いのですか?」
「はい。私、結構ボートを漕ぐのは慣れてるんですよ」
リリーがそう言ってくれたので私達は場所を変わる事にした。
バランスの悪いボートの上だ。揺らさないように中腰で場所を移動しようとした時、私は持っていたオールの先を間違えて上に待ちあげてしまったのだ。そして池の水を跳ね上げてしまい・・・
「きゃっ!」
「あっ」
跳ね上げた水は私たちの近くでボートに乗っていた二人組の女生徒に、見事にかかってしまったのだ。
「ご、ごめんなさいっ!」
「も、もう、何をなさるのっ!気を付けてくださいませっ!」
強い口調でそう言いながら女生徒はこっちを睨んだ。そして私達を見てふと気が付いたように、
「あら、リリー・ハートさんじゃない。さすが平民出なだけあって、なさる事ががさつですこと!」
その言い方にかちんときた。
(嫌な言い方をするなぁ。何なの?この子もリリーをイジメる悪役令嬢なわけ?)
「・・・すみません、水をかけたのは私です。リリー様ではありませんわ。」
私がそう言うと、もう一人の女生徒がこちらの方を見て、
「あら、お嬢ちゃんはどなた?小さいお子様にはこの学園のピクニックはまだ早いのではなくて?」
そう言って二人でクスクス笑い出したのだ。
(ボートで湖に出てしまおう!そうすれば奴らと関わらなくて済む)
そう思ってボートに乗ろうとしたところで、リリーに追いつかれてしまった。
「ア、アリアナ様!」
(げ!リリー、早っ!)
見るとリリー越しに、少し離れてディーンやパーシヴァルが向かってくるのが見える。
(えーい、こうなったら!)
「リリー様!一緒にボートに乗りましょう!」
「えっ?」
戸惑うリリーを引っ張って、私は無理やりボートに乗り込んだ。そして下手っぴながらもオールを使って、湖の中心に向かって漕ぎ出した。
初めて漕いだにしては、私とリリーを乗せたボートはスムーズに岸から離れていく。
「―――っ!」
ディーン達が岸で何か言ってるのが聞こえたが、完全に無視してやった。
少し右に曲がっていくと岸辺に立っている大きな木のおかげでディーン達の姿も見えなくなり、私はやっとここで一息ついた。
(ふう、やれやれ・・・)
「あの・・・アリアナ様?」
(あっ、しまった!リリーの事すっかり忘れてた)
あたふたと説明しようとしたけど、どう言って良いのか分からない。
「ご、ごめんなさい!リリー様。いきなりボートに乗せたりして。あの、ちょっとこれには訳があって・・・その・・・」
しどろもどろな私に、リリーは少し首を傾げながらもふわりと笑った。
「大丈夫ですわ、アリアナ様。私、アリアナ様とボートに乗れてうれしいですから」
「えっ?」
「私、学園に女の子の友達が誰も居なくて・・・。ピクニックに来るのも少し憂鬱だったんです」
リリーは少し寂しそうに目を伏せた。
「でも今日はアリアナ様とこんな風に過ごせて、ミリア様達とも親しくなれましたし、とても楽しいんです」
「リリー様・・・」
「だから、ありがとうございます。アリアナ様」
少し頬を染めて花のような笑みを浮かべ、私をまっすぐ見るアリアナ。
(ぐっ、可愛いっ!)
ヒロインの魅力アタックを受けるのはもう何度目だろうか?
どこまでも青い空、美しい山々、透き通った湖の景色、そして美しい微笑みを浮かべるヒロイン・・・
私が攻略相手だったら瞬殺じゃ!
(アリアナも大変だったろうな・・・。こんなヒロイン相手に戦わなきゃいけなかったんだもんね。なんだかアリアナがちょっとだけ可哀そうになって来たよ、ははは・・・)
見た目だけならアリアナだって十分可愛い。でもヒロインの魅力は容姿だけじゃない。内面から湧き出る輝きなのだ。
(それに性格も良いでしょ。勉強も出来るし、魔力も強くて・・・おまけに2年生になってからは聖女候補だもんねぇ。敵うわけ無いじゃんよ)
「アリアナ様、どうかされましたか?」
黙ってしまった私に、リリーが心配そうに聞いてきた。
「何でもないです。私もリリー様とお友達になれて本当に嬉しいですよ」
うん、これは嘘じゃない。
(そうだよ。逃げ回ったり戦かったりなんて、別にしなくてもいいじゃん)
普通に仲良くすればきっと楽しい。そりゃ、ディーンの事があったからアリアナには出来なかっただろう。
だけど私はリリーが好きだ。
ゲームをやってる時は自分がヒロインだった。こんな女の子になりたいって憧れた。
どういう因果か悪役令嬢になっちゃったけど、今ならまだアリアナだってやり直せるだろう。
(大丈夫!私がちゃんとやってみせるさ!)
そう強く思った。
私達はしばらく湖の上で雑談していた。だけどそろそろ戻った方が良いかもしれない。
(何も言わずに来たから、ミリア達が心配してるかもなぁ)
それにさすがにディーンもパーシヴァルも、ずーっとボート乗り場で待ってやしないだろう。奴らはモテモテの人気者なのだ。周りにいる女生徒達がフリーで放っておくはずがない。
「リリー様、そろそろ戻りましょうか?」
「そうですね、皆さんも探してらっしゃるかもしれません」
リリーも同じように思っていたようだ。
「アリアナ様、今度は私が漕ぎます。場所を変わりましょう」
「えっ、良いのですか?」
「はい。私、結構ボートを漕ぐのは慣れてるんですよ」
リリーがそう言ってくれたので私達は場所を変わる事にした。
バランスの悪いボートの上だ。揺らさないように中腰で場所を移動しようとした時、私は持っていたオールの先を間違えて上に待ちあげてしまったのだ。そして池の水を跳ね上げてしまい・・・
「きゃっ!」
「あっ」
跳ね上げた水は私たちの近くでボートに乗っていた二人組の女生徒に、見事にかかってしまったのだ。
「ご、ごめんなさいっ!」
「も、もう、何をなさるのっ!気を付けてくださいませっ!」
強い口調でそう言いながら女生徒はこっちを睨んだ。そして私達を見てふと気が付いたように、
「あら、リリー・ハートさんじゃない。さすが平民出なだけあって、なさる事ががさつですこと!」
その言い方にかちんときた。
(嫌な言い方をするなぁ。何なの?この子もリリーをイジメる悪役令嬢なわけ?)
「・・・すみません、水をかけたのは私です。リリー様ではありませんわ。」
私がそう言うと、もう一人の女生徒がこちらの方を見て、
「あら、お嬢ちゃんはどなた?小さいお子様にはこの学園のピクニックはまだ早いのではなくて?」
そう言って二人でクスクス笑い出したのだ。
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