モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第3章 悪役令嬢は関わりたくない

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どれくらいたっただろう。私はやっと泣き止み、鼓動も通常の速度に落ち着いてきたのが分かった。そして、それと同時に、自分がおもいっきりディーンに抱きついている事に、やっと気付いた。

(や、やばっ・・・!)

恥ずかしさに、一気に頭に血が上って行った。

「すみません!・・・う、わわっ・・・。」

「危ない!」

慌てて体を話した途端、私は馬から落ちそうになり、ディーンが再び体を支えてくれた。

「・・・す、すみません。」

恐らく耳まで真っ赤になっている。

「ご迷惑を・・・。」

「いや、大丈夫。もう一頭の馬を探そう。」

ディーンの声は冷静だ。彼にとっては、なんてない事ないのだろう。

(勝手にしがみついて、勝手に意識して、13歳の男の子相手に・・・。)

羞恥心で爆発しそうだった。

ディーンは私を、自分の前にちゃんと座り直させると、馬をゆっくり進ませ始めた。
少し行くと、滝の音が聞こえてきた。

(こんな所まで戻ってたんだ!)

崖を走り降りた事で、一気に下山したのだ。

(みんな心配しているだろうなぁ。特にお兄様は・・・。)

きっと、急いでこちらに向かっている事だろう。
森を抜けると、イルクァーレ滝の姿が目の前に見えた。

「あっ、あそこに!」

滝の近くの水辺で、馬は水を飲んでいた。どうやらもう落ち着いているようだ。

「良かった。」

私はホッとして、肩の力を抜いた。

ディーンは馬に乗ったまま、滝へと続く小道を降りた。そして、先に馬を降りると、私の手を持って、乗っていた馬から降ろし、木陰に座らせてくれた。

「馬を見てくる。」

そう言って、水を飲んでいる馬に近づくと、怪我をしていないか、調べ始めた。

(そうよね・・・、私を乗せてあんな崖を駆け下りたんだもん。それに暴れていたしなぁ・・・。)

しばらくすると、

「大丈夫そうだ。少し蹄に傷があるけど、これくらいなら・・・。」

そう言って、もう一頭の馬にも水を飲ませながら、怪我をしていないか様子を見始めた。


(優しい人だ・・・。)


そうだ、ディーンはいつだって、誠実で優しい。アリアナを断罪するのも、本当はリリーの為の優しさなのだから・・・。

(・・・今の私とディーンの関係は、いびつだ。)

パーシヴァルの言う様に、もう彼を解放してあげるべきなんだ。


(アリアナ、お願い!。ディーンには、また助けて貰ったよ。・・・もう、ほんとに充分じゃない?)


私はゆっくりと立ち上がり、木陰を出た。近づく私に気付き、彼は真っすぐに私を見た。

「・・・どうした?」

「あの・・・、助けて頂いてありがとうございます。命の恩人です。それでその、こんな時になんですが、大事なお話があるのです。」

「・・・何?」

「あのですね。・・・その、私達・・・。」

(婚約を解消しませんか?)と言おうとした途端、声が出なくなった。

(ま、また!?。ちょっと、アリアナ!?)

どうして!?やっぱり、また邪魔をするの!?

でも、今度は息が出来なくなる事は無かった。そして、私の口から、私では無い誰かが言葉を出し始めたのだ。


「・・・ディーン様・・・。」

(えっ)

「・・・ディーン様に初めてお会いした時、・・・こんなに、きれいな男の子がいるんだって、一目で好きになりました・・・。」

(えっ?えっ?)

「そして、こんなにも優しくて素敵な人が、自分と仲良くなってくれたなら、私は友人など居なくても、幸せになれると思いました・・・。」

(これって・・・・・・アリアナ!?。)

「あさはかでした・・・。あさはかで、ただ、ディーン様をご不快にさせてしまいました。お許しください・・・。」


そう言って、アリアナはゆっくりと頭を下げた。ディーンは何も言わない。柔らかい滝の音だけが聞こえてきた。
私は胸が熱くなった。


(よ、よ、良く頑張った!アリアナぁ~~~!!!)

あんなに、我儘で、傲慢で、ディーンに執着していたアリアナが、ここまで人の気持ちを考えられるようになったのだ。

(アリアナ!あなたの気持ちは無駄にはしないよっ!)

私は顔を上げて、にっこりと笑った。目じりから涙が一筋零れ落ちた。アリアナが流した涙だった。
ディーンを見ると、凄く驚いた顔をしていた。そりゃそうだろう、いきなりこんな事言われたら、びっくりするよね。私は言葉をつづけた。

「ですから、婚約はディーン様のご都合の良い時に、解消してください。公爵家同士の約束は気にしなくても大丈夫です。私がちゃんと父に説明いたします!」

ディーンはしばらく黙っていたが、落ち着いた顔を私に向けた。

「リガーレ公爵の事は?。」

「ぐっ・・・、いえ、大丈夫です!自分で何とかします!」

(そうだ、もうディーンに迷惑かけちゃいけない。)


「そうか・・・分かった。」


ディーンはそう言って後ろを向き、滝を眺めた。遠くの方から、『アリアナ~』と呼ぶ兄の声が聞こえてきた。

「みんなが降りてきたようです。」

「ああ。」

ディーンはまだ滝を見ている。

「あの・・・、行きませんか?」

「君に・・・。」

「えっ?」

ディーンの声は小さくて、なんて言ったのか・・・、最後の方は滝の音に消されてまった。

でも、振り向いたディーンの顔は、今までで一番優しく微笑んでいた。
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