モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
70 / 284
第3章 悪役令嬢は関わりたくない

20

しおりを挟む
男子達と、馬に乗れるジョーとグローシアは、クラークの案内で少し離れた所まで遠乗りに行ってきたらしい。

「楽しかった~!でも凄くお腹が空いちゃった!。」

ジョーは満面の笑みで馬を降りた。グローシアもクラークと遠乗りに行けたのがうれしかったのか、ニコニコしている。
使用人に運んで貰ったお昼ご飯を、皆で存分に楽しみ、しばらく遊んだ後、私達は帰り支度を始めた。

「夕方近くになると、すぐに涼しくなって来るからね。」

クラークが馬の準備をし始めると、自分の馬を引っ張って来たノエルが、少しもじもじしながら、近づいてきた。

「あのさ、帰りは僕も、二人乗りしてみたいんだけど・・・。」

「ああ、良いんじゃないか。ノエルも馬を操るのが上手くなったよ。」

「うん、遠乗りして、だいぶ慣れてきたから。」

「そうか・・・、じゃあどうしょうかな・・・?」

と兄が考え始めたので、私はすかさず手を上げた。

「では、私がノエル様に乗せて頂きます。」

「えっ!?アリアナが。・・・大丈夫かい?」

クラークは心配そうにしたが、私は押し切った。

「ええ。ノエル様にぜひ乗せて頂きたいです!」

私がそう言うと、ノエルは喜んでにこにこし始めた。素直なノエルの顔を見て、私は少し良心がうずいた。なぜなら、本心では、もう一度パーシヴァルと一緒に乗るのが、気まずかった為なのだから・・・。

(だって、あんな事聞いて、何を話せば良いのよ・・・。)


喜んでいるノエルの横でミリアが難しい顔をしている。

「う~ん、ノエルにアリアナ様を任せるのは心配ですが、確かにアリアナ様以外ですと、ノエルは前が見えないと思います。」

ノエルの身長は、私よりちょっと高いくらいですからと言うミリアに、ノエルは「おい、ミリア~・・・。」と情けない声を上げた。

他の面々は、来た時と同じ組で帰るようだ。グローシアがまた、ミリアをジーっと見てはいたが・・・。

「では、ノエル様、よろしくお願いします。」

私はノエルの手を借りて、先に馬の上に乗った。そして、ノエルが私の後ろに乗り込もうとあぶみに足をかけた時だった。一匹の大きな虻が、ノエルに向かって飛んできたのだ。

「うわっ、なんだ・・・、くそ!こいつ。」

ノエルはそう言って、両手を振って虻を追い払おうとした。そしてそれと同時に、彼は誤って、あぶみにかけていた足で、馬の腹を思いっきり蹴ってしまったのだ。

「ブルルルルッ!」

「うわっ!」

「ひゃっ!」

馬は驚き、前足を上げた。ノエルはあぶみから足を踏み外し、地面に転がった。そして、興奮した馬は、私を背に乗せたまま、猛スピードで走りだしたのだ。

(うううううわぁ~~~~~~!!!!)

私は慌てて馬のたてがみにしがみついた。

「アリアナ!」

「アリアナ様!」

兄や皆の叫ぶ声が聞こえる。

(ちょ、ちょっと待って!待って!待って~!)

恐ろしい事に、馬は崖の方に一直線に向かっていた!

「危ない!」

「アリアナ様!!」

(うそうそ、止まって~~~~~!!)

すっかり頭に血が上った様子の馬は、あろう事か、崖をそのまま走り降りだしたのだ!


「ぎ、ぎゃ~~~~~~~~~~~!」

予想外の事に、私はあまり可愛くない叫び声を上げた。

恐怖のあまり目をつぶってしまったが、前のめりになりながらも、振り落とされない様に必死で馬にしがみついた。思いっきりたてがみを引っ張られて、馬もさぞかし痛かったであろう。

(む、無理無理無理~!もっ、これ以上は・・・。)

何度も言うが、アリアナ(私)は身体が小さくて、幼児体形で、非力なのだ。暴れながら崖を下り降りる馬に、振り落とされるのは時間の問題だった。その時、


「アリアナ!」


馬が蹴った石が転がる、ガラガラと言う音に混じって、私を呼ぶ声が聞こえた。

「アリアナ、手をっ!」

薄く目を開け、声の方を見ると、なんとディーンが自分の馬を操って、私の横で崖を下っていたのだ。そうして、私の方に手を伸ばしている。

(う、うそ、ディーン!?危ないって!)

「こっちに手を!」

ディーンは必死の表情で、私の馬に、自分の馬を寄せてきている。私はなんとか彼の方に手を伸ばそうと、片手を話した。その途端、


(あっ・・・)


激しく首を振った馬に、私の手は離れ、身体が宙に浮くのが分かった。


(終わった・・・。)


為すすべなく振り落とされた私は、地面に叩きつけられるのを覚悟した。
しかし、衝撃に備えて、ぎゅっと力を入れていた私の身体は、突如巻き上がった突風によってフワリと上に浮き上がった。

「う、うわっ」

(な。なにこれ?!)


考える間もなく、私は誰かの腕に抱き取られた。思わずその体にしがみつく。

「どう、どうどう・・・!」

頭の上で、ディーンの声が聞こえ、猛スピードで崖をを下っていた彼の馬は、速度を緩めた。

(サ、サーカス・・・。)

いつの間にか、馬は平地を歩いていた。私は心臓が破れそうなくらいバクバクし、今更ながらに身体がガタガタ震えだした。

「・・・怖かった・・・。」

ぽつりと言うと、涙がこぼれてきた。

(・・・も、もう駄目かと・・・う、うう。)


震えなが泣く私を腕に抱いたまま、ディーンは馬を止めた。そして、

「大丈夫・・・、もう大丈夫だから・・・。」

私の背中を、優しくぽんぽんと叩きながら、そう言った。


木漏れ日が落ちる森の中で、私達はしばらく動かず、そうしていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...